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第4章
17話 真実と沈黙
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自宅へ帰る途中、透哉は葵に電話をした。左手で自転車を押さえながら歩く。夏の夜風が気持ちいい。視線を空の方へ向けると、星が見えた。ベガ、アルタイル、デネブ。他の星と比べると数倍明るく見える星。これらを繋ぐと夏の大三角形になる。
「お疲れ! 今大丈夫?」
「うん。今お風呂から上がったところ」
ガサガサ音が聞こえる。恐らく、肌のお手入れをしているのだろうか。透哉は別にそれに対して何も言わなかった。
「空見てみ? 夏の大三角形が見える」
「ほんとに?」
葵はスマホをテーブルか何かに勢いよく置いた。その衝撃音が透哉に聞こえた。
スマホ放り投げたな?
窓を開ける音が聞こえる。少し探すのに手間取っているのか、ようやく葵の見えたという声が微かに聞こえてきた。
窓を閉める音が聞こえ、スマホのある方へ葵が戻ってきた。
「見えた。見えた」
無邪気にはしゃぐ子供のようだ。
「なぁ。知ってるか? 右上の方に見えるのがベガ、下の方に見えるのがアルタイル」
「知らない」
まぁ当然だよなと思い、透哉は続けた。
「この前、っていっても、二日前か。七夕あったじゃん?」
「うん」
「ベガが織姫でアルタイルが彦星なんだ」
「へぇ~」
感心したのか興味ないのかどちらとも取れる返事だった。
「よく知ってるね?」
「まぁね」
星を見ることが好きな透哉はそれくらいの知識はあった。まぁ調べればネットですぐわかるのだが。
「今年は七夕ってどうなったんだっけ?」
10年前の七夕。覚えているはずがなかった。
「よく星が見えたから、出会えたんじゃない?」
他人事のように葵は答えた。
「そっか」
透哉は空を見上げた。葵の地元では東京と比べると、街の明かりが少ないので、東京より綺麗に見えているはずだろう。
「そういやさ、昨日のことなんだけどさ」
透哉は話題を変えた。
「ん? なに?」
「同じ日を何度もやり直しているって昨日言ったじゃん?」
葵のため息が聞こえた。
「はいはい。それで?」
「正確に言うとさ、10年後の未来から来て、何度もやり直しているみたいなんだ」
しばし沈黙が流れる。今まで気にも留めなかったが、車道を走る車の音が鮮明に聞こえてきた。
「なんかここまでくると呆れるとか、おかしくなったとかそういうレベルじゃないよね。博人君たちにもそれ言ったの?」
葵の声が妙に落ち着いていた。
「うん。言ったけど、信じてくれなかった。将輝だけが信じてたかな」
将輝は信じるとは言っていたものの、恐らく興味が惹かれたと置き方えた方が正しかったかもしれない。
「だよね。普通さ、俺、未来からきました! 何度も過去をやり直してます! なんて言われてもさ、どこの小説ですかって話だよ? てか、頭狂ってるんじゃない? って思われるよ」
アカデミー賞を受賞した女優のような名演技でさらに小馬鹿にする口調だった。
「ま、まぁ、そうなんだけどさ」
透哉は続けた。
「Fちゃんって知ってる?」
「Fちゃん?」
電話の向こう側で葵が首を傾げている様子が容易に想像がついた。
「そう。ネットの大型掲示板なんだけどさ、そこに俺と似た境遇の人がいたんだよ」
「へぇ~」
葵の興味なさそうな声が返ってくる。
「俺がいた、あの世界と同じみたいなんだ」
葵の笑い声が聞こえてきたが、ちょっと遠くに聞こえる。恐らく、万年こたつで寝そべっているのだろうか。
「わかった。仮にそうだとして、どうやって信じたらいいわけ?」
葵の言葉に冗談は混じっていなかった。透哉は唾を飲み込んだ。
「信じられるかどうかわからないけど、葵、お前……俺のいた未来では、お前はあの日からずっといないんだ」
えっ? と思わずポロっと言葉が口に出た。葵は予想外の言葉に意表を突かれたようだった。
透哉はゆっくり続けた。
「2018年7月15日に東京で大地震が起きるんだ。あの時、俺は葵に会えなかった。たぶん東京のどこかにいたとは思うんだけど、結局会えなかった。その後、行方不明になって10年が経った」
「それを信じろって言うの?」
些か動揺したのか、葵の声が震えているのがわかった。
「いきなりこんな話聞かされても、意味わかんないと思うけど、まだ時間はあるから」
「にわか信じがたい話だけど、私が行方不明って話を聞いたら……でも……だとしても……」
葵は言葉を失った。
「俺、絶対助けるから……」
葵は沈黙したままだった。
「……それじゃ、また明日な」
透哉はそう言うと電話を切った。
「お疲れ! 今大丈夫?」
「うん。今お風呂から上がったところ」
ガサガサ音が聞こえる。恐らく、肌のお手入れをしているのだろうか。透哉は別にそれに対して何も言わなかった。
「空見てみ? 夏の大三角形が見える」
「ほんとに?」
葵はスマホをテーブルか何かに勢いよく置いた。その衝撃音が透哉に聞こえた。
スマホ放り投げたな?
