偽りとためらい

立石 雫

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第9章 二年次・5月(2)

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 その後、学校でいつもと同じように茂と授業を受け、いつもと同じように時折佳代とも顔を合わせたが、二人の仲に特別な変化はないように見えた。あの日以降も以前と変わらず、会えば親しげに話していた。茂も、高志には特に何も言ってこない。あの夜に茂からどう思うかを聞かれた時に、高志が茂の気持ちを汲み取らないようなことを言ってしまったのは分かっている。何かあったとしても今更自分には話をしづらいだろう、と高志は思った。
 自分の目の前で楽しそうに茂と笑い合う佳代を見ながら、今付き合っているのに別れてしまうのと、好きになってもらえないまま付き合い続けるのと、どちらが彼女にとってより辛いことだろうかと考えてみる。目の前の佳代はとても幸せそうに見えた。付き合い続ける方がいいと思ってしまうのは、どうしても茂も佳代を好なようにしか見えないからだった。何度、本人からそうではないと聞かされていても。

 ある日曜日、実家付近で遥香と落ち合い、マンションに行くために電車に乗っている時に、珍しく少しぎくしゃくした雰囲気になった。遥香が夏休みにテニスサークルの合宿に参加すると話してきたので、そう言えば旅行の行き先は決まったのかと高志が問うと、遥香が申し訳なさそうに、旅行には行けないかもしれない、と答えたからだ。
 高志が理由を聞くと、夏季休暇の間に行くのは合宿か旅行かどちらかだけにするように親に言われたとのことだった。ただ、合宿は7月に行われ、旅行は9月の予定だったから、かなり間隔も空くし、もしかしたら直前に再度言えばほとぼりが冷めているかもしれないからもう少し待ってくれないかと遥香が言うので、高志は仕方なく頷いた。
 遥香の両親が厳しいらしいということは聞いていたが、今回ばかりは理不尽なように思った。自分より合宿を優先されたのも、仕方ないとはいえショックだった。遥香が悪い訳ではないのは分かっているが、少し顔に出てしまっていたらしく、結局その後は駅に着くまでお互いに黙ったままだった。
 電車を降りた後、隣を歩く遥香が黙ったまま手を繋いできた。高志はその手を握り返し、ごめん、と謝った。

 無事に前期試験も終わり、大学に入って二回目の夏季休暇に入った。毎日快晴の中、高志はいつものとおり部活とアルバイトに勤しんだ。遥香も実家に帰ってきているが、高志と同様にテニスとアルバイトで忙しくしているようだった。もし旅行に行くのならその分もアルバイトで稼いでおく必要があり、高志は入れるだけ入るようにしていた。ただ、何となくあれ以降、お互いに旅行の話には触れないようにしていた。お互いに一日中空いている日が少なくなって、遥香と会う時も一緒にいられる時間が短くなった。
 8月に入ると、今年も遥香と花火大会に行った。茂と佳代も来ているらしかったが、やっぱり出会うことはなかった。
 今年のお盆は遥香と一緒にいることはできなかった。家族の顔色を気にしているのか、遥香は今年は家族で過ごすとのことだったので、高志も今年は例年どおり家族と一緒に田舎に帰った。ふと去年の休み明けに茂から実家のお土産をもらったことを思い出し、立ち寄った道の駅で、その地方の銘菓を一つ買った。

 その数日後、茂から、9月中旬の某日に食事に行かないかというメッセージが来た。実家から戻ってくるには少し早いのではないかと思ったが、その日にはもうこちらに戻っているらしい。珍しく感じながらも了解の返信をし、その日の予定を空けておいた。そう言えば遥香からは旅行の話は何もないな、と思い出す。もし行くとしても、どこに行くかも何をするかも決まっていない。一度気まずくなったのが思い出されて、あれから旅行の話は一切していない。何となく今回の計画は流れるのではないかという気がしてきたため、もう考えないことにした。また春休みあたりにあらためて計画すればいい。
 早く夏休みが終わればいいのに、と高志は思った。その方が遥香とゆっくり会える。
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