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3(ギュンター)
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主である王の命により急遽組まれた周辺諸国への外遊を終え、自国へ戻った宰相である私の耳に入ったのは、信じられない暴挙だった。
聖女召喚。
さほど急な用件でもない諸国との調整を命じたのは、新たに宰相職についた私の諸国への顔見せのためではなく、召喚の儀式に異議を唱えていた私を同席させないための手段だったのだ。
確かに魔物の脅威はこの国、そしてこの世界にある。だけど、異世界から聖女となれる人材を強制的に召喚するほど緊急性のあるものではない。対処療法ではあるものの、各国とも兵などの人海戦術で、魔物を各個討伐することが可能だからだ。
だが、この国の王家の者たちは、度重なる失政により民の求心力を失う一方の自分たちの起死回生の一手として、聖女召喚を行おうとしていた。
王家に取り入ろうとする神官長の提案に、異世界の聖女を想像し鼻の下を伸ばす王子、偶像崇拝の対象として聖女を王の隣に据えようと画策する王。
失政の責任を取らされた前任に代わって宰相職に就いたばかりの私は、彼等の選択が間違っていることを進言したのだが、聞き入れてもらえないばかりか、文字通り蚊帳の外に出されている間に決行されてしまった。
王や王子、儀式を執り行った神官長に苦言を申し上げたが、もう済んだことだと取りつく島もない。
確かに、既に儀式は済み、聖女は召喚されている。頭を切り替えるしかない。
国の高位の職に就く者として、ご挨拶に伺うべきだ。召喚された聖女に会いに行くと伝えると、皆微妙な顔をした。
王子が「あの女はまだ聖女の力を使えんのだ」と吐き捨てるように言った。
慌てて神官長が、取り繕う。
「今、何とかできるよう、指導しておりますので、近いうちには必ず」
なるほど。
召喚したはいいものの、まだその力を使いこなせないのか。それで、王や王子は不機嫌で、神官長は焦っている。
聖女召喚に反対していた私自身としては、正直いい気味だと思わなくもないが、国のためにはそうも言っていられない。
召喚したからには、聖女に対して国として対応せざるを得ないからだ。
私は溜息を押し殺しながら御前から下がり、その足で聖女の滞在する離宮の客間へと向かった。
王宮の本棟とは別棟になっている離宮は、実質今は使われていなかった。この国が今よりも栄えていた頃は、他国からの客人が長期滞在することも多く、常に整備されていたものだ。
異世界からの客人である聖女の滞在先としては相応しいのだろうが、建物に足を踏み入れた時、あまりの静けさ、そして其処彼処の荒み具合に不信を抱く。
国賓である聖女が滞在しているとは思えない雰囲気だ。警備の兵はおろか、世話をするために働いている者たちも見当たらず、訪問を告げることもできない。
仕方なく歩を進めて行くと、女性たちの話し声が聞こえてきた。どうやら侍女たちの休憩室と思われる部屋で、手持ち無沙汰に雑談している数人を見つける。
「宰相様?!」
初めて見る侍女たちは、私の顔を見て喜色を浮かべている。自分が歴代の者たちより若くして就いた今の役職のおかげで、女性たちに注目されているのは自覚しているが、正直面倒なだけでしかない。
「聖女様にお取次を」
そう伝えると、一人が取次に向かった。一瞬眉を顰めたように見えたのは気のせいだと思いたい。
王子たちの態度が周りの者にまで影響を与えて、聖女が軽んじられているのではないか。悪態を吐きかけて思い止まる。少なくとも、宰相である自分が人前で声に出していいものではない。
戻ってきた侍女に案内され、客間に通された。見る限り、客間は綺麗に整えられているようで、心の中で安堵する。
そして、ようやく私は異世界から召喚された聖女に対面したのだった。
聖女召喚。
さほど急な用件でもない諸国との調整を命じたのは、新たに宰相職についた私の諸国への顔見せのためではなく、召喚の儀式に異議を唱えていた私を同席させないための手段だったのだ。
確かに魔物の脅威はこの国、そしてこの世界にある。だけど、異世界から聖女となれる人材を強制的に召喚するほど緊急性のあるものではない。対処療法ではあるものの、各国とも兵などの人海戦術で、魔物を各個討伐することが可能だからだ。
だが、この国の王家の者たちは、度重なる失政により民の求心力を失う一方の自分たちの起死回生の一手として、聖女召喚を行おうとしていた。
王家に取り入ろうとする神官長の提案に、異世界の聖女を想像し鼻の下を伸ばす王子、偶像崇拝の対象として聖女を王の隣に据えようと画策する王。
失政の責任を取らされた前任に代わって宰相職に就いたばかりの私は、彼等の選択が間違っていることを進言したのだが、聞き入れてもらえないばかりか、文字通り蚊帳の外に出されている間に決行されてしまった。
王や王子、儀式を執り行った神官長に苦言を申し上げたが、もう済んだことだと取りつく島もない。
確かに、既に儀式は済み、聖女は召喚されている。頭を切り替えるしかない。
国の高位の職に就く者として、ご挨拶に伺うべきだ。召喚された聖女に会いに行くと伝えると、皆微妙な顔をした。
王子が「あの女はまだ聖女の力を使えんのだ」と吐き捨てるように言った。
慌てて神官長が、取り繕う。
「今、何とかできるよう、指導しておりますので、近いうちには必ず」
なるほど。
召喚したはいいものの、まだその力を使いこなせないのか。それで、王や王子は不機嫌で、神官長は焦っている。
聖女召喚に反対していた私自身としては、正直いい気味だと思わなくもないが、国のためにはそうも言っていられない。
召喚したからには、聖女に対して国として対応せざるを得ないからだ。
私は溜息を押し殺しながら御前から下がり、その足で聖女の滞在する離宮の客間へと向かった。
王宮の本棟とは別棟になっている離宮は、実質今は使われていなかった。この国が今よりも栄えていた頃は、他国からの客人が長期滞在することも多く、常に整備されていたものだ。
異世界からの客人である聖女の滞在先としては相応しいのだろうが、建物に足を踏み入れた時、あまりの静けさ、そして其処彼処の荒み具合に不信を抱く。
国賓である聖女が滞在しているとは思えない雰囲気だ。警備の兵はおろか、世話をするために働いている者たちも見当たらず、訪問を告げることもできない。
仕方なく歩を進めて行くと、女性たちの話し声が聞こえてきた。どうやら侍女たちの休憩室と思われる部屋で、手持ち無沙汰に雑談している数人を見つける。
「宰相様?!」
初めて見る侍女たちは、私の顔を見て喜色を浮かべている。自分が歴代の者たちより若くして就いた今の役職のおかげで、女性たちに注目されているのは自覚しているが、正直面倒なだけでしかない。
「聖女様にお取次を」
そう伝えると、一人が取次に向かった。一瞬眉を顰めたように見えたのは気のせいだと思いたい。
王子たちの態度が周りの者にまで影響を与えて、聖女が軽んじられているのではないか。悪態を吐きかけて思い止まる。少なくとも、宰相である自分が人前で声に出していいものではない。
戻ってきた侍女に案内され、客間に通された。見る限り、客間は綺麗に整えられているようで、心の中で安堵する。
そして、ようやく私は異世界から召喚された聖女に対面したのだった。
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