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五花をめざして7
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入れ替わりで、今度は白髪に白髭の老人が部屋に入ってきた。その姿はアルンも知っている。この館の医者だ。
老人はいつの間にか上半身を起こして台にもたれかかっていたミゼアスの元まで行き、屈みこんでミゼアスの頬に手を当てる。殴られた箇所だ。
「……ほうほう、さすがミゼアス坊。面の皮が厚いわ」
ミゼアスの頬の様子を確かめた老人は、面白そうに言う。
「いきなりそれか。僕は顔を殴られたんだよ。さっさと治療したらどうだい」
面白くもなさそうにミゼアスが答える。
「おまえさん、わざと吹っ飛んだだろう。ずいぶんと上手く拳を流したもんじゃよ。治療などせんでも問題ないわ」
「……威力は大分削ぐことができたけれど、痛いものは痛いんだよ。さっさと治療しなよ」
ミゼアスの言葉に老人はわざとらしくため息を漏らす。
「ああ、まったく可愛げなくなったもんじゃ。……ほれ、出ておいで」
老人が隣の部屋の扉に向かって声をかけると、ブラムとコリンが水の入った桶と布を持って入ってきた。
「はい、冷たい水と布をお持ちしました」
二人は冷たい水に浸した布を老人に渡す。
「おうおう、ご苦労さん。やっぱりこれくらいの子は可愛いのう。ミゼアス坊も見習いの頃は可愛かったのに、今ではすっかりふてぶてしくなりおって」
ぶつぶつと言いながら老人は布をミゼアスの頬に当てる。
「これで冷やしておけばすぐに痛みも引くじゃろ。後は……そうじゃのう、一週間くらい安静にしておればよいわ」
にやり、と老人が笑みを浮かべる。
「……そうだねぇ、それくらいあればどうにか良くなるかな」
ミゼアスも意味ありげな笑みを浮かべて答える。
「じゃあ、わしはお前さんの状態を伝えに行ってくるわ。顔を殴られて客の前に出られる状態ではないので、一週間ほど休ませておけとな。……お前さんの一週間分の稼ぎ、いったいどれくらいかのう。その他諸々合わせて請求すれば、あの馬鹿者とて目玉の飛び出る金額になるじゃろうよ」
アルンは流れについていけないままミゼアスと老人のやり取りを眺めていた。
するとブラムとコリンがやってきて、説明してくれた。
客を迎える前にミゼアスから二人に別の命令が与えられたのだという。
隣の部屋から覗いて様子を伺い、異常事態があれば鈴を鳴らせと言われたそうだ。異常事態とはどういうことかと尋ねれば――
「例えば、僕が殴られて吹っ飛ぶとか」
こういった答えが返ってきたのだという。
それから医者の老人に冷たい水と布を用意しておけと言われたので、ミゼアスとアルンが客を迎える前に準備しておいて隣の部屋に潜んだ。
後は言われたとおりに様子を伺い、ミゼアスの言葉そのものの出来事が起こったので鈴を鳴らした。すると待機していた用心棒がやってきて男を拘束し、続いて医者の老人も現れたというわけだ。
老人はいつの間にか上半身を起こして台にもたれかかっていたミゼアスの元まで行き、屈みこんでミゼアスの頬に手を当てる。殴られた箇所だ。
「……ほうほう、さすがミゼアス坊。面の皮が厚いわ」
ミゼアスの頬の様子を確かめた老人は、面白そうに言う。
「いきなりそれか。僕は顔を殴られたんだよ。さっさと治療したらどうだい」
面白くもなさそうにミゼアスが答える。
「おまえさん、わざと吹っ飛んだだろう。ずいぶんと上手く拳を流したもんじゃよ。治療などせんでも問題ないわ」
「……威力は大分削ぐことができたけれど、痛いものは痛いんだよ。さっさと治療しなよ」
ミゼアスの言葉に老人はわざとらしくため息を漏らす。
「ああ、まったく可愛げなくなったもんじゃ。……ほれ、出ておいで」
老人が隣の部屋の扉に向かって声をかけると、ブラムとコリンが水の入った桶と布を持って入ってきた。
「はい、冷たい水と布をお持ちしました」
二人は冷たい水に浸した布を老人に渡す。
「おうおう、ご苦労さん。やっぱりこれくらいの子は可愛いのう。ミゼアス坊も見習いの頃は可愛かったのに、今ではすっかりふてぶてしくなりおって」
ぶつぶつと言いながら老人は布をミゼアスの頬に当てる。
「これで冷やしておけばすぐに痛みも引くじゃろ。後は……そうじゃのう、一週間くらい安静にしておればよいわ」
にやり、と老人が笑みを浮かべる。
「……そうだねぇ、それくらいあればどうにか良くなるかな」
ミゼアスも意味ありげな笑みを浮かべて答える。
「じゃあ、わしはお前さんの状態を伝えに行ってくるわ。顔を殴られて客の前に出られる状態ではないので、一週間ほど休ませておけとな。……お前さんの一週間分の稼ぎ、いったいどれくらいかのう。その他諸々合わせて請求すれば、あの馬鹿者とて目玉の飛び出る金額になるじゃろうよ」
アルンは流れについていけないままミゼアスと老人のやり取りを眺めていた。
するとブラムとコリンがやってきて、説明してくれた。
客を迎える前にミゼアスから二人に別の命令が与えられたのだという。
隣の部屋から覗いて様子を伺い、異常事態があれば鈴を鳴らせと言われたそうだ。異常事態とはどういうことかと尋ねれば――
「例えば、僕が殴られて吹っ飛ぶとか」
こういった答えが返ってきたのだという。
それから医者の老人に冷たい水と布を用意しておけと言われたので、ミゼアスとアルンが客を迎える前に準備しておいて隣の部屋に潜んだ。
後は言われたとおりに様子を伺い、ミゼアスの言葉そのものの出来事が起こったので鈴を鳴らした。すると待機していた用心棒がやってきて男を拘束し、続いて医者の老人も現れたというわけだ。
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