きみを待つ

四葉 翠花

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44.間違った方法

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「現に、私は花月琴の音に深みが出るようになりました」

 おっとりとした声が響く。
 ミゼアスは一瞬、何を言われたかわからずに目を見開く。意味が染みこんでくると、怒りを忘れて呆然と立ち尽くした。
 マリオンとガルトは見習い時代、『明けぬ夜』に溺れた上役に襲われそうになったという話だった。そのことを言っているのだろう。

「私も、花月琴の才能が豊かというわけではありませんでした。でも、あの事件以来、音が変わったのですよ。あのときは恐ろしくて、恐ろしくて仕方がありませんでした。でも、それが四花になれるほどの才を与えてくれるなんて、わからないものですよね」

 マリオンはくすりと笑いを漏らす。

「五花であるあなたは、いずれ上級となる子を育てることも期待されています。せいぜい二花止まりで終わるだろう子があなた付きであること自体が問題ですし、その子だっていずれあなた付きであったことが重荷になりますよ」

 諭すようにマリオンは言う。
 確かに、五花であるミゼアスには下を育てていく義務があるのだ。

「下級でありながら、見習い時代は五花付きだったなんて、孤立しますよ。からかいの対象にもなるでしょうね。そうならないように手を打つか、それともそうなる前に終わらせてあげるのが、慈悲というものでしょう?」

 マリオンはミゼアスに問いかけるように、軽く首を傾げる。

「そのために、秘蔵の『明けぬ夜』まで使用したのですよ。あの事件があってから、恐ろしくなってしまいましてね。いざというときのために中和剤を手に入れたのですよ。『明けぬ夜』自体はずいぶんと昔の残り物ですけれどね」

「……あなたの言っていることは、納得できる部分もある。でも、勝手にヴァレンの将来を決め付けるのはおかしい。そうならないように手を打つにしても、方法が間違っている」

 黙ってマリオンの話を聞いていたミゼアスは、静かに口を開いた。

「では、他にどういう方法が?」

「……今はまだ思いつかない。でも、きっと見つけてみせる。あの子は強くて、賢くて、優しい子だ。たとえあなたの言う孤立する状況になったとしても、そのとおりになんかならない。あの子ならば前を向いて歩いていける」

 しっかりとマリオンの目を見ながら、ミゼアスは凛として答える。

「ずいぶんと信用しているのですね」

 どこか寂しげな笑みを浮かべ、マリオンはぽつりと呟く。

「……あなたは自分のしたことがわかっていますか? 『明けぬ夜』は禁則品、罰則の対象となるのですよ」

「ええ、もちろん知っておりますよ。どうぞ罰を」

 目を伏せ、マリオンは答える。思わずミゼアスが拍子抜けするくらい、あっさりとした返事だった。

「私はあなたの礎となれれば、それでよかった。『裏』に落とされても文句はありません。あなたが与えてくれる罰ならば、どのようなものであっても喜んで承ります」

 いっそ無邪気とすらいえる穏やかな笑みを浮かべ、マリオンはミゼアスの審判を待つ。
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