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35.極彩色の光
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空が白んでくる頃、ようやくミゼアスは解放された。男はすっかり満足したらしく、見習いたちの非礼は忘れたようだった。
散々弄ばれたが、男がミゼアスを物のように扱ったのは一度だけだった。最後にはぐったりとしてしまったミゼアスの後処理まで行い、甲斐甲斐しさすら感じられた。
もっとも、そこまでされたほうがミゼアスにとっては恥ずかしかったが。
気力を奮い起こして男を見送ると、ミゼアスはふらふらと自室に戻って寝台に倒れこんだ。そのまま泥のように眠る。
どれくらい眠ったのか、ふと目を覚ますと心配そうに覗き込む顔があった。
「ミゼアス兄さん……」
ヴァレンがうっすらと目に涙をためて、ミゼアスに寄り添っていたのだ。
ミゼアスはゆっくりと上半身を起こす。身体はだるく、縛られていたせいか節々が痛んだ。わずかにミゼアスは顔をしかめ、呻きを漏らした。
「ミゼアス兄さん、ごめんなさい……俺のせいで……ごめんなさい……」
しがみついてくるヴァレンの頭を撫で、ミゼアスは優しく微笑んだ。
「大丈夫だよ。ちょっと疲れただけ」
「でも……でも……」
迷うようにヴァレンの瞳が揺れる。いったん俯いてしばし考えた後、意を決したように顔をあげる。
「……ミゼアス兄さん、床入りの後に泣いていたこと……ありましたよね。いじめられたりしたんですよね? だったら、今回なんてもっといじめられて……ごめんなさい……ごめんなさい……」
「……知っていたのかい」
ミゼアスは驚く。ヴァレンに知られていたとは、気付かなかった。
ここのところは泣くことなどなかったが、ヴァレンが来たばかりの頃はそういったこともあったのだ。
「でもね、別にいじめられたから泣いていたわけじゃないんだよ。それに、今回もいじめられたっていうほどじゃない。疲れはしたけれど……」
これまで、ミゼアスは客たちから丁寧に扱われてきた。
昨夜の客だって、酷い相手というわけではないだろう。今までが丁寧すぎただけだ。現に、傷もなければ縛られた痕すら残っていない。
もっと、本当に酷いことをされている者などいくらでもいる。
口元に薄く笑みを浮かべると、不思議そうにヴァレンがミゼアスを見た。
「……小さい頃、好きだった幼馴染がいてね。きっとあれが初恋で、今でも好きなんだと思う。でも、今は行方がわからない。普段は白花として振る舞っていても、ふとしたときに思い出しちゃってね。それで、どうして好きでもない相手に抱かれて、浅ましい声をあげているんだろう……って、つらくなっていたんだよ」
ミゼアスが穏やかに話すと、ヴァレンは顔をわずかに歪めて唇を引き結んだ。
「今も、想いが消えたわけじゃない。でも、前よりいろいろなことに気付いて、自分の内側に沈み込んでつらさに浸ることはなくなった。きみが気付かせてくれたんだ」
穏やかに微笑んで、ミゼアスはヴァレンを抱きしめた。ヴァレンはされるがまま、じっと身を寄せている。
「……抱きしめても、震えなくなったね」
軽やかな笑い声を漏らし、ミゼアスはヴァレンの頭を撫でる。
「きみが変わっていくように、僕も変わった。きみが来てから、薄闇に包まれていた僕の世界は極彩色の光を散りばめたような騒がしいものになった。頭を抱えることも多いけれど、きみの明るさは僕の救いだよ、ヴァレン」
ミゼアスがそう言うと、腕の中のヴァレンはミゼアスの胸にすがってしゃくりあげた。ヴァレンが落ち着くまで、ミゼアスは背中を優しくさすってやっていた。
ややあってヴァレンは涙に濡れた顔を上げ、決意を秘めた眼差しをミゼアスに向ける。
「俺……ミゼアス兄さんのために、もっと頑張ります……! ミゼアス兄さんがいつも明るくいられるよう、励みます!」