窓を開ける音が聞こえる。少し探すのに手間取っているのか、ようやく葵の見えたという声が微かに聞こえてきた。
窓を閉める音が聞こえ、スマホのある方へ葵が戻ってきた。
「見えた。見えた」
無邪気にはしゃぐ子供のようだ。
「なぁ。知ってるか? 右上の方に見えるのがベガ、下の方に見えるのがアルタイル」
「知らない」
まぁ当然だよなと思い、透哉は続けた。
「この前、っていっても、二日前か。七夕あったじゃん?」
「うん」
「ベガが織姫でアルタイルが彦星なんだ」
「へぇ~」
感心したのか興味ないのかどちらとも取れる返事だった。
「よく知ってるね?」
「まぁね」
星を見ることが好きな透哉はそれくらいの知識はあった。まぁ調べればネットですぐわかるのだが。
「今年は七夕ってどうなったんだっけ?」
10年前の七夕。覚えているはずがなかった。
「よく星が見えたから、出会えたんじゃない?」
他人事のように葵は答えた。
「そっか」
透哉は空を見上げた。葵の地元では東京と比べると、街の明かりが少ないので、東京より綺麗に見えているはずだろう。
「そういやさ、昨日のことなんだけどさ」
透哉は話題を変えた。
「ん? なに?」
「同じ日を何度もやり直しているって昨日言ったじゃん?」
葵のため息が聞こえた。
「はいはい。それで?」
「正確に言うとさ、10年後の未来から来て、何度もやり直しているみたいなんだ」
しばし沈黙が流れる。今まで気にも留めなかったが、車道を走る車の音が鮮明に聞こえてきた。
「なんかここまでくると呆れるとか、おかしくなったとかそういうレベルじゃないよね。博人君たちにもそれ言ったの?」
葵の声が妙に落ち着いていた。
「うん。言ったけど、信じてくれなかった。将輝だけが信じてたかな」
将輝は信じるとは言っていたものの、恐らく興味が惹かれたと置き方えた方が正しかったかもしれない。
「だよね。普通さ、俺、未来からきました! 何度も過去をやり直してます! なんて言われてもさ、どこの小説ですかって話だよ? てか、頭狂ってるんじゃない? って思われるよ」
アカデミー賞を受賞した女優のような名演技でさらに小馬鹿にする口調だった。
「ま、まぁ、そうなんだけどさ」
透哉は続けた。
「Fちゃんって知ってる?」
「Fちゃん?」
電話の向こう側で葵が首を傾げている様子が容易に想像がついた。
「そう。ネットの大型掲示板なんだけどさ、そこに俺と似た境遇の人がいたんだよ」
「へぇ~」
葵の興味なさそうな声が返ってくる。
「俺がいた、あの世界と同じみたいなんだ」
葵の笑い声が聞こえてきたが、ちょっと遠くに聞こえる。恐らく、万年こたつで寝そべっているのだろうか。
「わかった。仮にそうだとして、どうやって信じたらいいわけ?」
葵の言葉に冗談は混じっていなかった。透哉は唾を飲み込んだ。
「信じられるかどうかわからないけど、葵、お前……俺のいた未来では、お前はあの日からずっといないんだ」
えっ? と思わずポロっと言葉が口に出た。葵は予想外の言葉に意表を突かれたようだった。
透哉はゆっくり続けた。
「2018年7月15日に東京で大地震が起きるんだ。あの時、俺は葵に会えなかった。たぶん東京のどこかにいたとは思うんだけど、結局会えなかった。その後、行方不明になって10年が経った」
「それを信じろって言うの?」
些か動揺したのか、葵の声が震えているのがわかった。
「いきなりこんな話聞かされても、意味わかんないと思うけど、まだ時間はあるから」
「にわか信じがたい話だけど、私が行方不明って話を聞いたら……でも……だとしても……」
葵は言葉を失った。
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