まじらぼ  冤罪を魔法で科学捜査して晴らす研究所

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File02 ファンタジー世界に岡っ引き娘がいた件

#04 聖女さま?

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     1


「おら、入りやがれ!」

 三人の護民兵たちが連行してきたのは、やせた男だった。部屋に入るなり蹴飛ばされ、床に倒れた。年齢は25、6くらい。貧相な身なりをしている。

「この男が犯人なんですか?」

 尋ねると、三人の護民兵が一斉にこっちを見た。

「なんだてめぇは?」

 三人ともガタイが良くて人相が悪い。刑事ドラマならギャングとかマフィアの下っ端にいるような顔つきだ。……睨まれるとちょっとこわい。

「魔捜研だってよ。例のコロシを調べに来たそうだ」

 オレが答える前に、ペイジが紹介した。
 平然としている。同僚だからかな。なんか悔しい。

「そんなことより、そいつが下手人なのかい?」
「名前はフーゴ。流れモンだ」
「オレは殺しちゃいない! 本当だ!」

 容疑者─フーゴが声を上げた。
 ケガをしているのか、右腕はだらりとたれたままだ。

「じゃあなんで逃げた?」
「それは…!」

 フーゴは目を逸らした。

「殺されたヨナとてめぇが揉めてたって証言もある」
「あれは…ツケを待ってくれないか頼んでたんだ」
「へぇ、じゃあこのカネはなんだ?」

 別の護民兵が、テーブルの上に小袋を放り出した。口のところのヒモがゆるんでいて、放り出されたはずみで数枚の銀貨がこぼれ出た。

「ヨナを殺して、店から奪ったんだろ!」
「す、水路の工事で稼いだんだ」

 脂汗をたらしながらフーゴが言う。

 脅えている。
 殺人は死罪だ。だから脅えているのか。それとも護民兵がおっかないからか。どっちだろう……。

「ウソをつくな!」
「本当だ! 信じてくれ!」
「どうやら痛い目にあいてぇようだな。立たせろ!」

 護民兵のリーダー格が言うと、二人がフーゴの両腕をつかんで立たせる。

「痛でででてッ」

 フーゴが悲鳴を上げる。
 やはり右腕をケガしている。かなりひどいケガみたいだけど、連行される時に殴られたのか?

 いや、それよりこの流れ! 自白するまで拷問する気だ!

 ──この世界には人権がない。

 オレも何日か前、見慣れないヤツ、というだけで逮捕され、拷問されかかった。

 あやしいヤツは片端から連行。拷問して自白したら死刑が当たり前。あとで冤罪だとわかっても誰も責任を取らない。
 それがこの世界なんだ。

「まちな!」

 ペイジが声を上げた。

「水路の工事だと言ったな? どこだい?」
「ええっと…ポロック通りだ。信じてくれ!」

 必死に訴えるフーゴ。

「こう言ってるぜ? まずは工事の親方あたりにウラ取ったほうがいいんじゃねぇか?」

 護民兵たちのほうを向いてペイジが言う。彼女も脳筋かと思ったけど、そうでもないのか。

「日雇いの顔なんざ覚えてるかよ」
「痛めつけてゲロさせたほうが早いぜ」

 しかし護民兵たちは聞く耳持たなかった。

「ものはコロシだぞ? 間違いがあったらどうすンだ!」
「知ったことか! 下手人を挙げるのがオレらの役目だ!」

 ペイジと他の護民兵たちが言い争っている。

 ──そうだ。

 オレはあることを思いつき、それが可能かどうか、のじゃ子さんに尋ねた。

「できるか、じゃと? わしは大賢者じゃぞ」

 フンっ! と笑って、のじゃ子さんは薄い胸を張った。

 よし! オレは大きく息を吸い込んだ。

「この人が犯人かどうか、確かめてみないか」


     2


 ペイジと護民兵たち、それに容疑者のフーゴが一斉にオレを見た。

「マジか?」

 疑いの目、目、目…ピンチにあるフーゴも半信半疑だ。

「お願いします」

 オレがのじゃ子さんに言った時、彼女はすでに光るルーン文字を空中に描いていた。

「この者は、右腕をひどく痛めておる。おそらく水路の工事でじゃろう」
「あ、ああ、そうだ」

 フーゴはかくかくと頷いた。
 そこでちょうどのじゃ子さんの魔法が完成した。小さな指でフィニッシュの二本線を描くと、フーゴの右腕がぼんやり光った。

「な、なんだ?」
「怖がらずともよい。お主の腕の痛み具合を視覚化するため、色分けしてあるのじゃ」

 フーゴの光る右腕は、赤、黄色、青色の三色に色分けされていた。見た目はサーモグラフィーによく似ている。

「赤い部分が損傷が大きいところじゃ。多少、回復しておるところをみると痛めたのは二、三日前じゃな」
「二日前だ。工事の最終日でムリして石を持ったら、ひどい痛みがして……」

 のじゃ子さんの問いにフーゴが答える。

「筋をひどく痛めてるな。これじゃ枕を持ち上げるのもキツいだろ」

 色分けされたフーゴの腕を見てペイジが言う。
 これ見てそこまでわかるってことは、医療の知識があるのか?

