神様、どうか

鳴哉

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【完結】旦那様の心が知りたいのです

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 この世界の神様は、時折ちょっとした奇跡を起こしてくれる。
 それは、願った者の願いどおり、とはいかないのだけれど。



 私、シエラ・ビエントは悩んでいる。
 つい3ヶ月ほど前に、ビエント辺境伯の元へ嫁ぎ、シエラ・レーネからシエラ・ビエントになったばかり。結婚を機に家督を継がれたビエント辺境伯のカスター様とは、1年の婚約期間を経ての婚姻だったのだけれど、正直なところ、本当に結婚して良かったのだろうか、と、最近そんなことばかり考えている。


 レーネ伯爵家次女の私に、婚約を申込みいただいたのは、ビエント辺境伯家からだった。由緒ばかりは確かにある伯爵家の娘である私と、国の要とも言われる辺境伯家との縁組は、それほど不釣り合いなものとは言えないと思う。

 だけど、カスター様個人としてはどうだったのだろう。

 顔合わせの時から今まで、彼が私に向けるのは感情の籠らない堅い表情ばかりで、婚約が決まった時も、婚約期間中も、結婚式でさえも変わらなかった。
 武人として名を馳せる方なので、普段から自分を律していらっしゃるのだとしても、妻となった私に、少しでも心を開いていただきたいと思うのは、烏滸がましいのだろうか。

 私はごく平凡で、器量も才能にも特に秀でたものはない。本当は、私など娶りたくなかったのではないのか。最近の私の頭の中は、そんなことばかりでいっぱいだ。普段からほとんど会話もなく、直接聞くことなんてできそうにもない。


 だから、私は神様に祈った。


 どうか、カスター様が私のことをどう思っているのか教えてください、と。





「遅くなり、申し訳ありません」

 月明かりの中、神様に祈りながら眠った翌朝、腫れた目を隠すための化粧で少し遅れて朝食の席に着く。既にカスター様も、義父母も席に着いていた。

『嫁の分際で一番最後に席に着くなんて、礼儀知らずだと皆様に罵倒されても仕方ないわ』

 そう心の中で覚悟した私に、いつも通り凛としたお義母様がおっしゃった。

「そんなに気に病むことではありませんよ」

 ビエント家の方々から普段声をかけていただくことは少ないので、ちょっと驚いた。

『お義母様からお食事の時に初めてお声がけいただいたわ。嬉しい。それに、とても寛大でお優しい』

 カスター様、そしてお義父様、お義母様が私の方を見た。普段からあまり顔に感情を出さない方々なのだけれど、少し驚いているような気がするのは気のせいだろうか。
 何故か少し頰を染めたお義母様が「初めてだったかしら」と小さな声で言ったような気がする。

『皆様、いつもほとんど会話もなくお食事なさるのは、私のことが気に入らないからではないのかも?』

 カスター様だけではなく、義父母との交流もあまりできないでいた私だけれど、少しだけ楽観的に考えてみてもいいかと思えた。
 その時、目に見えてお義父様とお義母様が肩を揺らした。何時如何なる時も冷静沈着なお二人だと思っていたので、私は思わずまじまじと見てしまった。何だか不思議そうにしている二人と目が合う。

『どうかされたのかしら。もしかしてご体調が悪いのに、無理して朝食にいらっしゃっているのかも。それなのに私がお待たせしてしまったから』

「貴方! カスター! ちょっとこちらへ!」

 急にお義母様が立ち上がり、カスター様とお義父様を食堂から連れ出してしまった。取り残された私は、一人意気消沈する。

『やっぱり、私のことが気に入らないのかしら』



 しばらくして皆が席に戻り、朝食が再開する。だけど、私の食欲はすっかり落ちてしまっていた。味のしなくなった料理をゆるゆると口に運びながら、頭の中では後ろ向きな思考が止められない。

『三人で何を話されていたのかしら。とうとう私と離縁することを決められたのかも』

 誰かが咽せた。

『それでも、3ヶ月で離縁するのは、私だけでなくビエント家にとっても外聞が悪いわ。子どもができないことを理由にするには数年必要だろうし。白い結婚であれば、一年でも離縁できるのだったかしら。あ、だからカスター様は私と一度も閨を共になさらないのね』

 義父母がすごい形相でカスター様を見、カスター様は明後日の方向に首を捻った。

『確かに、屈強な辺境伯家の後継者を産むには、私の体は貧弱過ぎる。お義母様ほど上背があれば、カスター様の隣に並んでも見劣りはしなかったのに。結婚式でもがっかりされていたのに違いない。だから私の方など一度も見ていただけなかったのだわ』

 いつのまにか、誰も食事をしていなかった。カスター様の顔から血の気が引いていることにも、私は全く気付いていなかった。

『こんなに貧相で平凡な器量の女など、辺境伯家には相応しくなかったのに。どうして、私に結婚をお申出いただいたの? 浮かれた私が馬鹿みたい』

 思わず唇を噛んで俯く。誰かがはっと息を呑む音を聞いたような気がしたけど、思考は止まらない。

『密かに憧れていたカスター様と夫婦になれるなら、政略結婚でも構わないなんて考えた私が大馬鹿だった』


「うわあああああああああっっ!!」

 突如奇声を上げて、耳を塞ぎながら立ち上がったカスター様。その顔は真っ赤で、感情の籠らないいつもの冷静な表情からは想像できないほど、動揺が顔に出ていた。

 不躾にも『何だか可愛らしいわ』と思ってしまった途端、彼はまた叫び声を上げた。

「耳を塞いでもダメなのか?! これ以上は耐えられんっ!!」

 カスター様は食堂から走って出て行かれてしまった。
 何が起こったのかわからない私に、お義母様が遠慮がちに声をかけてきた。

「シエラ。その、大変、言いにくいことなのだけれど」

 続いたお義母様の言葉は、簡単には受け入れられないものだった。


「何故だかは分からないのだけれど、先程から貴女の考えていることが、全て私たちに聞こえているようなの」





 



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