悪役令嬢はモブ化した

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(本編完)モブ化した悪役令嬢は幸せになった

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わたくしオリヴァナ様のことよくは存じ上げませんけれど、この短い時間お話して分かったことが一つあります。
この方は、世間で言われているような研究バカでも魔法研究が好きすぎる異常者でもなくて、

「その異国の術には、王家の威信のためだけでなく、人の役に立つ力もありますか」

「あります。我が国では不治の病とされる病も、の王は治してみせました。また、彼の国でモンスターの大量発生による被害がゼロなのも、王がモンスターの動きを封じ込める術にけているからです」

オリヴァナ様は、世のため人のため、友情や恋愛や政略より研究を選んできただけなのだと、

「分かりました。次代の王妃。つつしんで勤めさせていただきます」

「よろしく頼みますわ」

「はい」

ちょっと我が道を行くだけで、この方は先を見据えて行動する優しい方なのだと思うのです。
だって眼差しがとてもあたたかいんですのよ。

「そしてアルリアさん」

「はい」

王妃様の青い瞳がこちらをむきます。マイヘル殿下の瞳と同じ色合いの青。

「王家が取り入れるこの新しい術がもし、未来で民にあだなすようなことがあったなら。そのときは彼の国に救援要請をする役割を、シバンニ公爵家にたくします」

「はい。つつしんで拝命いたします」

それでわたくしも巻き込まれたのね。お金を自然とみせびらかせてオリヴァナ様を釣り上げるためのエサにされたのかと思ったわ。重大な役目を仰せつかってしまった。
え、いきなり命令されて嫌じゃないのかって?
公爵家は王家の犬なのよ。命令されたらちょっと嬉しいのよ。わたくしも信用されて頼られたって思うと今ちょっと嬉しいわよ。仕方ないじゃない。こんなだから殿下にもさっさと惚れちゃったのよ。悪い?

「すっかり紅茶が冷めてしまったわ。新しく入れてくれる?」

防音魔法をといて、王妃様が侍女におっしゃいました。
オリヴァナ様がとんちゃくせずに、目の前にある美味しそうなお菓子に手を伸ばします。

「ん! これ美味しい。アルリア様もどうですか?」

目をキラキラさせてすすめてくださるオリヴァナ様。見ているとなんだか毒気が抜けていく方です。所作はちゃんとしていますし、どこも間違ってはいないのですが、普通の貴族令嬢は紅茶より先にお菓子は食べませんわ。礼儀ではなく、お菓子にがっついていると思われたくなくて。
そういうことを気にしない強さにも、自由な風を感じて素敵に見えるのかもしれませんね。まぁだからこそ反発する方もいるでしょうけどね。

防音魔法も消えて、風が吹いてきます。
絵に描いたような傾国の悪女ミレーナによって荒らされたのも、未来から見ればいい転換点となるのかもしれません。
あ、傾国のという言葉の後につくのは美女が本来ですが、あの女は美女というより悪女なので悪女ね。
美女は美しいがために罪作りなのであって、ミレーナのような次から次へと恋がうつろい悲劇を呼び起こす女は傾国の美女じゃなくて傾国の悪女よ。




数日後、イーハーでのミレーナへの処罰が決まりました。

ミレーナは毒杯を渡され自死させられたそうです。
でも本当にそうかしら?
国を荒らした悪女をそんな楽に死なせるかしら?
カーグス元国王のあわせて5人もいた妃たちの怒りがその程度でおさまるかしら?
わたくしだったらそうね、顔を焼けただれさせたうえで罪人の刻印を押して、遠い異国に放逐ほうちくするわね。そのまま死ぬもよし、そんな状態でもたくましく生きるならいっそあっぱれなのでそれもよしよ。血を残されてこまるような家の者でもないので放逐で問題ないでしょう。

マイヘル殿下はミレーナがどうなったのか真実が気になっているようだけど「調べんじゃないわよ」と王妃様と国王陛下とオリヴァナ様と宰相に釘を刺されて、ぐっとこらえたらしいわ。お父様談。


