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File02 ファンタジー世界に岡っ引き娘がいた件
#エピローグ
しおりを挟む「幸運を招く像で殺人事件なんて、悲しいですね」
サミちゃんがハーブティとクッキーを運んで来た。
魔捜研の会議室兼ラウンジである。
オレは騎士団の取り調べに立ち会い、裁判所にレポートを提出した際に知ったことを、みんなに報告していた。
「はじめの現場検証の時、凶器がなかったのは何故?」
クッキーをポリポリ食べながらクロエさんが尋ねた。
「ガスが持ち帰ったンだ」
同じくクッキーをボリボリかじりながらペイジが答える。
「だけど家に戻ってから怖くなった。血まみれのグリフォン像は、幸運どころか災いを招くもののように見えたんだとよ」
人を殺した凶器だ。そりゃ怖いだろう。
ガスは急いで血を洗い流したそうけど罪悪感が消えるわけもない。
そしてガスは気づいた。
グリフォン像がなくなっていることがわかれば、自分に疑いが向くのでは、と。
で、オレたちが帰った後、こっそり元あった場所に戻したのだった。
「わざわざ元の場所に戻さず、運河にでも捨てればいいのに」
「ガスがクロエさんみたいに図太くなくてラッキーでしたよ」
「ほんとね」
イヤミを言ったのに動じてない。
「オヤジがよく言ってたぜ。下手人の大半はキモの小さいヤツだ…ってな」
ペイジが言う。
「キモが小さいのにコロシなんて大それたことやっちまった。頭ン中は恐怖でいっぱい。で、血を拭って元の場所に戻せばバレない…なんてガキみたいなこと考えた」
端から見れば非合理的な行動だ。
ドラマではあまり見かけないけど、リアルでは割りとあるのだろう。
「現場の封鎖を徹底しないとな。こんなラッキー、二度とないだろうから」
事件現場は、シーマンたち護民兵が見張っているはずだった。
だけど連中は、オレたちが帰ると自分たちも引き上げてしまった。だからガスは簡単に侵入し、凶器を戻すことができたのだった。
「騎士団の意識も変える必要があるのう」
と、のじゃ子さん。
今回はガスの工作が裏目に出て事件が解決したけど、こんな幸運は二度とないだろう。証拠がなくなる可能性だってある。
「あいつらの意識なんて変えられるの?」
「無理だろうな」
クロエさん、そしてペイジが忌々しそうに言う。
シーマンはシドの旦那にこっぴどく叱られたそうだけど、それだけだった。
罰せられたり、クビになったりはしていない。
魔捜研初の殺人事件は、のじゃ子さん、サミちゃん、クロエさん、それにペイジの協力で解決できた。
でも、オレの気分は晴れない。
のじゃ子さんは言った。
──この世界は、犯罪捜査の技術や手法がまるでなっておらん。
──お主の捜査手法がこの国に根付いた時、元の世界に還ることができるじゃろう。
科学捜査の手法をこの世界に根付かせる。
てもそのためには、騎士団はじめとする人々の意識。法律の不備。社会そのものを変える必要がある。
今回、それを思い知った。
そんなこと、オレなんかにできるのかな……。
こんなんで、この国に、科学捜査ならぬ魔法捜査を根付かせることができるのか。
そして、オレは元の世界に還ることができるのか。
考えるほどに鬱々してきた。そこに──
パタパタと羽音を立ててメールバードが飛び込んで来た。
半透明の小鳥はテーブルの上で旋回すると、ぽんっ! と手紙に戻ってのじゃ子さんの前に落ちた。
「ほほう…これは」
手紙を読んですぐ、のじゃ子さんは笑みを浮かべた。
「このラボに期待している、との手紙じゃ。いわゆるファンレターじゃな」
「え?」
そんなものが来るなんて思いもしなかった。
「街でも評判ですよ。いろんな新聞にも載ってましたから」
サミちゃんが言う。そこに──
どばばば! と、何十というメールバードの群れが飛び込んで来た!
呆気にとられるオレたちの前で、ぽぽぽぽんっ! と破裂音が連続して上がり、テーブルに手紙の山ができた。
「これも…これもファンレターよ」
封を切ってクロエさんが言う。
「マジで?」
何十という手紙は魔捜研への期待や応援メッセージだった。
「これだけ期待されておるということじゃな。ソータ」
のじゃ子さんの言葉に、オレは我に返った。
感動で頭が真っ白になっていたのだ。
「濡れ衣を着せられるところ、助けていただきありがとうございます──サナさんからのお礼状だぜ。ソータ!」
ペイジがオレの肩をたたいた。
そうだった。
事件の解決は、冤罪を防ぐことにもなるんだ。
そしてオレたちは、こんなにも期待され、必要とされている。
感動で目が潤むのを誤魔化すため、オレはわざと大きなため息をついて、
「じゃあ、これからもがんばりますか!」
と、ハーブティのカップを掲げた。
「おーっ!」
みんなも乾杯するようにティーカップを上げた。
今日のハーブティーは、とんでもなく美味かった。
(File02 おわり)
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