「殺害に使われた凶器は重い、鈍器のようなものだ。この腕じゃとてもムリだ」

 言ったあとでちょっと不安になったので、

「──ですよね、のじゃ子さん?」

 と、小声で確認する。

「うむ。この者の腕では犯行は不可能じゃ」

 のじゃ子さんはきっぱり断言した。

「ケッ! 紛らわしい!」
「目障りだ! とっとと消えろ!」

 不機嫌に怒鳴ると、三人の護民兵は出て行った。
 オレを捕まえた騎士団と同じだ。謝罪の言葉もない。
 これが、この国の警察に相当する組織なんだ。

「あんた何者だい? 今の、高度な魔法だろ」

 ペイジがのじゃ子さんに尋ねた。

「わしは魔捜研の所長、大賢者ノーマ・ナージャ・コンリーロじゃ」
「大賢者さま! これはおみそれしやした」

 ペイジが目を見開いた。

「さすが大賢者先生だ。コイツの腕のこと、よく気がつきましたね」
「気づいたのはソータじゃよ」
「……え?」

 またしても驚くペイジ。
 でも、今度のはなんかムカつく驚き方だ。ホントに? という顔でオレを見ている。

「こう見えてもこやつはマロウド──異なる世界から来た知恵者じゃぞ」
「へぇ、マロウドかい」

 ──稀迷客マロウド

 この世界では、別の世界から来た者をそう呼ぶ。

「あ、だからトイレのドアの前で脂汗かいてたのか! 魔力足りなかったんだ!」

 そう言うと。ペイジは声を上げて笑った。

 こいつ、かわいいのは顔だけだな。くそう。


     3


「迷惑かけたな」

 床にへたりこんでるフーゴの前にしゃがみ、ペイジが言った。

「詫びの代わりだ。その腕、アタイにみせてくれねぇか」

 そう言うと、ペイジはフーゴの右腕に手をかざした。

「法と正義の神テージャスよ。我が祈りに応え、傷つきしものを癒やしたまえ」

 かざした手の平に、白くやわらかな光が生まれた。

「ああ…痛みが消えてゆく…!」

 フーゴが驚きと喜びの声を上げる。
 マジで治っている。おまじないとかじゃなくて。

「ペイジって魔法使えるの?」
「神聖魔法じゃな」

 驚くオレにのじゃ子さんが説明する。

「祈りを捧げることで神とアクセスし、その力を降ろす。それが神聖魔法じゃ」
「この世界って、神さまがいるんですか?」

 魔法がある世界だから、神さまがいてもおかしくないけど。

「正確には、この世界にはいない」
「どういうこと?」
「お主の世界には魔法がない。その理由にも関わることじゃ」

 のじゃ子さんの魔法や神さまの講義が始まった。
 それをまとめると、次のようになる。

 いわゆるマルチバースは、大きく分けると二つに分類される。

 エネルギーが物質より優位な上位世界ハイアース。
 物質がエネルギーより優位な下位世界マットアース。

 エネルギーが優位になるほど、物質とエネルギーの境界はあいまいになるらしい。
 つまり物質からエネルギーを取り出すこと、エネルギーを物質に変換することが簡単にできる──これが魔法だ。

 逆に物質が優位な下位世界では、物質とエネルギーはきっちり分かれてしまう。
 物質からエネルギーを取り出すのは難しくなり、エネルギーを物質にすることはできない。
 この下位世界では、魔法に代わって物理法則が支配する。つまりオレがいた世界だ。
 オレらの世界で魔法や超能力が存在しないのは、物質がエネルギーより優位だから、というわけだ。

 そして究極の上位世界では、物質はほぼ存在せずエネルギーだけになる。
 そこにいる生命体はいわゆる精神だけの存在──これが神や天使という存在だ。
 ちなみに悪魔がいる魔界もこの究極の上位世界だ。
 のじゃ子さんが言うには、

「観測する者によって現れ方が異なる」

 ということなんだけど、よくわからない。
 とにかく、神とか悪魔は上位世界にいる精神生命体、エネルギー知性体だってことだ。

「ちなみに、わしらがいるこの世界はミドルアースと呼ばれている。エネルギーと物質の均衡が取れているのじゃ」
「だから魔法や神の奇跡が存在しているわけですか」

 なんとなくわかった。……と、思う。

「ありがとうございます。おかげですっかりよくなりました」

 治癒魔法が終わり、フーゴが治った右腕をぐるぐる回してみせた。その直後、フーゴのハラがぐぅ…と鳴った。

「ハラ減ってるなら神殿に来いよ。炊き出しやってるからよ」
「いや、しかし……」
「遠慮すんなって。そうだ、仕事も世話できるかもしれねぇ。すぐ行こうぜ」

 善は急げとばかり、ペイジは立ち上がった。

「ペイジって、神殿に顔が利くんだ」

 思わず声に出して言うとペイジは、

「へへ、今は護民兵やってるけどよ。ちょい前までテージャスの聖女だったんだぜ」

 と、照れくさそうに笑った。

「せ、聖女ぉ?」

 ヘンな声が出てしまった。
 聖女って、清楚で、穏やかで、優しいってイメージなんだけど。ファンタジー世界じゃ違うのか?

「なンだよ? アタイが聖女じゃおかしいか?」
「いえ、意外だっただけです」

 ペイジに睨まれ、オレはあわてて言い訳した。

「まあ、このナリだからな」

 ペイジは苦笑して肩をすくめた。アツくなるのも冷めるのも早いな。

「そうだ。ソータと先生も一緒に来なよ。礼に茶くらい飲ませてやっからよ」
「礼って?」
「こいつが無罪って証明してくれたじゃねぇか」

 と、フーゴを指差すペイジ。

「冤罪はよくねぇ。下手人を捕まえるのは大事だが冤罪はよくねぇ」

 つぶやくように言うペイジ。

 その顔は、真剣というか思い詰めているようで──

 バンっ! とペイジが手を打った。

「よし決めた!」
「な、何を?」
「お前ら魔捜研は信用できそうだ。手ぇ組んでやるぜ」

 手を組む? 協力してくれるってことか?

「この二代目ペイジさまが協力してやるってンだ。ありがたく思えよ!」

 そんなわけで、護民兵で元聖女のペイジが仲間になった。

 しかし、なんで上から目線なんだよ。コイツは。
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