不夜島の少年 小話集

四葉 翠花

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ひとつの飴 1

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 見習いとしての仕事を終え、ミゼアスはとぼとぼと廊下を歩いていた。
 学校からの帰り道、道に迷ったという客を案内したら心づけをもらったのだ。ちょっとしたお菓子が買えそうな金額だった。しかし、見習いが金銭を持つのは禁止である。規則どおり上役に預けたところ、やはり取られただけで見返りは何もなかった。
 一度自分の手の中に入ってきたものが消えてしまうのは、つらい。
 しかも今日は、夕食も食べ損ねてしまった。宴会の残り物が少なく、当たらなかったのだ。
 恨めしそうな鳴き声を漏らす腹を押さえながら、ミゼアスはつい浮かび上がってくる涙をこぼさないように上を向いた。

「おや……ミゼアス?」

 名前を呼ばれ、ミゼアスははっとして声の主を見る。
 肩よりもやや長い黒髪に、憂慮を含んだ青い瞳が目に映った。まだ幼さの残る顔はやや心配そうな表情に彩られている。

「マリオン……兄さん……」

 最近、見習いを終えて白花となったマリオンだ。ミゼアスが学校に通い始めてから間もなく白花となったため、これまでほとんど接点はなかった。

「……泣いていたのですか?」

 問われ、慌ててミゼアスは目元を拭う。いつの間にか、涙がこぼれてしまっていたようだ。

「そうですね。つらいことも、ありますよね」

 透き通った声で呟き、マリオンはかすかな笑みを浮かべた。そのわずかな笑みが苦しそうで、まるでマリオン自身に向けての言葉のようでもあり、ミゼアスはただマリオンを見つめることしかできなかった。
 店に出始めたマリオンなら、今のミゼアスよりもずっとつらい思いをしているだろう。ミゼアスはやるせない気持ちになり、ぎゅっと拳を握り締める。
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