不夜島の少年 小話集

四葉 翠花

文字の大きさ
上 下
100 / 136

嘘~ミゼアスと見習い三人衆+不審者~

しおりを挟む
「ねえ、何か嘘をついてみて?」

 唐突なミゼアスの言葉に、アルン、ブラム、コリンの三人は首を傾げて顔を見合わせる。
 不思議そうな顔ではあったが、何か問い返すこともせずに考えているようだった。

「……この間食べた、蜜蜂亭のお菓子は好みじゃありませんでした。もう食べたくありません」

 ややって、一番年長のアルンが口を開く。

「僕は、焼き菓子が好きじゃありません」

 間をおかず、ブラムが続いた。

「じゃあ、僕は砂糖菓子が好きじゃありません」

 最後にコリン。
 三人とも、じっとミゼアスを見つめている。彼らの眼差しには、明らかな期待があった。ミゼアスは口元に苦笑が浮かび上がってくるのを感じる。

「……買い物に行こうか。きみたちは本当に食いしん坊だねぇ」

 乾いた笑いと共に吐き出したミゼアスの言葉に、三人が歓声をあげた。

「俺は、ミゼアス兄さんがお仕置きをあきらめないことを願っています」

 三人の歓声がおさまった頃、やけにきっぱりとした声が響く。

「……どこから現れたんだい、ヴァレン」

「普通に奥の戸棚から」

「……それは普通じゃないだろう。何をしていたんだい」

「ミゼアス兄さんを待っていたら眠たくなったので、驚かせないようにと思って、隠れてみました」

「……戸棚で寝ていたほうが驚くよ。長椅子にでも寝ていればよかっただろう」

 ミゼアスは本格的なため息を漏らす。相変わらず、ヴァレンはおかしい。見れば、見習いたちも呆然としているようだ。

「ああ、お仕置きをあきらめないことを願っているんだったね。よし、わかった。任せなよ。戸棚に潜んでいたことへのお仕置きをしてあげよう」

「ちょっ……嘘をつけって言っていたじゃないですか。そのとおりにしただけなのに」

「きみに向けては言っていないよ。……ああ、きみたち。きみたちはいい子だから大丈夫だろうけれど、こんなことをしてはいけないからね」

 笑顔をはりつけてミゼアスが見習いたちに声をかけると、三人そろって『はーい』と返事をする。何とも素直で愛らしく、心が洗われるようだ。
 ミゼアスはそっと逃げようとしているヴァレンの腕をつかみ、見習いたちの返事に頷いた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【R18】お飾り妻は諦める~旦那様、貴方を想うのはもうやめます

恋愛 / 完結 24h.ポイント:142pt お気に入り:459

優秀な妹と婚約したら全て上手くいくのではなかったのですか?

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:128,347pt お気に入り:2,253

すべてを思い出したのが、王太子と結婚した後でした

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,446pt お気に入り:108

【幕間追加】もう誰にも恋なんてしないと誓った

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,072pt お気に入り:3,331

婚約破棄した姉の代わりに俺が王子に嫁ぐわけですか?

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:175

【完結】契約妻の小さな復讐

恋愛 / 完結 24h.ポイント:844pt お気に入り:5,874

猫が繋ぐ縁

恋愛 / 完結 24h.ポイント:63pt お気に入り:189

聖女を愛する貴方とは一緒にいられません

恋愛 / 完結 24h.ポイント:631pt お気に入り:2,434

処理中です...