僕はおよめさん!

四葉 翠花

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第三章 巡り会い

133.色褪せぬ花(完)

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 海岸に取り残されたミゼアスは、しばし海を見つめていたが、気を取り直して戻ることにした。
 つい先ほどまで周辺を埋め尽くしていた靄は綺麗に晴れ、穏やかな波の音が響いている。まるでヴァレンと会ったことすら、夢だったかのようだ。

「ミゼアス……!」

 夢の現実の狭間にいるようで混乱しているミゼアスの耳に、愛しい相手の声が響く。声の方向に目を向ければ、アデルジェスが海岸を走ってきていた。

「ああ……よかった……ミゼアスを追ってきたんだけど、靄がかかって見失っちゃったんだ。無事でよかったよ……」

 安心したように笑いながら、アデルジェスがミゼアスをそっと抱きしめる。

「……心配かけて、ごめん。ヴァレンを見送っていたんだ」

「ヴァレン? 無事に会えた?」

「うん、不思議な光景だったけど……ヴァレンは島に帰っていったよ」

「そっか、会えたならよかった」

 アデルジェスは優しく微笑む。ミゼアスを責めることなどせず、アデルジェスはそのまま受け入れてくれる。

「ジェス……僕、幸せだよ」

 傍らにはミゼアスを優しく抱きしめてくれるアデルジェスがいて、遠く離れた場所にいてもヴァレンとの繋がりは消えない。それだけではなく、ウインシェルド侯爵やマリオンなど、たくさんの温かい気持ちに包まれている。
 自らの幸福を噛み締め、ミゼアスはアデルジェスの胸に顔をすり寄せた。

「俺もだよ」

 二人でしばし幸せを確認しあった後、マリオンたちの家に戻っていく。
 ミゼアスのおよめさんとしての修行は、まだまだ始まったばかりだ。だが、これから一生をかけて精進していく心づもりである。
 きっといつか、立派なおよめさんになれる日がくるだろう。



「いやー、昨晩の兄ちゃんは凄かったな」

「十連勝した奴なんて、初めてだったよな。しかもあの飲みっぷり!」

「そうそう、『火竜の涙』を一気飲みだろ。あの口に入れただけで噴くような強い酒を、さ」

「あの綺麗な顔で、とんでもない兄ちゃんだったな。見かけない顔だったが、流れ者の賭博師かね」

 ミゼアスとアデルジェスが帰り道を歩んでいる途中、夜遊びの帰りらしい男たちとすれ違った。それ自体はどうということはないのだが、彼らが大声で交わす会話が聞こえてきて、ミゼアスは足を止めてしまう。

「でも、さっと消えちまったよな。残念だったな」

「まあ、下手したら賭博場自体潰しかねないくらいだったし、胴元も安心したんじゃないか」

 彼らは笑いながら、ミゼアスたちには構うこともなく、どこかへと去っていく。
 しかし、ミゼアスはどうにもいたたまれなくなり、立ち尽くしたままだった。
 彼らが話していたのがヴァレンであるという証拠など、どこにもない。それなのに、ヴァレンの仕業だという文字が目の前に浮かび上がるかのごとく、ミゼアスにははっきりとした確信があった。

 もしかしたら、ヴァレンの用事には欠かせない手段として、賭博や飲酒があったのかもしれない。そうは思いながらも、ミゼアスは島にいた頃に幾度となく頭を抱えてきたヴァレンの奇行が脳裏に蘇る。
 強烈すぎて、いつまでも色褪せない思い出だ。

「……やっぱり、あの子は野放しにしてはいけないような気がするよ……」

 やたらと能天気で明るいヴァレンの笑顔が目の前にちらつき、ミゼアスはそっと宙を仰いだ。
 やはり世の中、いくら努力したところで変えられないことはある。
 どうかこれからのおよめさんとしての修行が、ヴァレンの教育のような末路を迎えないことを、ミゼアスはただ祈ることしかできなかった。
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みんなの感想(1件)

2023.01.04 ユーザー名の登録がありません

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2023.01.04 四葉 翠花

お読みいただきありがとうございます!

そしてご報告ありがとうございます……!
恥ずかしい間違いをしてしまいました……修正いたしました。

解除

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