不夜島の少年 小話集

四葉 翠花

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ひとつの飴 2

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「……あなたは、何があったのですか?」

 ミゼアスの視線に気付くと、マリオンは苦笑して表情を元に戻し、問いかけてくる。

「その……心づけをもらったんですけれど、それがお金で……」

「ああ、上に取られたのですね。あまり馴染みのないお客だったのでしょうか。わかっているお客なら、お菓子をくれますからね。今回は運がなかったと、あきらめるしかないでしょう。そのうち、お菓子をもらえることもありますよ」

「はい……」

 俯き加減にミゼアスは頷く。

「それにあなたも店に出るようになれば、好きなものを買えるようになりますよ。好きなときに、好きなものを食べられるようにもなります」

「はい……」

 やはり俯いたまま、ミゼアスは答える。
 店に出るとは、すなわち客を取り始めるということだ。そんなことをするくらいなら、今のままでよい。
 だが、ずっと今のままでいられるわけではないのだ。いつか、ミゼアスも通らなくてはならない道である。
 ミゼアスの脳裏に、結婚式の真似事をした相手の優しい水色の瞳と、もう守られることがないであろう約束が蘇り、一度止まったはずの涙がまたこぼれてしまった。

「ああ……そんなに悲しまないで」

 困ったように呟くと、マリオンはふところから何かを取り出してミゼアスの手に乗せた。

「たいしたものではありませんけれど……少しは、空腹もまぎれるでしょう」

 ミゼアスは、微笑むマリオンと自らの手を交互に見比べる。手に乗せられたのは、大きめの飴だった。

「それなら上に取られることもないでしょう。……頑張りなさい、ミゼアス」

 ミゼアスの頭をそっと撫でると、マリオンは去っていった。

 たったひとつの飴が、今はとても重たく感じられる。マリオンの優しさと、そして厳しさとが身に染みるようだ。
 今はこの飴ひとつの稼ぎすらない身なのだとも、思い知らされる。

 飴はとろけるように甘く、かすかに涙の味がした。
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