僕はおよめさん!

四葉 翠花

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第三章 巡り会い

98.負い目

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「隔たりを感じる、ということかな?」

「はい……」

 情けなくなり、アデルジェスは力なく拳を握る。
 なんという浅ましい劣等感だろうか。ミゼアスはあれだけアデルジェスのことだけを一途に見つめてくれているというのに、このような情けない思いを抱くなど、自分で自分が許せないくらいだ。
 しかも、ほぼ初対面に近いイーノスに打ち明けるようなことでもないだろう。きっとイーノスも呆れるに違いない。

「わかるよ。俺だって、マリオンを見てよくそう思ったものだよ」

「え?」

 非難を覚悟していたアデルジェスの耳に意外な言葉が届き、アデルジェスは思わず間抜けな声を漏らしてしまった。
 今までの話だと、イーノスは不夜島に客として通っていたようである。ということは、それなりの身分や財産があったはずだ。隔たりを感じる理由などないように思える。

「俺は成り上がりの商人でね。ごく一般家庭の生まれだ。商売に必要なことはやっていくうちに覚えたが、もともとたいした学はない。不夜島の上級白花っていうのは、そこいらの貴族なんかよりも知性と教養を備えた存在だ。マリオンを見ていると、ふとした仕草に滲む品の良さや、優雅な食事のとり方など、俺とは違うなってよく思うよ」

 アデルジェスの疑問を見抜いたのだろう。イーノスはわずかに目を細めながら語り出す。

「でも、おかしなものでね。マリオンはマリオンで、俺に別なことで引け目を感じていたらしい。俺にしてみれば、何でそんなことでといったようなことだ。逆に俺が隔たりを感じる部分は、マリオンにとっては何故気にするのか理解しがたいらしい。お互い様だよ」

 肩をすくめ、イーノスは穏やかに微笑む。

「こういうことは、本人の気の持ちようとしか言いようがないからね。他人にできるのは助言程度で、結局は本人次第だ。ただ、そういった悩みはあなただけのものじゃない。あなたがおかしいわけではないよ。隔たりを感じてしまうのは、もう仕方がない。だから、どうしてそんなことを思ってしまうのだろうと、自分を責めないことだね」

 落ち着いたイーノスの言葉が、ゆっくりとアデルジェスに染みこんでいく。優しく後輩を導いてくれる先輩のようだ。
 イーノスもかつては似たような思いを抱き、悩んできたのだろう。だが、すでに壁を乗り越えた先達からは、余裕が感じられる。
 いつかアデルジェスもこのように、そういえばそんなこともあったと笑えるようになるのだろうか。

「まだ一緒になって日が浅いのだろう? そのうち、今は隔たりだと思っているものも、それはそういうものだとどうでもよくなってくるよ。焦らず、二人で時間を積み重ねていくといい。あのミゼアスからあれほど幸福そうな笑顔を引き出したのは、他でもないあなたなのだから、自信を持っていいと思うよ」

 勇気づけるような言葉が、アデルジェスの胸にくすぐったいような幸福感を与えてくれる。
 ミゼアスがアデルジェスと一緒にいて、幸せだと思ってくれているのは間違いないだろう。おかしな不安に惑わされず、ただミゼアスを幸せにすることだけを考えていればよいのだ。

 それに、ミゼアスはミゼアスで自らの過去に負い目を感じているように思える。
 アデルジェスの劣等感ともまた違う、深い傷が伺えた。
 この傷を癒していくのも、アデルジェスの役目だ。
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