きみを待つ

四葉 翠花

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32.軽い媚薬

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 準備を整え、ミゼアスは男を迎えた。当然といえば当然だが、男は芸事を楽しむつもりはないようだ。早速、ミゼアスは寝室へと移動することになった。

「まさか、五花のミゼアスが相手をしてくれるとはな。本当に何をしてもよいのだな?」

「はい、もちろんです。どうぞお好きになさってください」

「上級の連中は気位が高くて気に入らぬ。それが、こうも従順とはな。とんだ出来事だったが、むしろ感謝してもよいくらいかもしれん」

 目を細めてミゼアスを眺めながら、男は呟く。

「いかがいたしましょうか。まずはご奉仕いたしましょうか?」

「いや、それは後でよい。そうだな……まずは脱いでもらおうか」

「かしこまりました」

 素直に頷くと、ミゼアスは服を脱ぐ。男が見ていることを意識して、わずかなためらいと恥じらいを滲ませることを忘れない。

「次は寝台の上で仰向けに寝てもらおう」

 男の指示に従い、ミゼアスは寝台の上で仰向けに横たわる。
 伏し目がちに、やや怯えた不安げな表情を作りながら、ミゼアスは男を待つ。
 ややあって男がミゼアスに覆いかぶさって口づけてきた。舌と共に何かが入ってきて、ミゼアスはそれを飲み込んでしまう。驚いて目を見開くと、男が離れた。

「何を……」

 思わず呟くと、男が口元に歪んだ笑みを浮かべた。

「なに、たいしたものではない。軽い媚薬だ。後遺症もない。この島でも認められているものだし、問題はないだろう?」

 媚薬は互いに同意であれば使ってよいという決まりになっている。もちろん、認められているものに限られるが、島で認められているのは安全なものばかりだ。
 ミゼアスは好きにしてよいと言ったのだから、確かに問題はない。ただ、先ほどヴァレンが媚薬に苦しめられたというのに、また媚薬かとミゼアスはうんざりとした気分だった。
 普段ならば媚薬の使用など許さない。しかし、今は仕方がない。あきらめておとなしくしていると、徐々に身体が火照ってきた。即効性のようだ。

「ん……」

 内部に灯った熱にミゼアスは身じろぎする。それを合図とするかのように、男の手がミゼアスの首筋をなぞり始めた。

「んっ……ふぅ……」

 切なげな吐息がミゼアスから漏れる。男は手を優しく滑らせ、首筋から胸へと愛撫を施していく。もどかしい快感にミゼアスは震える。
 脇腹から腰にかけて、からかうような動きで男の手が這う。いつもよりも敏感になっているようで、ミゼアスは鼻にかかった甘い吐息を漏らす。
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