1 / 63
01.白花ミゼアス
しおりを挟む
夜風に乗って、甘く切なげな音色が響く。
すっかり夜の帳が下りたこの時間でも、この島では煌々とした明かりが絶えることはない。
甘く囁き交わす声、駆け引きめいた睦言。人々は明かりから身を隠すように愛を謳歌する。秘め事を行う影をより深くするためだけに、明かりが灯されているようですらあった。
ここは国一番の高級娼館といわれる不夜島だ。善良な人々が一日の労働を終え、疲れを癒すべく眠る時間こそ、皆が動き出して笑いさざめく。
この島の花たちが床入り前に奏でる花月琴の音色が、どこからともなく響き渡る。幾重にも重なりあっていく調べは、競い合って舞い踊る花びらのように華やかで、儚い。
まだまだ夜は長い。
不夜島においては、いくつかの習慣がある。
娼婦は赤花、男娼は白花と呼ばれること、彼らには一花から五花までの格付けがあること。
これらが、島に行くのなら最低限知っておいたほうがよいと言われるものだ。
格付けは数が増えるほど、上位となっていく。
最高位の五花ともなれば選び抜かれた珠玉の存在であり、この国で最も教養が必要とされるのは不夜島の五花といわれるほどだ。そこにたどり着けるのは、選ばれた花たちの中でも百人に一人もいない。
その五花に、最年少の十四歳で上りつめた白花の少年がいる。
混じりけのない黄金色の髪と、春の新緑のような緑色の瞳を持つ、繊細な人形じみた美貌の主と名高い。
名を、ミゼアスという。
「……いかがでしたか?」
花月琴からゆっくりと手を離し、ミゼアスは問いかけた。
未だ震える弦が、名残惜しげに余韻を紡ぐ。
「いや……見事だった。何というか……胸に迫るものがあるな。心を揺さぶられるのだが、それでいてどこか悲しいような……」
客の男が唸るように答える。
「悲しい……ですか?」
「ああ……きみには、何か悲しいことがあるのか?」
気遣うように男はミゼアスを見る。ミゼアスは一瞬、俯いて淋しげな笑みを浮かべた。それは自嘲の笑みのようでもあった。
しかし顔を上げたときには、その笑みを扇情的なものに変える。
「そう……僕は悲しくて、淋しいのです。慰めて頂けますか……?」
男の頬に手を添え、ミゼアスは媚びるように見上げて囁く。ゆっくりと頬を撫でると、男の顔に緊張と戸惑いが走った。
その手の甲には、この島の花である証の花模様が刻まれている。花の数は格付けと同じ五つ。獲物を優しく、甘い毒で誘うかのように、手を蠢かせる。
すると男がミゼアスを抱きしめてきた。獲物はあっさりと花に絡め取られたようだった。
すっかり夜の帳が下りたこの時間でも、この島では煌々とした明かりが絶えることはない。
甘く囁き交わす声、駆け引きめいた睦言。人々は明かりから身を隠すように愛を謳歌する。秘め事を行う影をより深くするためだけに、明かりが灯されているようですらあった。
ここは国一番の高級娼館といわれる不夜島だ。善良な人々が一日の労働を終え、疲れを癒すべく眠る時間こそ、皆が動き出して笑いさざめく。
この島の花たちが床入り前に奏でる花月琴の音色が、どこからともなく響き渡る。幾重にも重なりあっていく調べは、競い合って舞い踊る花びらのように華やかで、儚い。
まだまだ夜は長い。
不夜島においては、いくつかの習慣がある。
娼婦は赤花、男娼は白花と呼ばれること、彼らには一花から五花までの格付けがあること。
これらが、島に行くのなら最低限知っておいたほうがよいと言われるものだ。
格付けは数が増えるほど、上位となっていく。
最高位の五花ともなれば選び抜かれた珠玉の存在であり、この国で最も教養が必要とされるのは不夜島の五花といわれるほどだ。そこにたどり着けるのは、選ばれた花たちの中でも百人に一人もいない。
その五花に、最年少の十四歳で上りつめた白花の少年がいる。
混じりけのない黄金色の髪と、春の新緑のような緑色の瞳を持つ、繊細な人形じみた美貌の主と名高い。
名を、ミゼアスという。
「……いかがでしたか?」
花月琴からゆっくりと手を離し、ミゼアスは問いかけた。
未だ震える弦が、名残惜しげに余韻を紡ぐ。
「いや……見事だった。何というか……胸に迫るものがあるな。心を揺さぶられるのだが、それでいてどこか悲しいような……」
客の男が唸るように答える。
「悲しい……ですか?」
「ああ……きみには、何か悲しいことがあるのか?」
