呪われた王女は黒狼王の牙に甘く貫かれる

四葉 翠花

文字の大きさ
14 / 30

14.彼を信じて

しおりを挟む
「姫様は近頃、お綺麗になられましたね」

「え? ……イリナったら、どうしたの?」

 眩しいものを眺めるように目を細めるイリナに、セレディローサは戸惑いながら言葉を返す。

「お美しく、凛として……王国の白百合と呼ばれた亡き王妃様によく似てきて……」

 言葉をつまらせ、イリナは俯く。頬からは雫が伝っていた。

「……申し訳ございません。何もできないイリナを役立たずとお叱りください」

「どうしたの? 何を言っているの?」

 泣き崩れるイリナにそっと寄り添い、セレディローサは優しく声をかける。

「……西国のお客様がいらしている間の姫様は、とても楽しそうでした。年頃の少女としての幸せを得ることができていたというのに……」

「まあ、イリナは何も悪くはないでしょう。むしろ、美味しいパイを作ってくれたり支度を手伝ってくれたり、感謝しているわ」

「ですが、あのお客様を引き止めることも、代わりとなって姫様を楽しませることもイリナにはできないのです。いっそあの方と逆になることができればよいのに……申し訳ござません……」

「おかしなことを言わないで。デイネストが国に帰るのは仕方のないことだわ。それに彼は彼、イリナはイリナでしょう。イリナは私の大切な家族よ。誰もイリナの代わりになんてなれないわ」

「姫様……」

 さらにイリナの瞳から涙があふれ出てくる。

「それに……デイネストは、私の呪いを解く方法を探すって言ってくれたのよ」

「姫様の……呪いを……」

 イリナの瞳からこぼれ落ちる涙が止まった。セレディローサを見据えたまま、大きく目を見開く。

「……魔女の呪いは絶対。解除は不可能。きっと、無理でしょう。でも、探してくれるという気持ちだけでも、震えるほどに嬉しかったわ。たとえ……」

「いえ! イリナは信じます! そのお方が姫様をお救いしてくださると!」

 セレディローサの言葉を遮り、イリナが強い口調で言い切る。

「でも……」

「姫様がそのお方のことを信じなくて、どうするのですか! 姫様の呪いを解く方法を探すとおっしゃったのですよね。無理と決め付けるなど、そのお方にも失礼です!」

 幼い頃以来、聞いたことがなかったようなイリナの強い叱責を受け、セレディローサは言葉を失う。

「……そうね。無理と決め付けるなど、デイネストに失礼ね。私も彼のことを信じなくてはならないわ」

「そうです! 姫様の信じる力も、きっとそのお方の糧となるはずです」

「……きっと、命を失うのはいつだろうかと考えるよりも、彼が明日は来てくれるだろうかと考えるほうが、幸せな気持ちになれるわね」

「そうですとも! イリナも毎日、お祈りいたします!」

 力強く手を握るイリナの温もりが、セレディローサを勇気付けてくれる。彼を信じ、待ち続けよう。
 ――最後まで心くじけることなく、立派な王女でいるためにも。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

脅迫して意中の相手と一夜を共にしたところ、逆にとっ捕まった挙げ句に逃げられなくなりました。

石河 翠
恋愛
失恋した女騎士のミリセントは、不眠症に陥っていた。 ある日彼女は、お気に入りの毛布によく似た大型犬を見かけ、偶然隠れ家的酒場を発見する。お目当てのわんこには出会えないものの、話の合う店長との時間は、彼女の心を少しずつ癒していく。 そんなある日、ミリセントは酒場からの帰り道、元カレから復縁を求められる。きっぱりと断るものの、引き下がらない元カレ。大好きな店長さんを巻き込むわけにはいかないと、ミリセントは覚悟を決める。実は店長さんにはとある秘密があって……。 真っ直ぐでちょっと思い込みの激しいヒロインと、わんこ系と見せかけて実は用意周到で腹黒なヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真のID:4274932)をお借りしております。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...