悪役令嬢はモブ化した

F.conoe

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恋に狂って奪った命を忘れてはいけない

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領兵と共に領館に帰ってきたお父様にぎゅっと抱きつきました。な、泣いてないわよ。泣かないわよこんなことで。でも嬉しいわ!

「ふふ、奥さんのことを思い出すな。意地っ張りでなかなか弱さを見せてくれないんだけど、たまにこうね、甘えてくるんだよ。アルリアは本当に母さん似だ」

前から似ているとは言われていましたけど、お母さま、そういうところもわたくしに似ていたの?
それで公爵夫人として普通に活動して、王妃様のお茶友達になってたの? こんな性格で? すごい……尊敬。生きていたならわたくしも貴族として生きるのが上手になるコツとか教えていただけたのかしら。

館の中では、お父様といろんな話をしましたわ。わたくしからはバロウと会ってプロポーズしたことなど話して「バロウは驚いたろうなぁ」と、お父様は同情気味な顔をしていましたわ。なぜ。
戦後処理があるのでお父様は再び王城へ。わたくしはわたくしの仕事にもくもくと励んで数日。

なんか殿下が来たんですけど。

婚約者時代より普通に話しかけられている気がするわ。

「何用ですの?」

テルナのいれてくれたお茶を飲みながら会談室で話をする。
はぁーお茶が美味しい。癒し。視界を封じたい。

「話を聞いてくれるか……?」

両足の上に拳をおいて、うつむきがちにしている殿下。赤茶の髪のつむじが見える。
弱り切っている殿下とかめっずらしー。おほほほ。

「どうぞ」

好奇心で聞いて差し上げても良くってよ。

なんでもあの戦で、マイヘル殿下は単騎(といいつつ護衛付きで)イーハー陣営に斬り込んだそう。奇襲ね。お父様からも聞いているわ。そのまま死んでくれてもいいなぁと思ってそうな顔でしたわ。なんてったって王子が奇襲作戦をするという無謀行為を、誰も強くは止めなかったんだもの。みんなの心は1つだったのね。

奇襲先で王子はイーハーの国王と剣を交えた。
そこに割り込んできたあの女ミレーナ。戦場にいたそうよ。相変わらず破天荒はてんこう。彼女に一騎討ちをとめられたそう。
『お願いやめて! もうやめて』だって。それで話をしたらしい。

『どうしても、ダメなのか。ミレーナ』

『ごめんなさい……でも私、もう』

とミレーナ元男爵令嬢が涙目でイーハーの国王の野生的な瞳を見たらしい。その目は完全に恋する乙女のそれで、殿下は心が折れたのですって。けっ

『アルリアも……こんな気持ちだったのかな。その男を殺してやりたいよ。でも、俺はアルリアのようにはならない。身を、ひくよ、君が好きだから……君の幸せを願うよ。幸せになるんだよ。ミレーナ』

わたくしをだしにしないでくださる?
軽くバカにしないでくださる?

『マイヘル……ありがとう』

いやいやいやいや意味がわからないわ。意味がわからないわ。なにこれ。ありがとうってなに!?

「殿下も怒りなさいよ!? なにいい子ぶってるの!? 不快じゃないの!?」

話の途中だけど、たまらず声を荒げてしまったわ。貴族教育かたなしね!

「彼女の幸せのためなら……」

いらっ。

「はぁあああ?? 大事な約束である婚約ひとつ守れないやつの幸せなんか願うんじゃないわよ! はっ!」

気づいちゃった。

「あ、殿下も婚約ひとつ守れなかったものね……共感したのね……納得したわ」

不快と怒りで逆立ちそうだった毛が、しゅーんと落ち着いた気がした。
そうよね、殿下も約束ひとつ守れない人間だものね。
約束ひとつ守らないことへの怒りがないんだわ。普通なんだわ。納得した。納得したわー。そっか。そうなのね。同類だから怒らないのね。怒ったら自分のことも責めることになるものね。精神安定のためには不貞を許すしかないんだわ。
なるほどー。
不誠実な人ってめんどくっさい性格してるわね!

「ぐ……そ、そういうわけでは」

「じゃあどうして怒らないの」

「だから、彼女の幸せを願ってだな」

「へぇー」

絶対信じないけど。言うだけ無駄だからいいわ。わたくしは勝手に納得したし。

「それでだな」

イーハー王国と不愉快な仲間たちの話は続く。お茶が美味しい。テルナが新しくついでくれたわ。おトイレ近くなりそうなくらい飲んでるわね私。はぁ

『ふんっ。身を引くってーなら、俺も追撃はやめてやろう。俺にはミレーナがいれば十分だからな。な? ミレーナ』

とイーハーの国王、今更だけど名前をカーグスという。カーグス国王がミレーナ元男爵令嬢の腰をぐいっと引き寄せて片腕で抱きしめたらしい。ぽっと顔を赤らめた姿は愛らしく、殿下の心はきゅうっと切なく鳴いたそうよ。うざい。

そんなこんなで意味不明なまま開戦した戦は意味不明なまま終了した。
我が国の死者300余名、イーハー王国側の死者250余名。
……納得いかないわ。

「ふられて、お前の気持ちがよくわかった。今更だが謝罪だけ。すまなかった。お前も傷ついていたんだな。アルリアの悲劇、今なら俺も観てみたい」

「あ、そう」

あきれすぎてまともな言葉が出てこない。
こんな王に従わなければならないなんて世の不運。
王家の権威を失墜させたいけど、それにより影響を受けるのは国民なのよね。国内派貴族の我が家は、私の改革により人々から一目おかれるようにはなりましたけど、王家との不仲も有名ですので王家の権威回復にはつながりません。

