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求愛…!
しおりを挟む公園の止まり木は、鳥の種族のデートスポットであり、そして告白スポット!
私はデートしてる鳥人しか見たことなかったんだけど、告白されるんだよね? これから。
きゃー
また変な沈黙がおちた。はずかしい。見上げたクルル君とバチッと目が合うとお互いに目をそらしてしまった。はずかしい。
公園だ。
黄色と青と緑の葉色の木々の中で、白い葉色に白い幹というちょっと特殊だけどその美しさからよく植えられている二本のメイロウの木の間に、鳥人が立っても平気な丈夫な枝が組まれている。
「俺先な」
バサっと黒い翼を広げて飛んで、クルル君がそこに降り立った。
白い背景の中にあるクルル君の黒がすごく綺麗。
うっとり見とれそうになっていると。
「ハヨヨ!」
あ、私も行かないと、と思って翼を私が広げるより早く、バッ! とクルル君がその黒い翼を大きく広げて胸を張った。人間の腕はピタッと起立の姿勢になっている。
「へ?」
クルル君を中心にして、翼で円を作っている。
なんかかっこよく見えて胸がドキドキするけど何あれ?
あれ日本で言うドヤ顔っていうやつ? でも顔は真っ赤で恥ずかしそうだけど。意を決した覚悟の顔って感じだけど。
「ハヨヨ!」
と言って顔の向きを素早い動きで左右逆にして、一瞬おろした翼をまたバッと広げる。
何あれ。でもかっこよく感じる。
何これ!? 自分が分からない!
「は、はよよ?」
また私の名を呼んで、今度はちょっと悲しげな顔で、でもさっきと同じ速度で顔を左右逆向きにし、また翼をバッと広げるクルル君。なんかよく分かんないけどかっこいいし呼ばれてるしそばに行きたい今すぐ行きます!
よく分からないけど衝動的なときめきに背中を押されて、私も自分の黄色い翼で飛んで止まり木に止まった。
丸く綺麗に削られてて実に止まり心地のいい木だ。素敵。
照れて、ちょっとクルル君から離れたところに止まっちゃった。
照れ照れしていると、目をそらしているうちにクルル君がすすすーっと素早くそばに来ていた。今どういう動きした!? 早いね!?
クルル君は謎のドヤ翼をおさめて、普通に背中にとじながら私を見ている。ちょっと安心した。いつものクルル君だ。黒々とした目と見つめ合って数秒、恥ずかしくてまた目をそらした私に、ははっとクルル君がいつもみたいに笑う。
「ハヨヨ、来てくれてありがとう」
「うん……」
「その、精一杯やるから。受け入れてもらえると嬉しい。これが俺の気持ちだから」
「え?」
クルル君はよしっと気合を入れると、私からちょっとだけ距離をとってバサッと、今度は私から見た右翼だけを広げ、右翼と一緒に右手を高く上げた。
左手は胸の前までもってきている。さながら日本の盆踊りの手の形。
「へ?」
クルル君は目にも止まらぬ素早い動きで左手と左翼を上げ、右翼を閉じて右手は胸の前へ固定した。
何これ。
なんとなく予想していたけどクルル君はまた左翼を下げると右翼を高く広げる。バッとそれはもうすごい速さで。そしてどんどん速度を上げていく。バッバッバッバッ右、左、右、左繰り返す。
何これ。
翼を上げ下げ、腕を素早く動かすクルル君の顔は真剣そのものだ。
意味が分からないのに私の胸は、黒い翼がバッと上がっては下がり、上がっては下がるその動作をかっこいいと認識してドキドキときめいている。クルル君かっこいい……。
でもなんだろう、日本人の記憶があるっぽいあたりの頭が爆笑している。ドキドキするのに笑いたい。笑いたいよ!
そういえばこういうやつ、日本人だった時に見たことある。
なんだっけ、オタ芸だっけ。違う。似てるけどそっちじゃない、たぶんあれだ、鳥の紹介番組で見たことあるやつだ。記憶がうすぼんやりしてるけど、確かこれは……求愛ダンス!
クルル君、求愛してくれてるんだ。
ときめく私の胸と一緒に、腹筋が笑いをこらえてびくびくしている。
私は2つの意味で顔を手で隠した。
「く、クルル君! 分かった、分かったよ、わた、私も、あの……同じ気持ちです」
ドキドキしてもっと見たい気持ちと、もうやめてくれぇぇという頭で言うと、クルル君は動きを止めてにぱっと笑った。そしてまたバッと右翼をあげて盆踊り。
なぜ。
あれ、これ、もしかして。
なんか翼がムズムズしてきた。
嘘でしょ。やだ。ちょっと。嘘でしょ!?
バッ
本能的に私の右翼が上がった。それに合わせるようにしてクルル君も同じ方の翼をあげ、嬉しそうに私を見ている。
あー!
ドキドキはすごく高まってるんだけどなんかすごい敗北感……。
泣きそう。恥ずかしくて。
もうこうなったら止まらない。
左翼がムズムズ。腕もうずうず。
バッと左をあげるとクルル君も私から見て左をあげる。
バッバッバッバッ! 2人タイミングよく翼を上げ下げ。なんか楽しいしドキドキするし嬉しい!
「あははは!」
もういいよ! 楽しいよ! いろんな意味で楽しいよ!
ははははっと私は笑いながら、クルル君は声は出さずに嬉しそうな顔でバッバッと2人で踊る。私が笑い転げて踊りを断念するまでそれは続いた。
私の笑いが落ち着くと2人寄り添って止まり木に止まる。
「はは! おっもしろいなぁ! ハヨヨの種は求愛の時笑うんだな。かわいい」
「そ、それは、あの、種族差じゃなくて私だけかもしれないよ」
「そうか? 可愛いからどっちでもいいよ。あーよかったハヨヨが応えてくれて。なかなか来てくれなかったから振られるかと思った!」
「ふらないよ! そんなわけないじゃん」
「へへ。そっか!」
「はぁーでもすごい疲れたぁ、もうやりたくない」
「えー? でも結婚式でまたやるんだぞ。うちの種だけかもだけど、俺がでたことある結婚式はそうだったし、できれば俺もあれしたいなぁ」
「え!?」
「ハヨヨは結婚式に参列したことないのか?」
「そういえば、まだ、ない……」
「じゃあ親に聞いてみれば? ハヨヨの種は違うのかもだけど、でも俺んちはそうだから、できればやりたいな!」
「そ、そうなんだ」
「うん!」
帰ってお母さんに聞いた。
「あらそっちは踊りなのね。お母さんの実家の方は歌を歌うのよ。お父さんの方は踊りだったから、2人で歌いながら踊る結婚式にしたの。ふふふ。あなたもそうしたら?」
「やだ」
「あらそう。素敵なのに」
お母さんの元彼のところは歌だったらしい。
歌…のがいいな……クルル君大好きだけど……とちょっと思ったけどその歌の内容を聞いたらすごいポエム調で、盆踊りで良かったと心底思った。
私はもうあんな思いできるだけしたくない。結婚式だけでいい。それだけなら乗り越えるよ!
ドキドキするけど。ドキドキするんだけど! いやぁああ!
クルル君と末長く仲良くいられるようにがんばろうと思います。
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