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4(梨咲)
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自分の無能さにそろそろ本気で凹んできた頃、思わぬ時間にノックされた扉に返事を返すと、少し機嫌の良さそうなメイドさんが来客を告げる。
ここへ誰かが私に会いに来たのは初めてだ。それも、宰相とかいう国の偉い方のようで、私は緊張する。余りの役立たずさに、とうとうお叱りを受けるのだろうか。
この国のマナーはわからないけれど、とりあえず扉の前で出迎える。こういったこともメイドさんに教えてもらっておくんだった。
「失礼いたします」
低音の柔らかい声と共に部屋に入ってきたのは、驚くほどの美丈夫だった。
背は高く、姿勢が良く、少しゆったりした身頃の服装でもわかる引き締まった体躯。
襟元でひとつにまとめて背中に垂らしている濃いブラウンの柔らかそうな髪。
少し伏せた瞳は明るい蒼で、輝石のように輝いている。
肌理細やかな肌は、少し陽に焼けて健康的でありながら滑らか。
高く鼻筋の通った鼻梁に、高貴さを表す上品な薄い口元。
思わず見惚れてしまい、落ち着くために顔を逸らしてこっそり深呼吸した。
ヤバい。王子とは全く系統の違うイケメン。私的には断然宰相さん派。
私の気持ちが落ち着く間もなく、あろうことかその人が私のすぐ前で跪いた。
「ぅえっ?!」なんて変な声をあげたのにも反応せずに、さらに頭を垂れる。
「お初にお目にかかります。この国の宰相を拝命しております、ギュンター・ファルナードと申します。聖女様に拝謁の機会をいただき、恐悦至極に存じます」
流暢にさも歌うかの如く丁寧な挨拶を受け、狼狽する。このような大層なご挨拶を受けたことなど、生まれてこの方経験なく、どう返すのが正解なのか、頭の中でぐるぐる考えるが、答えは出ない。
私が一言も発せないうちに、彼は言葉を継ぐ。
「この度は、我が国の招聘に応じていただき、誠に感謝いたします」
この時、私の胸に込み上げてきたのは、安堵の気持ちだった。まだ何の役にも立てていない私に対して、感謝の意を伝えてくださった目の前の方に、こちらこそ感謝の気持ちが沸く。
私はまだ必要とされている。そう思えただけで、何とも言えない気持ちになって、胸がぎゅうっとなった。
「……いえ」
続く言葉が見つからなかったけど、宰相さんはそんな私に慈しむような笑みを向けてくださった。
いい人だ。イケメンでいい人だ。
思わず、感極まっていたけど、宰相さんは跪いたままだ。慌てて、立ち上がってもらうよう促し、応接用のソファに掛けていただく。マナー上どうなのかわからないけれど、とりあえず話をしやすいよう、私も向かいに腰掛けた。
「ご挨拶が遅くなり、申し訳ございません。私は、瀬野 梨咲と申します」
姿勢を正し、名を告げ、深々と頭を下げると、宰相さんは慌て出した。
「頭をお上げください。聖女様が一介の役人如きに頭を下げることはございません」
とても真面目な方のようだ。だけど、私も引けるものでもない。私はそもそもそんな大層な者ではないのだから。
「いえ、これはごく普通の挨拶です。こちらの世界とは異なるのかも知れませんが、できれば私のしたいようにさせてはいただけませんか?」
押し付けがましくならないよう、微笑みながらお願いすると、躊躇いつつもご了承いただけた。
そう言えば、この世界に来てまともに人と話すのは初めての気がする。王子とは召喚された直後以来会ってもいないし、神官長たちとも指示とか伝達事項とかを端的に受けるだけだし。
メイドさんが淹れてくれたお茶を前に、改めて宰相さんと向かい合う。メイドさんが見惚れて粗相をしそうになるのも頷ける。私もちょっと緊張してきた。
宰相さんは、近隣諸国を訪問して帰国したばかりだそうだ。お忙しい中わざわざ私へ挨拶だけでも、と来てくださったとのこと。
「お困りのことなどございましたら、何でもお申し付けください」
抱擁力のある笑顔に癒される。今日からこの人を推そう。そう決める。
いや、それより、この機会に聞いておきたいことを聞いておこう。この人が今までで一番、話がしやすそう。
「あの、では少し質問してもよろしいでしょうか?」
「はい、何なりと」
「私が聖女の力を使えるようになったら、何をすればよいのですか?」
「……は?」
宰相さんの表情が口を半開きにしたまま固まった。ちょっと間の抜けた顔だというのにカッコいい。思わず見惚れて私も固まってしまいそうになったけど、慌てて言葉を継ぐ。
「すみません。まだ力を使えるようにもなっていないのに申し訳ないのですが、目的がわかっていると、その、練習の励みにもなるというか……」
呆れられてしまったのだろうか。宰相さんは、一瞬なんだか怖い顔をしたかと思うと、固く目を瞑って頭を抱え込んでしまった。
もう一度謝ろうとした私の言葉を遮るように、宰相さんはいったん顔を上げ、すぐに頭を下げた。
「申し訳ございません! まさか、そのような当たり前のことをお伝えもせず、ご協力をお願いしていたのだとは想像もしておりませんでした!」
すごい勢いで謝られてしまった。
「いえ、あの、国の機密事項などもあるんでしょうし、その、謝っていただく必要は」
「いえ。お力をお借りしようとしている聖女様に対し、秘密にしておくことなど、あろうはずがございません。今日までご不安にさせてしまいましたこと、お詫び申し上げます。今更ながらではございますが、私よりご説明させていただいてもよろしいでしょうか?」