王家はどうでもいいわ。未来を予想して、国のためになる道はなに?
中央集権は、よほどの賢王が生まれない限りこのまま失敗の道を進むでしょう。
さすれば地方分権が進んで、貴族間格差が大きくなるわね。その間を取り持つ王家が使えないとなれば独立の機運が高まるのでは?
そうなっても我が領は繁栄できるだけの基盤をつくってはいるけれど、小さな貴族領地は大きな領地に吸収されるのかしら。

不良領地の押し付け合いが目に浮かぶわね…。搾取される未来もあるかもしれないわ。
そうなると犠牲者が増えすぎて夢見が悪いわね。

王家が無能で地方が強いのはいいですけど、王城の官僚、文官だけは有能であってくれないと貧民が困るのね。
でも優秀な人間ってそうそういないわよ。となると母数を増やして優秀な人材を発掘するべきね。
やっぱり平民教育が重要だわ。そして優秀なら権力の中枢近くにも採用されるようにしなくては。まずは我が領で実施して、王家に「こんなに優秀な庶民を育てましたのよー? あら、そちらまだ平民官僚ひとりもいないんですの? 遅れてますのねぇ、おほほほほ」って自慢してあおっておこうかしら。

「それで俺の婚約者の座が空いたから、お前と婚約し直せたらいいんだが」

「お断りします」

嫌よーこんなボンクラ支える王妃とかとっても大変じゃない!
やだわー。

「……そうか。俺も一番それがいいのだとは分かっているが、ミレーナをいじめたお前を妃にしたのをミレーナが知ったら悲しむだろうなと思ってさ、なるべく避けたかった。断ってくれてありがとう」

うざい。なにこのミレーナ至上主義うざい。軽蔑と失望と気持ち悪さでどんどん体感温度が下がっていくのだけど。

「これ以上わたくしの前であの女の話をしないでくださいません? 不愉快ですわ」

「あ! そ、そうか。そうだな。そうだよな。俺もミレーナがイーハー国王の話をしてきたら……いや、すまない。またミレーナのことを言ってしまった」

「それで、わたくしに断られて、これからどうしますの」

「国内派の貴族家の娘から順当な者を選んで婚姻することになるだろうな」

ということはいまだ婚約者がいない年代の娘。かなり年下になるんじゃないかしら。

「せいぜい若い子に愛想つかされないよう、いい男になることですね」

「いや、たぶん相手は年下ではなく、上だ」

「うえ??」

「俺は、気が強くて婚姻できなかったり婚姻拒否してきたような女性と婚姻して尻に敷かれた方が、国にとっていいだろう、という母上の言葉に父上も俺も反論できなくてな」

「へぇえ」

王妃様ったらご慧眼けいがん! さすが、息子のことをよくわかっているししめるところはしめるわね。王妃様を守って死んだお母様も報われるというものだわ。慰謝料はくれないけど。……はっ! 
今更だけど慰謝料もらったら領地改革にまわせるお金増えるじゃない! やっぱりもらいましょ。ええ。ちょっとあとで婚約書類の確認とかしましょう。領地の方はだいぶやることやって落ち着いたしね。
お父様はダメでしたけどわたくし諦めないわ! ふふふふふ。
王家に逆らわないのが公爵家の決め事ではあるけど、不義などあれば意見して良いのもまた公爵家の強みよ。まずは話のわかりそうな王妃様に話を通しましょ。

「その第一候補としても、年上ではないがアルリアがあがったんだが」

一瞬でいろいろ思いついて考えていたから、殿下のその声がものすごく場違いなものに感じました。
今更いまさら感しかない。

「お断りしますわ」

今は殿下より慰謝料のが欲しいわ。

「一年遅いのよ」

一年前なら慰謝料より殿下が欲しかったわ。

「そうか……何度もふられるのはキツイものがあるな」

「わたくしもっとキツかった自信ありますわよ」

「……そう、だな。今思えば俺の態度はほめられたものではなかった。すまなかった」

殿下が頭を下げた。
赤茶の髪が目の前にある。
非公式の場。でも、あの高慢な殿下が頭をさげるなんてかつてでは考えられなかったことだ。
わたくしをふったり戦をしたりとろくでもない王子ではあるけど、成長したのね。

「でも許しませんー!」

殿下が、正直驚いた、というような顔でわたくしを見ると「すまない」と言ってまた頭を下げた。

「戦で命を落とした兵士や騎士もいるんですのよ。あなたが謝るべき相手はわたくしだけじゃないんですの。そのことよくよく考えて、良い王になってくださいましね?」

あと慰謝料払ってね。いい王なら払うものよ。今はまだ言わないけど。
王妃様に話を通して後押ししてもらうの。殿下のことは信用してませんのでね。
顔を上げた殿下の顔には、なんとも言えない微苦笑がうかんでいた。
ガラス玉より汚いと思っていた青い瞳が、ちょっとだけ綺麗に思えた。

「アルリアは、俺が思うよりずっといい子だったんだな」

「今ごろ気がつきましたの? そうですわ。わたくし殿下の婚約者でいるために、自分の性格隠し通すくらいにはいい子ですのよ? 思い知りまして?」

「ははは! そうだな。俺は見る目がなかったのかもしれないな……」

遠い目で部屋のすみを見た殿下が、その言葉とつなぎあわせてミレーナ元男爵令嬢のことを考えたのかどうかは、わたくしには分かりませんわ。
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