気遣うように男はミゼアスを見る。ミゼアスは一瞬、俯いて淋しげな笑みを浮かべた。それは自嘲の笑みのようでもあった。
しかし顔を上げたときには、その笑みを扇情的なものに変える。
「そう……僕は悲しくて、淋しいのです。慰めて頂けますか……?」
男の頬に手を添え、ミゼアスは媚びるように見上げて囁く。ゆっくりと頬を撫でると、男の顔に緊張と戸惑いが走った。
その手の甲には、この島の花である証の花模様が刻まれている。花の数は格付けと同じ五つ。獲物を優しく、甘い毒で誘うかのように、手を蠢かせる。
すると男がミゼアスを抱きしめてきた。獲物はあっさりと花に絡め取られたようだった。
0
あなたにおすすめの小説
うそつきΩのとりかえ話譚
沖弉 えぬ
BL
療養を終えた王子が都に帰還するのに合わせて開催される「番候補戦」。王子は国の将来を担うのに相応しいアルファであり番といえば当然オメガであるが、貧乏一家の財政難を救うべく、18歳のトキはアルファでありながらオメガのフリをして王子の「番候補戦」に参加する事を決める。一方王子にはとある秘密があって……。雪の積もった日に出会った紅梅色の髪の青年と都で再会を果たしたトキは、彼の助けもあってオメガたちによる候補戦に身を投じる。
舞台は和風×中華風の国セイシンで織りなす、同い年の青年たちによる旅と恋の話です。
白金の花嫁は将軍の希望の花
葉咲透織
BL
義妹の身代わりでボルカノ王国に嫁ぐことになったレイナール。女好きのボルカノ王は、男である彼を受け入れず、そのまま若き将軍・ジョシュアに下げ渡す。彼の屋敷で過ごすうちに、ジョシュアに惹かれていくレイナールには、ある秘密があった。
※個人ブログにも投稿済みです。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
【8話完結】強制力に負けて死に戻ったら、幼馴染の様子がおかしいのですが、バグですか?
キノア9g
BL
目が覚めたら、大好きだったRPGの世界に転生していた。
知識チートでなんとか死亡フラグを回避した……はずだったのに、あっさり死んで、気づけば一年前に逆戻り。
今度こそ生き残ってみせる。そう思っていたんだけど——
「お前、ちょっと俺に執着しすぎじゃない……?」
幼馴染が、なんかおかしい。妙に優しいし、距離が近いし、俺の行動にやたら詳しい。
しかも、その笑顔の奥に見える“何か”が、最近ちょっと怖い。
これは、運命を変えようと足掻く俺と、俺だけを見つめ続ける幼馴染の、ちょっと(だいぶ?)危険な異世界BL。
全8話。
幼馴染は僕を選ばない。
佳乃
BL
ずっと続くと思っていた〈腐れ縁〉は〈腐った縁〉だった。
僕は好きだったのに、ずっと一緒にいられると思っていたのに。
僕がいた場所は僕じゃ無い誰かの場所となり、繋がっていると思っていた縁は腐り果てて切れてしまった。
好きだった。
好きだった。
好きだった。
離れることで断ち切った縁。
気付いた時に断ち切られていた縁。
辛いのは、苦しいのは彼なのか、僕なのか…。
貴族軍人と聖夜の再会~ただ君の幸せだけを~
倉くらの
BL
「こんな姿であの人に会えるわけがない…」
大陸を2つに分けた戦争は終結した。
終戦間際に重症を負った軍人のルーカスは心から慕う上官のスノービル少佐と離れ離れになり、帝都の片隅で路上生活を送ることになる。
一方、少佐は屋敷の者の策略によってルーカスが死んだと知らされて…。
互いを思う2人が戦勝パレードが開催された聖夜祭の日に再会を果たす。
純愛のお話です。
主人公は顔の右半分に火傷を負っていて、右手が無いという状態です。
全3話完結。
侯爵様の愛人ですが、その息子にも愛されてます
muku
BL
魔術師フィアリスは、地底の迷宮から湧き続ける魔物を倒す使命を担っているリトスロード侯爵家に雇われている。
仕事は魔物の駆除と、侯爵家三男エヴァンの家庭教師。
成人したエヴァンから突然恋心を告げられたフィアリスは、大いに戸惑うことになる。
何故ならフィアリスは、エヴァンの父とただならぬ関係にあったのだった。
汚れた自分には愛される価値がないと思いこむ美しい魔術師の青年と、そんな師を一心に愛し続ける弟子の物語。
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる