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14.黒髪の子供
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その日は怪我のため、ヴァレンは自室で療養ということになった。
いつもならおとなしくなどしていないヴァレンだが、ミゼアスを避けているようで、部屋から出てこない。
心を痛めつつ、普段どおり夜に客を迎えたミゼアスだったが、『顔色が悪いから、今日は休みなさい』と気遣われてしまい、さらに情けなくて自らに吐き気がした。
せっかくの厚意で早めに床に就いたものの、今度は寝付けない。ぐるぐると心配事が渦巻き、ミゼアスの眠りを阻む。朝方、わずかにうとうととしたが、結局まともに寝入ることはできなかった。
胃がきゅっと縮み上がって、食事も喉を通らない。
それなのに翌朝もヴァレンは素早く学校に行ってしまった。やはりミゼアスを避けているようだ。
このままでは駄目だと思い、ミゼアスはこっそりと学校に向かった。ミゼアスもほんの数年前まで通っていた学校だ。どこに何があるかくらい知っている。
ヴァレンがいる教室の近くで、ちょうどヴァレンの同級生を捕まえることができた。ヴァレンのことについて尋ねてみる。
「怪我はよくわかりませんけれど……ヴァレンにいろいろちょっかいを出しているのは、エアイールです」
「エアイール?」
「エアイールはミゼアス兄さん付きになりたかったみたいなんですけれど、でもヴァレンがなっちゃったから……。だから、ヴァレンのことが気に入らないみたいです」
ミゼアスはその子に飴玉を渡して礼を言った。
エアイールという名は初めて聞いたような気がする。しかし、最年少の五花付きになりたい者など珍しくもないだろう。ヴァレンはそのエアイールという子に嫌がらせをされているのだろうか。
まだ授業は始まっていない。そっとミゼアスは教室に近寄り、気づかれないように中の様子を伺った。
「あなた、いったい何をやっているのですか。本当に間抜けでどうしようもない方ですね」
刺々しい高飛車な声が聞こえてきた。口調は大人びているが、子供らしく澄んだ可愛らしい声だった。
「えー、だってー」
ヴァレンの声が聞こえる。駄々をこねているようだ。
「だってじゃありませんよ。ミゼアス兄さんがお困りだったでしょう。こんな怪我までして……ほら、包帯がずれていますよ」
見れば、黒髪の子供がヴァレンの包帯を直しているところだった。
「ありがとー、エアイール」
無邪気に礼を言うヴァレンの声が響く。
あの黒髪の子供がエアイールか。ミゼアスはそう思いながら、どこかで見たことがあるような気がするとひっかかっていた。
「勘違いしないでください。あなたのためじゃありませんから。あなたに変わったことがあったら、ミゼアス兄さんが心配するでしょう」
つんとそっぽを向きながらエアイールが言い捨てる。
思わずミゼアスは笑い出しそうになっていた。あからさまな照れ隠しが可愛い。昨日からずっと落ち込んでいた心が、わずかに癒される。
いつもならおとなしくなどしていないヴァレンだが、ミゼアスを避けているようで、部屋から出てこない。
心を痛めつつ、普段どおり夜に客を迎えたミゼアスだったが、『顔色が悪いから、今日は休みなさい』と気遣われてしまい、さらに情けなくて自らに吐き気がした。
せっかくの厚意で早めに床に就いたものの、今度は寝付けない。ぐるぐると心配事が渦巻き、ミゼアスの眠りを阻む。朝方、わずかにうとうととしたが、結局まともに寝入ることはできなかった。
胃がきゅっと縮み上がって、食事も喉を通らない。
それなのに翌朝もヴァレンは素早く学校に行ってしまった。やはりミゼアスを避けているようだ。
このままでは駄目だと思い、ミゼアスはこっそりと学校に向かった。ミゼアスもほんの数年前まで通っていた学校だ。どこに何があるかくらい知っている。
ヴァレンがいる教室の近くで、ちょうどヴァレンの同級生を捕まえることができた。ヴァレンのことについて尋ねてみる。
「怪我はよくわかりませんけれど……ヴァレンにいろいろちょっかいを出しているのは、エアイールです」
「エアイール?」
「エアイールはミゼアス兄さん付きになりたかったみたいなんですけれど、でもヴァレンがなっちゃったから……。だから、ヴァレンのことが気に入らないみたいです」
ミゼアスはその子に飴玉を渡して礼を言った。
エアイールという名は初めて聞いたような気がする。しかし、最年少の五花付きになりたい者など珍しくもないだろう。ヴァレンはそのエアイールという子に嫌がらせをされているのだろうか。
まだ授業は始まっていない。そっとミゼアスは教室に近寄り、気づかれないように中の様子を伺った。
「あなた、いったい何をやっているのですか。本当に間抜けでどうしようもない方ですね」
刺々しい高飛車な声が聞こえてきた。口調は大人びているが、子供らしく澄んだ可愛らしい声だった。
「えー、だってー」
ヴァレンの声が聞こえる。駄々をこねているようだ。
「だってじゃありませんよ。ミゼアス兄さんがお困りだったでしょう。こんな怪我までして……ほら、包帯がずれていますよ」
見れば、黒髪の子供がヴァレンの包帯を直しているところだった。
「ありがとー、エアイール」
無邪気に礼を言うヴァレンの声が響く。
あの黒髪の子供がエアイールか。ミゼアスはそう思いながら、どこかで見たことがあるような気がするとひっかかっていた。
「勘違いしないでください。あなたのためじゃありませんから。あなたに変わったことがあったら、ミゼアス兄さんが心配するでしょう」
つんとそっぽを向きながらエアイールが言い捨てる。
思わずミゼアスは笑い出しそうになっていた。あからさまな照れ隠しが可愛い。昨日からずっと落ち込んでいた心が、わずかに癒される。
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