次代の宰相候補は、王妃様推薦の方で決まりそうとのこと。
王陛下もまだ諦めてはいないから、両名を現宰相補佐につけて最後は宰相様がお決めになるそう。
血で血を洗う争いになりそうなんだけど、まぁ政治はそんなものか。近寄るべからずね。




そんなある日。

「アルリア様」

ノックがして入室を許し、空いた扉から屋敷にいるはずのない人の声が入ってきて顔を上げました。

「まぁバロウ。どうしましたの。まだお忙しい時期でしょう?」

「ああ。でもこれは直接お伝えするべきかと思いまして」

「なあに?」

バロウがわたくしの隣まで歩いてきて、ひざまづきました。わたくしを見上げる水色の瞳。緊張の色が濃いです。
彼は懐からアクセサリーを入れる箱を取り出して、開いてみせます。
そこにあるのは真紅の宝石のアミュレット。
宝石の下に家紋が刻まれたプレートがぶら下がっています。これはやはり。

「あなたとの婚姻を望みます。受け取っていただけますか」

赤は我がシバンニ家に連なる家で公的な場で使われている色。決まりはありませんが風習です。他家でも決まった色があって、赤の家もありますし、青の家もあります。婚約を申し込む時には、相手の家の色の宝石に、自分の家の家紋をつけたアミュレット(神殿に加護をつけてもらうお守りで、形は自由なのですがプロポーズのアミュレットはブローチで、が貴族の風習です)を差し出すのです。
殿下との婚約のときのアミュレットは昔はわたくしのへやに飾られていましたが、今は宝物庫にポイされていますわ。

「よいのですか。まだ半年ですけれど」

ふっとバロウが優しく笑みました。

「アルリア様が俺に会いに、公爵令嬢がいるにはふさわしくない隊長室にきてくれて話をする時間がどんどん楽しみになりました。二人で出かける日も待ち遠しくて。結婚したならあなたともっと一緒にいられる。こんなに嬉しいことはありません」

はじめはわたくしが、息抜きになるからと無理やり連れ出していたデート。最近はバロウの方から誘ってくれるようになっていて、いい調子だわとは思っておりましたが。

「……それって」

「あなたが好きになりました。だから隣を歩かせてほしい」

「公爵になる覚悟ができたのですね」

「ああ。俺が引っかかっていたのは騎士という役割を離れることでした。守護騎士は確かに文官騎士ではありますけど、それでも護衛の仕事はあります。俺はその役目が好きで、守るために命を投げ出すのも苦じゃないと思っていた。でも公爵は逆に守られる人間でしょう。そこで決めかねていたんです」

彼のその気持ちは、交流を続けているうちにうっすら聞いて感じていました。

「でも、アルリア様を守りたいと思いました。からいものが苦手なのに辛いものが好きで、涙目になりながら食べる可愛いあなたを」

カッと顔に熱が集まりました。

「可愛いなんて」

「可愛いですよあなたは」

アミュレットを執務机に置き、わたくしの手を握るバロウ。

「こんな華奢な手で、人のためになる治政を模索もさくするあなたが、俺にはとても可愛く素敵に思えます」

「あ、ありがとう」

「俺にその荷物を半分、分けてくれますか」

水色の瞳が、優しくて心強くて、ほっと安心したらなぜか涙があふれてきた。ぽろりとこぼれ落ちていきます。

「はい」

つかまれた手に力を入れれば、温かく大きな手がぐっと包み込んでくれました。
たったそれだけがこんなにも頼もしく、ありがたいものなのか。
わたくしは今はじめて、奥深くまで心を開いた気がしました。








アルリアの悲劇。イーハー王国で再演するならば、脚本にその後を加えて、タイトルも改題した方が良いかもしれません。だってわたくし今しあわせなんだもの。
アルリアの半生
なんてどうかしら。普通すぎるかしら。でも他に思いつかないわ。
ああ、そうだわ。どういうタイトルがいいかバロウに相談してみましょう。わたくしはもう一人で抱え込まなくていいのだものね。



 
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