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第三章 巡り会い
89.欲しいもの
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「あ……おはよう……」
朝、一階にある食堂に行くと、リーゼがぼそぼそと小さな声で呟く。
いつも元気な挨拶をするリーゼにしては珍しい。心なしか、顔も赤いようだ。もしかしたら、風邪でも引いて熱があるのだろうか。
「おはようございます。ゆうべはお楽しみでしたね」
心配しかけたミゼアスだったが、朝食を運んできたおかみさんの言葉で全てを理解した。
激しかったから聞こえてしまったのか、とミゼアスは納得する。
初々しい反応をするリーゼとは対照的に、おかみさんはいつもどおりの穏やかな様子だ。
おかみさんとリーゼの容姿はよく似ていて、おかみさんはリーゼが二十年もすればこうなるのだろうと思わせる。今は頬を染めて動揺しているリーゼも、そのうちおかみさんのようにどっしりと構えるようになるのだろうかと、ミゼアスはぼんやり思いを馳せる。
「……うぅ……」
奇妙な呻き声が聞こえてきたので、何かと思えばアデルジェスが卓に突っ伏していた。どうやら、恥ずかしいらしい。相変わらず、アデルジェスは照れ屋だ。
「ジェス、早く食べないと冷めるよ。今日は出かけるんでしょう?」
「う……うん……」
まだ俯き加減ではあったが、どうにかアデルジェスは顔を上げて食べ始める。
「ああ、そうだ。楽器を買うのならと思って、お金を引き出してきたんだ」
「え?」
ミゼアスがふと思い出したことを口にすると、アデルジェスがきょとんとした顔をして、食事の手を止めた。
「前に言わなかったっけ。僕の貯蓄、小額なら国内の都市で引き出せるんだ。この町でも引き出せるのはちょっと意外だったけれど、せっかくだから引き出してきた」
「……小額って、いくらくらい?」
「そこそこ良い楽器が買えるくらいはあるよ。余ったら、路銀の足しにしよう……って、どうしたの?」
すっかり力を失ったようにアデルジェスが崩れていくのを眺め、ミゼアスは首を傾げる。
「……何でもありません、ごめんなさい、ごめんなさい……」
ぶつぶつとアデルジェスが詫び続ける。
いったいアデルジェスはどうしてしまったのだろうか。よくわからないが、アデルジェスはときどき詫びの言葉をひたすら繰り返すことがある。きっと癖のようなものなのだろう。
ミゼアスは不思議に思いつつ、そっとしておいたほうがよいだろうと、食事を再開することにした。
「あ……これ、この間の漬物だ」
付け合せの漬物を見て、ミゼアスは呟きを漏らす。
一昨日、ミゼアスが足で踏んで作った漬物だった。もしかしてアデルジェスは苦手なのではないだろうかと、様子を伺う。
「え……? あ、これがそうなんだ……」
アデルジェスは苦笑いにも似た複雑そうな表情をしていたが、戸惑いのない動作で漬物を口に運ぶ。
「うん、美味しいよ、ミゼアス。その……昨日はごめん」
「もういいよ、気にしないで」
まだ気にしていたのかと、ミゼアスは苦笑をこらえ、安心させるように微笑みかける。
たとえ実際にはいまいちだったとしても、まずは試さねばわからないだろう。アデルジェスは気後れせず、気軽に要望を言ってほしいものだ。
もっとアデルジェスの望みを叶えてあげたい。立派な『およめさん』になって、アデルジェスをもっと幸せにしてあげたい。
アデルジェスの笑顔こそ、ミゼアスがもっとも欲しいものなのだから。
朝、一階にある食堂に行くと、リーゼがぼそぼそと小さな声で呟く。
いつも元気な挨拶をするリーゼにしては珍しい。心なしか、顔も赤いようだ。もしかしたら、風邪でも引いて熱があるのだろうか。
「おはようございます。ゆうべはお楽しみでしたね」
心配しかけたミゼアスだったが、朝食を運んできたおかみさんの言葉で全てを理解した。
激しかったから聞こえてしまったのか、とミゼアスは納得する。
初々しい反応をするリーゼとは対照的に、おかみさんはいつもどおりの穏やかな様子だ。
おかみさんとリーゼの容姿はよく似ていて、おかみさんはリーゼが二十年もすればこうなるのだろうと思わせる。今は頬を染めて動揺しているリーゼも、そのうちおかみさんのようにどっしりと構えるようになるのだろうかと、ミゼアスはぼんやり思いを馳せる。
「……うぅ……」
奇妙な呻き声が聞こえてきたので、何かと思えばアデルジェスが卓に突っ伏していた。どうやら、恥ずかしいらしい。相変わらず、アデルジェスは照れ屋だ。
「ジェス、早く食べないと冷めるよ。今日は出かけるんでしょう?」
「う……うん……」
まだ俯き加減ではあったが、どうにかアデルジェスは顔を上げて食べ始める。
「ああ、そうだ。楽器を買うのならと思って、お金を引き出してきたんだ」
「え?」
ミゼアスがふと思い出したことを口にすると、アデルジェスがきょとんとした顔をして、食事の手を止めた。
「前に言わなかったっけ。僕の貯蓄、小額なら国内の都市で引き出せるんだ。この町でも引き出せるのはちょっと意外だったけれど、せっかくだから引き出してきた」
「……小額って、いくらくらい?」
「そこそこ良い楽器が買えるくらいはあるよ。余ったら、路銀の足しにしよう……って、どうしたの?」
すっかり力を失ったようにアデルジェスが崩れていくのを眺め、ミゼアスは首を傾げる。
「……何でもありません、ごめんなさい、ごめんなさい……」
ぶつぶつとアデルジェスが詫び続ける。
いったいアデルジェスはどうしてしまったのだろうか。よくわからないが、アデルジェスはときどき詫びの言葉をひたすら繰り返すことがある。きっと癖のようなものなのだろう。
ミゼアスは不思議に思いつつ、そっとしておいたほうがよいだろうと、食事を再開することにした。
「あ……これ、この間の漬物だ」
付け合せの漬物を見て、ミゼアスは呟きを漏らす。
一昨日、ミゼアスが足で踏んで作った漬物だった。もしかしてアデルジェスは苦手なのではないだろうかと、様子を伺う。
「え……? あ、これがそうなんだ……」
アデルジェスは苦笑いにも似た複雑そうな表情をしていたが、戸惑いのない動作で漬物を口に運ぶ。
「うん、美味しいよ、ミゼアス。その……昨日はごめん」
「もういいよ、気にしないで」
まだ気にしていたのかと、ミゼアスは苦笑をこらえ、安心させるように微笑みかける。
たとえ実際にはいまいちだったとしても、まずは試さねばわからないだろう。アデルジェスは気後れせず、気軽に要望を言ってほしいものだ。
もっとアデルジェスの望みを叶えてあげたい。立派な『およめさん』になって、アデルジェスをもっと幸せにしてあげたい。
アデルジェスの笑顔こそ、ミゼアスがもっとも欲しいものなのだから。
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