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File01 異世界で、科学捜査官ならぬ魔法捜査官になった件
#11 サミちゃん その4
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先生たち、それにサミちゃんがエリスのほうを見た。
エリスは見るからに動揺していた。
唇を噛み、拳を握りしめている。そして、
「そうですわ! 壺をあの子の部屋に置いたのはわたくしですわ!」
髪をかきむしり、エリスは叫んだ。
「どうしてこんなことしたんだ?」
サミちゃんを陥れたエリス。オレは許せなくて声を上げた。
「あの子が嫌いだからですわ! アカデミーから消えてほしかったのっ!」
オレの問いに答えるように、エリスのサミちゃんへの罵倒がはじまった。
「はじめて会った時から気に入らなかった。田舎郷士の娘のくせに、このわたくしを、平民と同列に扱って!」
サミちゃんは誰に対しても丁寧に、敬意を持って接する。
それがサミちゃんのいいところだ。ところがエリスはそれを侮辱と受け取った。
ドジっ子で失敗ばかりだけど、サミちゃんは周りから愛されている。それがムカついたという。
極めつけは、サミちゃんがコンクールで入賞したことだった。
ちょっと懲らしめてやれ、という軽い気持ちでエリスは、不正の告発文を出した。
ところがサミちゃんは頑として不正を認めない。
エリスは焦り、ムカついた。そこでイーサーの壺を持ちだし、サミちゃんの部屋に隠したのだった。
× × ×
「まさかサミちゃんを嫌うヤツがいるなんて思いませんでしたよ」
エリスが自供した後、オレとのじゃ子さんは、二人でアカデミー内のカフェに来ていた。
先生たちは、エリスの処分とサミちゃんへの相談があるとのことで、別室で話している。
「まだ若いな」
苦笑してのじゃ子さんが言った。
「憧れと嫉妬、愛憎の分岐はささいなものじゃ。己と正反対の人間を好ましく思うこともあれば、自分を否定する存在と映ることもある」
そう語るのじゃ子さんは、幼いのに賢者の顔をしているように見えた。
気がつけば太陽は街の建物の近くにまで降りていて、世界を赤く染めていた。
もう夕方か…と思った時、サミちゃんが戻って来た。
「先生、それにソータさん。本当にありがとうございました」
ぺこり、とサミちゃんはお辞儀して言った。
「これで晴れてサミちゃんはアカデミーに復帰できるね」
エリスのことは、結果としてサミちゃんを傷つけてしまったけど、これで万事解決だよな。と、思っていたら──
「自主退学を勧められました」
力なく笑って、サミちゃんが言った。
「な…なんで?」
「エリスさんだけを退学処分にしたら、後々困ることになるみたいです。ですから、わたしも、と」
「エリスの家──ソーエラ伯爵家は大貴族じゃ。アカデミーへの寄付も多いからな」
のじゃ子さんが言う。
「サミちゃん、まさか承知したの?」
オレの問いに、サミちゃんは小さく頷いた。
「どうして!!」
「わたしがエリスさんを傷つけていたことは事実ですから」
「そんな! そんなことって──」
大声を上げようとするオレの手を小さな手がつかんだ。のじゃ子さんだ。
「察してやれ。この状況でサミがアカデミーにいられると思うか?」
「お二人は、わたしが不正を働いていないことを証明してくれました」
涙をこぼしながら、サミちゃんは笑ってみせた。
「それで十分です。ほんとうに、ありがとうございました」
そして、ぺこりとお辞儀をするとオレたちに背を向けた。
帰って行くサミちゃんの細い背中を、オレはただ見送るしかなかった。
「アカデミーのバカ共が。この国は、有能な術師を一人失ったぞ」
のじゃ子さんが冷たい怒りを燃やし、吐き捨てた。
「何も…できなかった…!」
オレは頭を抱え、うずくまった。
サミちゃんを助けられたと思ったのに、学校に復帰は叶わなかった。
真犯人を見つけたけど、サミちゃんを傷つけただけの結果になった。
「お主はサミを救ったぞ。疑惑を晴らし、名誉を回復したのじゃ」
ぽんぽんとオレの頭をたたいてのじゃ子さんが言った。
「ヘタな慰めはよしてください」
小さい女の子に慰められるのがカッコ悪くて、オレは顔を上げられなかった。
「いやいや、お主の知識と機転は大したものじゃ。さすがはマロウド。この大賢者すら思いもよらぬ知恵がある」
「ドラマの知識ですよ」
「科学捜査とかいうヤツじゃな。それをこの国でやってみないか?」
「えっ?」
いきなりの申し出に、オレは思わず顔を上げた。
「この国──いやこの世界は、犯罪捜査の技術や手法がまるでなっておらん。それ故、罪を逃れて笑う者、冤罪に泣く者が数多くいる。お主がこの世界に招かれたのは、これを正すためではないかと思うのじゃ」
「はあ」
「わしの考え通りなら、お主の捜査手法がこの国に根付いた時、元の世界に還ることができるじゃろう」
「ほんとに?」
「あくまで仮説じゃがな」
「むぅ……」
仮説か。
でも、今のところ、これが元の世界に還る唯一の方法なんだよな。
それに、何かしら仕事を見つけないと生きて行けない。知らない世界で職探しするよりいいだろう。
「……やります!」
オレは心を決めた。
このファンタジーな異世界で科学捜査官になるんだ。
いや魔法文明の世界だから魔法捜査官だな。科捜研ならぬ魔捜研だ。
「うむ、よう言った。詳しいことは晩メシでも食いながら話そうか」
先に立って歩き出すのじゃ子さん。
「……そうだ!」
