偽りとためらい

立石 雫

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第22章 四年次・4月(2)

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 4月が来て高志達は四回生になり、履修すべき授業は金曜日のゼミだけとなった。高志は空いた時間を就職活動とアルバイトに費やした。
 茂と顔を合わせるのも週に一度だけになったが、新年度に再会すると、茂は何もなかった頃のように、また明るく高志に話し掛けてきた。
「最近ずっと勉強しかしてなくてさ。ちょっと息抜き付き合って」
 初回のゼミが終わった後、そう言って茂は高志を大学内のカフェに誘った。
「いいよ。本館の方?」
「うん。コーヒー飲みたい」
 高志達の大学の購買棟には全国展開のメジャーなコーヒー店が入っている。二人は学部棟から移動してそのカフェでコーヒーを買い、学生達がそこかしこで談笑している大食堂のテーブルの一角に向かい合って座った。
 二人でゆっくりと話すのは久し振りだったが、複雑なことをひとまず全て忘れて以前のようにただ茂と話すのは楽しかった。寛ぎながら近況などを話していると、いつの間にか二時間以上経っていた。
 いつか茂が言ったように、長期休暇というのは気持ちを整理するのには良いかもしれない、と高志は思った。この休みにもまた茂は色々と考えたのだろう。そしてもし今の状態が茂の出した答えなのだとしたら、それは高志が望んでいたとおりのものだった。前のように茂と気楽で親しい友人関係を維持できる、それが一番だった。明るい顔で自分に笑い掛ける茂もそれを望んでいるように見え、高志は安堵を覚えた。
「藤代、もう卒論のテーマ決めた?」
「まだ全然。何となく考えてるやつ、今度の発表で一度まとめてみようとは思ってる」
「そっか。今はまず就活だもんなー」
「お前は試験終わるまで全然やらないのか?」
「うん。業界的に、試験後に採用する事務所も結構あるみたいだし、それまでは勉強の方に専念することにした」
 それ以降、何となく毎週金曜はゼミ終わりにカフェに行くのが習慣になった。就職活動をしていると精神的に追い詰められることもあったが、茂と話すと気分が明るくなった。茂が言うように、高志にとってもその時間は良い息抜きの時間となっていた。
 そして6月に入って早々に、高志はある企業から内定を貰った。茂に報告すると、茂は声を上げた。
「まじか、すげえな! ていうか早くね?」
「人事の人がたまたま柔道やってた人で、何か気に入ってくれたらしい」
「へえ、それは良かったなあ。もうその会社に決めるのか?」
「一応、今面接まで行ってるところは受けるけど、多分決めると思う。その会社以上に行きたいってとこも特にないし」
「そっか」
 茂は笑いながら頷いた。
「んじゃ、久し振りに飯でも行こうぜ。お祝いに奢ってやる」
「今日?」
「いや、今日じゃなくて来週の金曜は?」
「いいよ」
「お前、久し振りに泊まっていけよ」
 茂は何でもないようにそう言ったが、高志の方を見ると、何かを言いかけてやめた。
「まあ、無理ならいいからさ」
 さらりとそう言うと、茂は話題を変えた。

 内定をもらった後、高志は手付かずだった卒業論文に少しずつ取り組み始めるとともに、アルバイトの時間も増やした。また部活にも週に何度か顔を出すことにした。授業は週に一回のゼミしかないので、就活さえ終われば時間に余裕が生まれた。
 久し振りに平日の昼間にアルバイトに入ると、早々に咲と顔を合わせたが、咲が例の如く誘ってきたので、その日、高志はまた一緒に咲の部屋まで行った。
 就職が決まったことを伝えると、咲はお祝いの言葉を述べた後、「私もいい加減、正社員で働かないとなあ」と溜息をついた。それを聞いた高志は、この関係もあと数か月もすれば終わるのかと思ったが、少しの淋しさと共に安堵も覚えている自分に気付いた。
 咲に触れたのは約一か月振りだったが、知らないうちに馴染んだその体に、高志は懐かしさすら感じた。終わった後に気持ちが冷めるのも、最近はそれほど気にならなくなっていた。欲の赴くままに何回か求めても、咲はその都度柔らかく高志を受け入れた。
 そうやって久し振りに女の体に触れ、高志は自分にとっての日常を再認識した。それは以前と何も変わっていないように思えた。そしてその時、友達の部屋に遊びに行くのにわざわざ深く考える必要もないのかもしれない、と思った。

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