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しおりを挟む爆音。
耳を塞ぐことも出来なかった私の耳は、一瞬にして駄目になった。キーンという高い音が耳を貫く。
なのに、その声はちゃんと聞こえた。
「俺のアイシャに触れるなっ!!」
目の前にいた男が真横に吹っ飛んで行った。
轟音。
吹っ飛んで行った先で、男が壁にめり込んで明らかに失神している。
目の前には、仁王立ちになり私を見下ろす参謀殿。その後ろには、ただの残骸となった倉庫の扉。先程の爆音は、それが破壊された音だったようだ。
いや、ちょっと待って。そんなことよりも。
「……何ですか、『俺のアイシャ』って」
聞き流せない名詞を問いかけると、参謀殿は凄い勢いで口を押さえた。失言したことに気付いたのだろう。その顔が見ているうちにどんどん赤く染まる。……何、それ。
見ているこちらまで恥ずかしくなり、顔に熱が集まってくる。何なの、それっ!
「参謀殿! 少しは加減してくださいよっ」
遅れてやってきたのだろう、軍部の人が倉庫の扉の前で怒鳴っている。そちらに意識を持って行かれたせいで、参謀殿も私も正気に戻る。間違ってもさっきの甘い空気は望んでいたものではない。ないはず。
「許せ。緊急事態だ」
端的な謝罪に「修繕費、出してもらえるかなあ」と嘆いている顔見知りの武官に、私は仕事に頭を切り替えるのが得策とばかりに、進言した。
「私が会計課に掛け合って費用を捻出してもらいます!」
「アイシャさん、助かります!」
いや、でも、これはそもそも私が原因を作ったとも言えるので、お礼を言われる立場ではないかも知れない。
立ち上がろうとした私は、後ろ手に縛られていることを失念していて、ふらついた。参謀殿に支えられる。
「あ、ありがとうございます」
お礼と共に顔を上げたら、思いの外近くに彼の顔があった。目が合う。めっちゃ睨んでる!
と思ったら、急に手が楽になる。縄を切ってくれたらしい。お礼をもう一度言おうとしたのに、気付けば担ぎ上げられていた。大男の肩に荷物のように担ぎ上げられることが、こんなに怖いことを初めて知る。高い!お腹苦しい!
私だけでなく、周りにいた軍部の人たちも驚いている。
「一体何事ですか?!」
私の胸中を代弁してくれた誰かの問いかけに、参謀殿は「医務室へ連れて行く、後は任せた」と答え、歩き出した。ほとんど走るような勢いに、舌を噛まないように気をつけながら、何とか話しかける。
「私は大丈夫です。医務室に行くほどでは」
「ふざけるな!」
言葉の途中で遮られた。まあまあ顔の近くで怒鳴られて思わず肩を竦め、そんな言い方はないんじゃないかと反論しようとしたら、それも遮られた。
「すまない。言い方が悪かった」
謝罪されるとは思ってなくて、出かけていた言葉をそのまま飲み込んだ。
「でも、君の顔や腕に傷が付いているのに、そのままになどしておける訳がない」
「怪我なんてしてませんよ?」
確かめようと顔に触れるが痛いところはない。腕を見ると手首にうっすらと縄の跡がついているくらいだ。
しかし、参謀殿の足は止まることなく、軍部の一角にある医務室へと運ばれてしまった。
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