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第23章 四年次・7月(1)
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第23章 四年次・7月
翌朝、案の定、茂はいつもの茂だった。
昨日の夜にあったことなんて忘れたような顔で、能天気に高志に挨拶し、話し掛けてきた。高志もなるべく何もなかったように接したが、上手くできている自信は全くなかった。そしてそれにすら気付かないふりができる茂に対して、分かってはいてもまたそのすごさを実感した。
その日は茂が専門学校に行くと言うので、午前中に一緒に部屋を出て大学前で朝食を取ってから、電車で途中まで一緒に帰った。専門学校の最寄り駅で、茂は「じゃあな」と手を挙げて降りていった。
一人になると、高志は車窓から見える景色を目で追いながら、昨日のことを思い返した。
昨日、自分が茂に対して抱いた荒々しい衝動は、もはやあの時の生々しさのまま心の中で再現することは難しかったが、それでも充分なインパクトと共に高志の頭の中に残っていた。
今まで、遥香にも咲にも、行為の最中にあんな攻撃的な気分になったことなどなかった。あれはむしろ暴力と言えた。相手が男であるが故に生じた示威衝動だったのかもしれないが、高志はそんなものを茂に対して向けたくはなかった。そんなものは必要なかった。茂は初めから高志に無防備な姿を晒してされるがままになっていたのだから。
あの高志の容赦のない突き上げを受け止めながら、茂は何を思っただろうか。高志の持った、敵意にも似た感情を感じ取っただろうか。もっと茂の体に配慮した動き方をすべきだったのに、そして初めはそうしていたはずだったのに、いつの間にかあんな感情が湧き上がり、それに支配されていた。
再び茂と体を繋げたという事実よりも、茂に対して覚えた自分自身の感情の方が高志にとっては衝撃だった。恐怖と言ってもよかった。あんな感情を茂に対して持ちたくない。もう二度と持ちたくない。
茂に謝りたいとすら思ったが、こんなことを言える訳がなかった。
その後も茂とは週に一度顔を合わせたが、高志にとって幸いなことに、あれ以降は学校以外で会う機会はなかった。
試験まで二か月を切り、茂は毎日勉強に追われている様子だった。ゼミが始まる前、教授が来るまでのほんの少しの待ち時間でもテキストを開いて理論の暗記をしていたし、毎日専門学校の自習室に通って朝から晩まで勉強していると言っていた。
それでも茂は、必ずゼミが終わった後には高志をカフェに誘った。「金曜日のこの時間だけが息抜きだから」と言って、決してそこだけは削ろうとしなかった。
高志はできることならしばらくは茂と距離を置きたかった。
しかし、もしそうすれば茂はすっぱりと自分との関係を断つに違いないと思った。そこには不思議なほどの確信があった。そのため、結局は言われるがままにその誘いに乗った。自分の態度がどの程度不自然だったのかは自分では分からないが、茂はそんなことには気付かないかのように、いつもと同じ笑顔を見せていた。
そうして日を重ねていくうちに、高志の中でもあの夜の出来事は少しずつ過去のものとなっていった。茂の顔を見る度に思い出していた罪悪感も、変わらずにその笑顔を向けられるうちに、徐々に日常に埋没していった。学校で会う茂は、どう見てもただの親しい友人だった。高志と話しながらリラックスして笑う茂の顔を見ながら、週を追うごとに、高志は茂に対する穏やかな親しみを少しずつ取り戻していった。
翌朝、案の定、茂はいつもの茂だった。
昨日の夜にあったことなんて忘れたような顔で、能天気に高志に挨拶し、話し掛けてきた。高志もなるべく何もなかったように接したが、上手くできている自信は全くなかった。そしてそれにすら気付かないふりができる茂に対して、分かってはいてもまたそのすごさを実感した。
その日は茂が専門学校に行くと言うので、午前中に一緒に部屋を出て大学前で朝食を取ってから、電車で途中まで一緒に帰った。専門学校の最寄り駅で、茂は「じゃあな」と手を挙げて降りていった。
一人になると、高志は車窓から見える景色を目で追いながら、昨日のことを思い返した。
昨日、自分が茂に対して抱いた荒々しい衝動は、もはやあの時の生々しさのまま心の中で再現することは難しかったが、それでも充分なインパクトと共に高志の頭の中に残っていた。
今まで、遥香にも咲にも、行為の最中にあんな攻撃的な気分になったことなどなかった。あれはむしろ暴力と言えた。相手が男であるが故に生じた示威衝動だったのかもしれないが、高志はそんなものを茂に対して向けたくはなかった。そんなものは必要なかった。茂は初めから高志に無防備な姿を晒してされるがままになっていたのだから。
あの高志の容赦のない突き上げを受け止めながら、茂は何を思っただろうか。高志の持った、敵意にも似た感情を感じ取っただろうか。もっと茂の体に配慮した動き方をすべきだったのに、そして初めはそうしていたはずだったのに、いつの間にかあんな感情が湧き上がり、それに支配されていた。
再び茂と体を繋げたという事実よりも、茂に対して覚えた自分自身の感情の方が高志にとっては衝撃だった。恐怖と言ってもよかった。あんな感情を茂に対して持ちたくない。もう二度と持ちたくない。
茂に謝りたいとすら思ったが、こんなことを言える訳がなかった。
その後も茂とは週に一度顔を合わせたが、高志にとって幸いなことに、あれ以降は学校以外で会う機会はなかった。
試験まで二か月を切り、茂は毎日勉強に追われている様子だった。ゼミが始まる前、教授が来るまでのほんの少しの待ち時間でもテキストを開いて理論の暗記をしていたし、毎日専門学校の自習室に通って朝から晩まで勉強していると言っていた。
それでも茂は、必ずゼミが終わった後には高志をカフェに誘った。「金曜日のこの時間だけが息抜きだから」と言って、決してそこだけは削ろうとしなかった。
高志はできることならしばらくは茂と距離を置きたかった。
しかし、もしそうすれば茂はすっぱりと自分との関係を断つに違いないと思った。そこには不思議なほどの確信があった。そのため、結局は言われるがままにその誘いに乗った。自分の態度がどの程度不自然だったのかは自分では分からないが、茂はそんなことには気付かないかのように、いつもと同じ笑顔を見せていた。
そうして日を重ねていくうちに、高志の中でもあの夜の出来事は少しずつ過去のものとなっていった。茂の顔を見る度に思い出していた罪悪感も、変わらずにその笑顔を向けられるうちに、徐々に日常に埋没していった。学校で会う茂は、どう見てもただの親しい友人だった。高志と話しながらリラックスして笑う茂の顔を見ながら、週を追うごとに、高志は茂に対する穏やかな親しみを少しずつ取り戻していった。
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