のじゃ子さんの後を追いかけようとして、オレはあることを思いついた。
「一つ、お願いがあるんですが」
エリスは見るからに動揺していた。
唇を噛み、拳を握りしめている。そして、
「そうですわ! 壺をあの子の部屋に置いたのはわたくしですわ!」
髪をかきむしり、エリスは叫んだ。
「どうしてこんなことしたんだ?」
サミちゃんを陥れたエリス。オレは許せなくて声を上げた。
「あの子が嫌いだからですわ! アカデミーから消えてほしかったのっ!」
オレの問いに答えるように、エリスのサミちゃんへの罵倒がはじまった。
「はじめて会った時から気に入らなかった。田舎郷士の娘のくせに、このわたくしを、平民と同列に扱って!」
サミちゃんは誰に対しても丁寧に、敬意を持って接する。
それがサミちゃんのいいところだ。ところがエリスはそれを侮辱と受け取った。
ドジっ子で失敗ばかりだけど、サミちゃんは周りから愛されている。それがムカついたという。
極めつけは、サミちゃんがコンクールで入賞したことだった。
ちょっと懲らしめてやれ、という軽い気持ちでエリスは、不正の告発文を出した。
ところがサミちゃんは頑として不正を認めない。
エリスは焦り、ムカついた。そこでイーサーの壺を持ちだし、サミちゃんの部屋に隠したのだった。
× × ×
「まさかサミちゃんを嫌うヤツがいるなんて思いませんでしたよ」
エリスが自供した後、オレとのじゃ子さんは、二人でアカデミー内のカフェに来ていた。
先生たちは、エリスの処分とサミちゃんへの相談があるとのことで、別室で話している。
「まだ若いな」
苦笑してのじゃ子さんが言った。
「憧れと嫉妬、愛憎の分岐はささいなものじゃ。己と正反対の人間を好ましく思うこともあれば、自分を否定する存在と映ることもある」
そう語るのじゃ子さんは、幼いのに賢者の顔をしているように見えた。
気がつけば太陽は街の建物の近くにまで降りていて、世界を赤く染めていた。
もう夕方か…と思った時、サミちゃんが戻って来た。
「先生、それにソータさん。本当にありがとうございました」
ぺこり、とサミちゃんはお辞儀して言った。
「これで晴れてサミちゃんはアカデミーに復帰できるね」
エリスのことは、結果としてサミちゃんを傷つけてしまったけど、これで万事解決だよな。と、思っていたら──
「自主退学を勧められました」
力なく笑って、サミちゃんが言った。
「な…なんで?」
「エリスさんだけを退学処分にしたら、後々困ることになるみたいです。ですから、わたしも、と」
「エリスの家──ソーエラ伯爵家は大貴族じゃ。アカデミーへの寄付も多いからな」
のじゃ子さんが言う。
「サミちゃん、まさか承知したの?」
オレの問いに、サミちゃんは小さく頷いた。
「どうして!!」
「わたしがエリスさんを傷つけていたことは事実ですから」
「そんな! そんなことって──」
大声を上げようとするオレの手を小さな手がつかんだ。のじゃ子さんだ。
「察してやれ。この状況でサミがアカデミーにいられると思うか?」
「お二人は、わたしが不正を働いていないことを証明してくれました」
涙をこぼしながら、サミちゃんは笑ってみせた。
「それで十分です。ほんとうに、ありがとうございました」
そして、ぺこりとお辞儀をするとオレたちに背を向けた。
帰って行くサミちゃんの細い背中を、オレはただ見送るしかなかった。
「アカデミーのバカ共が。この国は、有能な術師を一人失ったぞ」
のじゃ子さんが冷たい怒りを燃やし、吐き捨てた。
「何も…できなかった…!」
オレは頭を抱え、うずくまった。
サミちゃんを助けられたと思ったのに、学校に復帰は叶わなかった。
真犯人を見つけたけど、サミちゃんを傷つけただけの結果になった。
「お主はサミを救ったぞ。疑惑を晴らし、名誉を回復したのじゃ」
ぽんぽんとオレの頭をたたいてのじゃ子さんが言った。
「ヘタな慰めはよしてください」
小さい女の子に慰められるのがカッコ悪くて、オレは顔を上げられなかった。
「いやいや、お主の知識と機転は大したものじゃ。さすがはマロウド。この大賢者すら思いもよらぬ知恵がある」
「ドラマの知識ですよ」
「科学捜査とかいうヤツじゃな。それをこの国でやってみないか?」
「えっ?」
いきなりの申し出に、オレは思わず顔を上げた。
「この国──いやこの世界は、犯罪捜査の技術や手法がまるでなっておらん。それ故、罪を逃れて笑う者、冤罪に泣く者が数多くいる。お主がこの世界に招かれたのは、これを正すためではないかと思うのじゃ」
「はあ」
「わしの考え通りなら、お主の捜査手法がこの国に根付いた時、元の世界に還ることができるじゃろう」
「ほんとに?」
「あくまで仮説じゃがな」
「むぅ……」
仮説か。
でも、今のところ、これが元の世界に還る唯一の方法なんだよな。
それに、何かしら仕事を見つけないと生きて行けない。知らない世界で職探しするよりいいだろう。
「……やります!」
オレは心を決めた。
このファンタジーな異世界で科学捜査官になるんだ。
いや魔法文明の世界だから魔法捜査官だな。科捜研ならぬ魔捜研だ。
「うむ、よう言った。詳しいことは晩メシでも食いながら話そうか」
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「……そうだ!」
のじゃ子さんの後を追いかけようとして、オレはあることを思いついた。
「一つ、お願いがあるんですが」
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