ヴァレン兄さん、ねじが余ってます

四葉 翠花

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05.大切な預かりもの

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「僕の父は成り上がりの騎士で、いちおう僕が跡継ぎなのですが……見てのとおり、僕は気が強いとは言いがたくて……。おまえは心を鍛えろと言われまして……友人に鍛えるにはどうすればよいか尋ねたところ、やはり男なら酒や賭博だなと」

 ぽつぽつと客が語り出す。

「はあ……でも、どうして俺に……」

 ヴァレンは苦しげな呻きを漏らした。

「あなたが賭博王にして酒豪王だという話を聞きました。ぜひ、教えていただきたいと思ってやって来たんです!」

 切実な声で客が訴える。しかしヴァレンは頭を抱えるより他なかった。
 確かにヴァレンは賭博で、通常は返済に五、六年かかるような借金を一晩にして完済したという伝説を持っている。
 飲み比べを挑まれることも多いが、一度も負けたことはない。酒豪王を名乗れとは、ミゼアスにも言われたことがある。

 しかし今は、品行方正に生きようと決めているのだ。
 ミゼアスが島を去ったとき、ミゼアス付きだった見習いたちはヴァレンが受け入れた。ヴァレンにとっては大恩あるミゼアスからの、大切な預かりものである。
 その子たちの前ではとんでもないことを仕出かすのはやめようと、ヴァレンは決意したのだった。

「ヴァレン兄さん、教えてさしあげたらいかがですか?」

「お客様のお望みを叶えることこそ、務めですよね」

「ヴァレン兄さんなら、できます!」

 大切な預かりものたちが、口々にヴァレンをそそのかす。
 言葉だけ聞いていれば客のことを考えているかのようだが、彼らの瞳には期待と面白がる様子がありありと浮かんでいた。
 ヴァレンの中で、何かが崩れていった。
 品行方正に生きようという決意など、所詮は砂上の楼閣に過ぎなかったのかもしれない。立派に掲げられた決意は、さらさらと音を立てて砂と化していくかのようだった。

「そうかい……わかったよ……。酒に賭博、叩き込んでやろうじゃないか!」

 脆い決意など捨て去り、ヴァレンは拳を握り締めて叫ぶ。客が顔を輝かせ、見習いたちはのんきに拍手を始める。
 ヴァレンは睨むように、見習いたちに向き直った。

「ほら、きみたちも! 酒はまだ早いだろうけれど、賭博はきみたちにも仕込んでやるよ!」
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