「……うん、ありがたいんだけれど……不吉な感じがするのは何故だろうね……」
散々弄ばれたが、男がミゼアスを物のように扱ったのは一度だけだった。最後にはぐったりとしてしまったミゼアスの後処理まで行い、甲斐甲斐しさすら感じられた。
もっとも、そこまでされたほうがミゼアスにとっては恥ずかしかったが。
気力を奮い起こして男を見送ると、ミゼアスはふらふらと自室に戻って寝台に倒れこんだ。そのまま泥のように眠る。
どれくらい眠ったのか、ふと目を覚ますと心配そうに覗き込む顔があった。
「ミゼアス兄さん……」
ヴァレンがうっすらと目に涙をためて、ミゼアスに寄り添っていたのだ。
ミゼアスはゆっくりと上半身を起こす。身体はだるく、縛られていたせいか節々が痛んだ。わずかにミゼアスは顔をしかめ、呻きを漏らした。
「ミゼアス兄さん、ごめんなさい……俺のせいで……ごめんなさい……」
しがみついてくるヴァレンの頭を撫で、ミゼアスは優しく微笑んだ。
「大丈夫だよ。ちょっと疲れただけ」
「でも……でも……」
迷うようにヴァレンの瞳が揺れる。いったん俯いてしばし考えた後、意を決したように顔をあげる。
「……ミゼアス兄さん、床入りの後に泣いていたこと……ありましたよね。いじめられたりしたんですよね? だったら、今回なんてもっといじめられて……ごめんなさい……ごめんなさい……」
「……知っていたのかい」
ミゼアスは驚く。ヴァレンに知られていたとは、気付かなかった。
ここのところは泣くことなどなかったが、ヴァレンが来たばかりの頃はそういったこともあったのだ。
「でもね、別にいじめられたから泣いていたわけじゃないんだよ。それに、今回もいじめられたっていうほどじゃない。疲れはしたけれど……」
これまで、ミゼアスは客たちから丁寧に扱われてきた。
昨夜の客だって、酷い相手というわけではないだろう。今までが丁寧すぎただけだ。現に、傷もなければ縛られた痕すら残っていない。
もっと、本当に酷いことをされている者などいくらでもいる。
口元に薄く笑みを浮かべると、不思議そうにヴァレンがミゼアスを見た。
「……小さい頃、好きだった幼馴染がいてね。きっとあれが初恋で、今でも好きなんだと思う。でも、今は行方がわからない。普段は白花として振る舞っていても、ふとしたときに思い出しちゃってね。それで、どうして好きでもない相手に抱かれて、浅ましい声をあげているんだろう……って、つらくなっていたんだよ」
ミゼアスが穏やかに話すと、ヴァレンは顔をわずかに歪めて唇を引き結んだ。
「今も、想いが消えたわけじゃない。でも、前よりいろいろなことに気付いて、自分の内側に沈み込んでつらさに浸ることはなくなった。きみが気付かせてくれたんだ」
穏やかに微笑んで、ミゼアスはヴァレンを抱きしめた。ヴァレンはされるがまま、じっと身を寄せている。
「……抱きしめても、震えなくなったね」
軽やかな笑い声を漏らし、ミゼアスはヴァレンの頭を撫でる。
「きみが変わっていくように、僕も変わった。きみが来てから、薄闇に包まれていた僕の世界は極彩色の光を散りばめたような騒がしいものになった。頭を抱えることも多いけれど、きみの明るさは僕の救いだよ、ヴァレン」
ミゼアスがそう言うと、腕の中のヴァレンはミゼアスの胸にすがってしゃくりあげた。ヴァレンが落ち着くまで、ミゼアスは背中を優しくさすってやっていた。
ややあってヴァレンは涙に濡れた顔を上げ、決意を秘めた眼差しをミゼアスに向ける。
「俺……ミゼアス兄さんのために、もっと頑張ります……! ミゼアス兄さんがいつも明るくいられるよう、励みます!」
「……うん、ありがたいんだけれど……不吉な感じがするのは何故だろうね……」
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