きみを待つ

四葉 翠花

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01.白花ミゼアス

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 夜風に乗って、甘く切なげな音色が響く。
 すっかり夜の帳が下りたこの時間でも、この島では煌々とした明かりが絶えることはない。
 甘く囁き交わす声、駆け引きめいた睦言。人々は明かりから身を隠すように愛を謳歌する。秘め事を行う影をより深くするためだけに、明かりが灯されているようですらあった。

 ここは国一番の高級娼館といわれる不夜島だ。善良な人々が一日の労働を終え、疲れを癒すべく眠る時間こそ、皆が動き出して笑いさざめく。
 この島の花たちが床入り前に奏でる花月琴の音色が、どこからともなく響き渡る。幾重にも重なりあっていく調べは、競い合って舞い踊る花びらのように華やかで、儚い。
 まだまだ夜は長い。



 不夜島においては、いくつかの習慣がある。
 娼婦は赤花、男娼は白花と呼ばれること、彼らには一花から五花までの格付けがあること。
 これらが、島に行くのなら最低限知っておいたほうがよいと言われるものだ。

 格付けは数が増えるほど、上位となっていく。
 最高位の五花ともなれば選び抜かれた珠玉の存在であり、この国で最も教養が必要とされるのは不夜島の五花といわれるほどだ。そこにたどり着けるのは、選ばれた花たちの中でも百人に一人もいない。

 その五花に、最年少の十四歳で上りつめた白花の少年がいる。
 混じりけのない黄金色の髪と、春の新緑のような緑色の瞳を持つ、繊細な人形じみた美貌の主と名高い。
 名を、ミゼアスという。



「……いかがでしたか?」

 花月琴からゆっくりと手を離し、ミゼアスは問いかけた。
 未だ震える弦が、名残惜しげに余韻を紡ぐ。

「いや……見事だった。何というか……胸に迫るものがあるな。心を揺さぶられるのだが、それでいてどこか悲しいような……」

 客の男が唸るように答える。

「悲しい……ですか?」

「ああ……きみには、何か悲しいことがあるのか?」

 気遣うように男はミゼアスを見る。ミゼアスは一瞬、俯いて淋しげな笑みを浮かべた。それは自嘲の笑みのようでもあった。
 しかし顔を上げたときには、その笑みを扇情的なものに変える。

「そう……僕は悲しくて、淋しいのです。慰めて頂けますか……?」

 男の頬に手を添え、ミゼアスは媚びるように見上げて囁く。ゆっくりと頬を撫でると、男の顔に緊張と戸惑いが走った。
 その手の甲には、この島の花である証の花模様が刻まれている。花の数は格付けと同じ五つ。獲物を優しく、甘い毒で誘うかのように、手を蠢かせる。
 すると男がミゼアスを抱きしめてきた。獲物はあっさりと花に絡め取られたようだった。
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