きみを待つ

四葉 翠花

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02.抜け落ちていく心

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 寝室に荒い息遣いと、濡れた音が響く。

「あっ……はぁ……」

 ミゼアスは男の上に乗って、腰を振っていた。
 奥深くに男を受け入れ、逃さないように内部を締め付ける。男の顔が快楽をこらえるように歪むが、ミゼアスは構うことなく行為を続ける。

「あぁ……僕の中、あなたでいっぱいだ……もっと、もっと……おかしくなってしまいたい……」

 自らの良い場所にあたるよう、ミゼアスは腰を押し付けて快楽を貪る。もはやそれは、男を使った自慰のようだった。
 男の頭をかき抱き、茶色の髪に指を絡ませる。汗で湿った髪が指の間をくすぐる感触すら、快感に繋がっていく。
 しかし先に達したのは男だった。内部に熱いものが注がれる感覚に、ミゼアスは震える。

「はぁ……ん……」

 ゆっくりと男のものを抜き、ミゼアスは男の上から降りようとする。しかし、そこを起き上がった男に押し倒され、寝台に沈められた。
 驚いてミゼアスが見上げると、男の水色の瞳が目に映った。たちまち、ミゼアスの胸に懐かしさがわき上がり、思わず涙がにじむ。
 茶色の髪も、水色の瞳も、この国ではありふれた色彩だ。しかしミゼアスにとっては何よりも懐かしく、愛しい思い出の色と同じだった。

 その瞳から目を離せないでいると、膝裏を持ち上げられて貫かれた。

「やぁっ……! あっ、あぁっ!」

 ミゼアスの口から歓喜の声が漏れる。男は先ほどのミゼアスの動きを覚えていたらしい。何度も的確な場所を抉られ、ミゼアスの身体は快楽に打ち震えた。
 男の水色の瞳がミゼアスを捕えている。かつての懐かしい思い出がミゼアスの胸を締め付けていく。
 愛しくて、愛しくて仕方がない大切な思い出の名前を呼んでしまわないよう、ミゼアスは唇を引き結ぶ。それを、快楽の声をこらえる意地と思ったのか、男の動きがさらに激しくなる。

「あぁっ……!」

 懐かしい思い出がミゼアスを貫いているような錯覚すら覚える。そう思うと、ミゼアスの身体は悦びに満たされた。失われつつある理性をどうにかかき集め、名前を呼んでしまわないよう、それだけを自らに課す。
 涙を流しながら、ミゼアスは男の瞳を見続ける。思い出に酔っているのか、快楽に酔っているのか、もうわからなかった。



 ミゼアスは一人、浴室で自らの後処理をしていた。
 後ろに指を差し込んで、中をかき出す。どろりとした感触と、身体の中から何かが崩れていくような喪失感を覚える。
 抜け落ちていくのは、自らの誇りか、幼い日の純粋な想いか。
 ミゼアスは自らの身体を洗った。何度も、何度も、繰り返し洗った。それなのに汚れが落ちない。綺麗な身体を取り戻せない。

 この島に売られてきてから、もう六年になる。客を取り始めてからは、もうすぐ三年になるだろうか。いつか借金を返し、ひそかに想いを寄せていた幼馴染のもとに帰るのだ。その思いを支えにミゼアスは日々を耐えてきた。
 早く借金を返すべく、積極的に客を取った。無事に帰るために、落ちぶれるわけにはいかない。教養も身につけ、上を目指した。その結果、最上位の五花となり、先日、とうとう借金も返し終わったのだ。

 しかし、待っていたのは故郷の村はもうなくなったという知らせだった。人々は散り散りとなり、焦がれていた幼馴染の行方もわからない。
 目標を失い、生きる意味さえわからなくなってしまった。残されたのは夜毎、男たちに抱かれて浅ましい姿を晒す、虚ろな人形だけだ。

 寂しさを紛らわせるように他人と一つになっても、なりきれない。楔を打ち込まれ、隙間を塞がれても、心が抜け落ちていくのを止めることができない。身体に熱が注がれても、心はただ冷えていく。
 抜け殻となりつつあるその身に唯一残された慰めは、胸にそっと抱え持つ、幼馴染の思い出だけだった。

「帰りたいよ……会いたいよ……ジェス……」

 苦しげに呟くミゼアスの言葉は、誰に届くこともなく立ち消えていった。
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