ありがたい申出に、私は恐縮しながらも「お願いします」と答えたのだった。
ここへ誰かが私に会いに来たのは初めてだ。それも、宰相とかいう国の偉い方のようで、私は緊張する。余りの役立たずさに、とうとうお叱りを受けるのだろうか。
この国のマナーはわからないけれど、とりあえず扉の前で出迎える。こういったこともメイドさんに教えてもらっておくんだった。
「失礼いたします」
低音の柔らかい声と共に部屋に入ってきたのは、驚くほどの美丈夫だった。
背は高く、姿勢が良く、少しゆったりした身頃の服装でもわかる引き締まった体躯。
襟元でひとつにまとめて背中に垂らしている濃いブラウンの柔らかそうな髪。
少し伏せた瞳は明るい蒼で、輝石のように輝いている。
肌理細やかな肌は、少し陽に焼けて健康的でありながら滑らか。
高く鼻筋の通った鼻梁に、高貴さを表す上品な薄い口元。
思わず見惚れてしまい、落ち着くために顔を逸らしてこっそり深呼吸した。
ヤバい。王子とは全く系統の違うイケメン。私的には断然宰相さん派。
私の気持ちが落ち着く間もなく、あろうことかその人が私のすぐ前で跪いた。
「ぅえっ?!」なんて変な声をあげたのにも反応せずに、さらに頭を垂れる。
「お初にお目にかかります。この国の宰相を拝命しております、ギュンター・ファルナードと申します。聖女様に拝謁の機会をいただき、恐悦至極に存じます」
流暢にさも歌うかの如く丁寧な挨拶を受け、狼狽する。このような大層なご挨拶を受けたことなど、生まれてこの方経験なく、どう返すのが正解なのか、頭の中でぐるぐる考えるが、答えは出ない。
私が一言も発せないうちに、彼は言葉を継ぐ。
「この度は、我が国の招聘に応じていただき、誠に感謝いたします」
この時、私の胸に込み上げてきたのは、安堵の気持ちだった。まだ何の役にも立てていない私に対して、感謝の意を伝えてくださった目の前の方に、こちらこそ感謝の気持ちが沸く。
私はまだ必要とされている。そう思えただけで、何とも言えない気持ちになって、胸がぎゅうっとなった。
「……いえ」
続く言葉が見つからなかったけど、宰相さんはそんな私に慈しむような笑みを向けてくださった。
いい人だ。イケメンでいい人だ。
思わず、感極まっていたけど、宰相さんは跪いたままだ。慌てて、立ち上がってもらうよう促し、応接用のソファに掛けていただく。マナー上どうなのかわからないけれど、とりあえず話をしやすいよう、私も向かいに腰掛けた。
「ご挨拶が遅くなり、申し訳ございません。私は、瀬野 梨咲と申します」
姿勢を正し、名を告げ、深々と頭を下げると、宰相さんは慌て出した。
「頭をお上げください。聖女様が一介の役人如きに頭を下げることはございません」
とても真面目な方のようだ。だけど、私も引けるものでもない。私はそもそもそんな大層な者ではないのだから。
「いえ、これはごく普通の挨拶です。こちらの世界とは異なるのかも知れませんが、できれば私のしたいようにさせてはいただけませんか?」
押し付けがましくならないよう、微笑みながらお願いすると、躊躇いつつもご了承いただけた。
そう言えば、この世界に来てまともに人と話すのは初めての気がする。王子とは召喚された直後以来会ってもいないし、神官長たちとも指示とか伝達事項とかを端的に受けるだけだし。
メイドさんが淹れてくれたお茶を前に、改めて宰相さんと向かい合う。メイドさんが見惚れて粗相をしそうになるのも頷ける。私もちょっと緊張してきた。
宰相さんは、近隣諸国を訪問して帰国したばかりだそうだ。お忙しい中わざわざ私へ挨拶だけでも、と来てくださったとのこと。
「お困りのことなどございましたら、何でもお申し付けください」
抱擁力のある笑顔に癒される。今日からこの人を推そう。そう決める。
いや、それより、この機会に聞いておきたいことを聞いておこう。この人が今までで一番、話がしやすそう。
「あの、では少し質問してもよろしいでしょうか?」
「はい、何なりと」
「私が聖女の力を使えるようになったら、何をすればよいのですか?」
「……は?」
宰相さんの表情が口を半開きにしたまま固まった。ちょっと間の抜けた顔だというのにカッコいい。思わず見惚れて私も固まってしまいそうになったけど、慌てて言葉を継ぐ。
「すみません。まだ力を使えるようにもなっていないのに申し訳ないのですが、目的がわかっていると、その、練習の励みにもなるというか……」
呆れられてしまったのだろうか。宰相さんは、一瞬なんだか怖い顔をしたかと思うと、固く目を瞑って頭を抱え込んでしまった。
もう一度謝ろうとした私の言葉を遮るように、宰相さんはいったん顔を上げ、すぐに頭を下げた。
「申し訳ございません! まさか、そのような当たり前のことをお伝えもせず、ご協力をお願いしていたのだとは想像もしておりませんでした!」
すごい勢いで謝られてしまった。
「いえ、あの、国の機密事項などもあるんでしょうし、その、謝っていただく必要は」
「いえ。お力をお借りしようとしている聖女様に対し、秘密にしておくことなど、あろうはずがございません。今日までご不安にさせてしまいましたこと、お詫び申し上げます。今更ながらではございますが、私よりご説明させていただいてもよろしいでしょうか?」
ありがたい申出に、私は恐縮しながらも「お願いします」と答えたのだった。
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