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熟年夫婦
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「イーノス」
ゆったりと本を読みながらくつろいでいたマリオンが、何気なく本を膝の上に置いて一言発する。
同じ部屋で報告書を読んでいたイーノスは何も言わずに立ち上がると部屋を出て行き、ややあって湯気の立ち上る茶を二つ持って戻ってきた。自分の分を卓に置き、マリオンにもうひとつを差し出す。
「ありがとう」
茶を受け取って一口含むと、マリオンは再び本を読みだす。イーノスも報告書に目を通す作業に戻る。
「……おや? アレはどこだったかな」
「アレでしたら、そちらの棚にある二番目の引き出しでしょう」
ぽつりとイーノスが呟くと、マリオンが本から視線をはずさずに答える。
イーノスが言われたとおり、棚にある二番目の引き出しを開けると、そこには目当ての物がしまわれていた。
「ありがとう」
拡大鏡を手にすると、イーノスは椅子に戻って再び書類に目を通す。室内は沈黙に包まれ、ときおり紙をめくる音だけが響いた。
「イーノス」
「マリオン」
ほぼ同時に、互いが互いの名を呼ぶ。視線を交わして二人は立ち上がり、外出の準備を始める。
「今日は少し涼しいようですね」
「では、あの店にしようか」
「構いませんよ」
言葉少なに二人は準備を終え、食事に向かった。
一緒に暮らして七年、今では互いに何を考えているのかが何となくわかるようになっている。もはや熟年夫婦の域だ。
「ミゼアスのところは、ほとんど毎日、五回も営んでいるそうですよ」
「……ほとんど毎日営んでいて、最高が五回の間違いではないのか?」
「どちらでもいいです。で、これを聞いてあなたが思うことは?」
「……今夜は頑張るよ」
「よろしい」
マリオンはくすりと笑って頷き、手を差し出す。
何も言わずともマリオンの行動を読めるようになっているはずのイーノスが、戸惑った顔で差し出された手を眺める。マリオンも意外そうに眉をひそめた。
「……何ですか、その顔は。たまにはいいでしょう?」
悪戯っぽい笑みをマリオンが浮かべると、イーノスは照れたように口元を綻ばせてマリオンの手を握った。繋がれた手を眺め、二人ははにかんだように微笑みあう。
わかるようになっていたつもりだが、やはりまだまだわからないことがあるものだ、と。
ゆったりと本を読みながらくつろいでいたマリオンが、何気なく本を膝の上に置いて一言発する。
同じ部屋で報告書を読んでいたイーノスは何も言わずに立ち上がると部屋を出て行き、ややあって湯気の立ち上る茶を二つ持って戻ってきた。自分の分を卓に置き、マリオンにもうひとつを差し出す。
「ありがとう」
茶を受け取って一口含むと、マリオンは再び本を読みだす。イーノスも報告書に目を通す作業に戻る。
「……おや? アレはどこだったかな」
「アレでしたら、そちらの棚にある二番目の引き出しでしょう」
ぽつりとイーノスが呟くと、マリオンが本から視線をはずさずに答える。
イーノスが言われたとおり、棚にある二番目の引き出しを開けると、そこには目当ての物がしまわれていた。
「ありがとう」
拡大鏡を手にすると、イーノスは椅子に戻って再び書類に目を通す。室内は沈黙に包まれ、ときおり紙をめくる音だけが響いた。
「イーノス」
「マリオン」
ほぼ同時に、互いが互いの名を呼ぶ。視線を交わして二人は立ち上がり、外出の準備を始める。
「今日は少し涼しいようですね」
「では、あの店にしようか」
「構いませんよ」
言葉少なに二人は準備を終え、食事に向かった。
一緒に暮らして七年、今では互いに何を考えているのかが何となくわかるようになっている。もはや熟年夫婦の域だ。
「ミゼアスのところは、ほとんど毎日、五回も営んでいるそうですよ」
「……ほとんど毎日営んでいて、最高が五回の間違いではないのか?」
「どちらでもいいです。で、これを聞いてあなたが思うことは?」
「……今夜は頑張るよ」
「よろしい」
マリオンはくすりと笑って頷き、手を差し出す。
何も言わずともマリオンの行動を読めるようになっているはずのイーノスが、戸惑った顔で差し出された手を眺める。マリオンも意外そうに眉をひそめた。
「……何ですか、その顔は。たまにはいいでしょう?」
悪戯っぽい笑みをマリオンが浮かべると、イーノスは照れたように口元を綻ばせてマリオンの手を握った。繋がれた手を眺め、二人ははにかんだように微笑みあう。
わかるようになっていたつもりだが、やはりまだまだわからないことがあるものだ、と。
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