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37.あしらうミゼアス
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「三人ともここにいたのかい」
後ろから声がした。息が軽くはずんでいる。
「ミゼアス兄さん!」
見習いの子供たちが声の主を見て、叫ぶ。
アデルジェスも振り返り、ミゼアスの姿を見る。すると、服装が変わっていた。先ほどまでのシャツとズボンではなく、水色の絹の長衣を着ていた。白い羽根扇を手に持ち、目の縁には濃い緑の化粧もしている。
「ブラムとコリンは鳳仙花の間の準備をして。急いで。『雪月花』の用意も。アルンは僕に付いて」
「はい、ミゼアス兄さん!」
ミゼアスの命令に、ブラムとコリンが駆けていく。アルンはミゼアスの斜め後ろに寄り添った。
「ジェス、ごめん。話は後で。……さ、行くよ」
一言詫びると、アルンを促してミゼアスは怒鳴り声のする方向に向かった。
邪魔にならないよう離れながら、アデルジェスはそっと後を追う。
ややあって、怒鳴り声の主が見えた。まだ若そうな貴族らしい男だ。これほど待たせるとはどういうことだと顔を真っ赤にして怒っており、中年男性がそれを宥めている。すぐ側には真っ青な顔でへたりこむ子供もいた。
「お待たせして申し訳ありません」
そこにミゼアスが悠然と歩み寄り、声をかけた。
怒っていた男が勢いよく振り返り、何か言おうと口を開く。しかし声の主の姿を認めると、ぽかんと口を開けたまま止まってしまった。
「ミゼアスと申します。お客様のお相手を務めさせていただけますか?」
ミゼアスは艶然と微笑む。
「……ミゼアス? ミゼアスって、あの……?」
信じられないといったような顔で男は呟く。
ミゼアスはそれに答えるように、羽根扇を持ち上げて口元を覆う。五つの花と蝶が刻まれた手の甲を相手に見せ付けるような角度だ。
「本来ならこういったことはしないのですが……先ほど、あなたをお見かけして気になってしまったもので。ぜひお相手させていただきたいと思いまして、そのために裏側で少々揉めておりました。僕のわがままでお客様をお待たせしてしまったこと、お詫び致します。どうかお許しください」
「え……あ……うむ……」
すっかり毒気を抜かれ、男は戸惑いながらも頷く。
「でも……あなたが悪いんですよ。一目で僕をこんなに夢中にさせちゃうんだから」
ミゼアスは顔を傾げるように俯かせ、斜め上に流し目を送る。
「え……あ……」
男の顔が茹で上がったように赤くなる。
もうすっかりミゼアスが主導権を握っている。男の怒りも消え失せたようだ。
しかし、アデルジェスは面白くなかった。男の怒りを宥めるための芝居だというのはわかっているが、気に入らない。あんな色気過剰の姿よりも、先ほどの無邪気に笑う顔のほうがよほど可愛いと心の中で息巻いていた。
「それとも……僕ではご不満ですか?」
「い……いや! そのようなことはない!」
「では、よろしくお願い致します。……さ、アルン。お客様をご案内して」
ミゼアスの言葉に、アルンが男に一礼して案内役を務める。男は文句一つ言うことなく、アルンについていった。
後ろから声がした。息が軽くはずんでいる。
「ミゼアス兄さん!」
見習いの子供たちが声の主を見て、叫ぶ。
アデルジェスも振り返り、ミゼアスの姿を見る。すると、服装が変わっていた。先ほどまでのシャツとズボンではなく、水色の絹の長衣を着ていた。白い羽根扇を手に持ち、目の縁には濃い緑の化粧もしている。
「ブラムとコリンは鳳仙花の間の準備をして。急いで。『雪月花』の用意も。アルンは僕に付いて」
「はい、ミゼアス兄さん!」
ミゼアスの命令に、ブラムとコリンが駆けていく。アルンはミゼアスの斜め後ろに寄り添った。
「ジェス、ごめん。話は後で。……さ、行くよ」
一言詫びると、アルンを促してミゼアスは怒鳴り声のする方向に向かった。
邪魔にならないよう離れながら、アデルジェスはそっと後を追う。
ややあって、怒鳴り声の主が見えた。まだ若そうな貴族らしい男だ。これほど待たせるとはどういうことだと顔を真っ赤にして怒っており、中年男性がそれを宥めている。すぐ側には真っ青な顔でへたりこむ子供もいた。
「お待たせして申し訳ありません」
そこにミゼアスが悠然と歩み寄り、声をかけた。
怒っていた男が勢いよく振り返り、何か言おうと口を開く。しかし声の主の姿を認めると、ぽかんと口を開けたまま止まってしまった。
「ミゼアスと申します。お客様のお相手を務めさせていただけますか?」
ミゼアスは艶然と微笑む。
「……ミゼアス? ミゼアスって、あの……?」
信じられないといったような顔で男は呟く。
ミゼアスはそれに答えるように、羽根扇を持ち上げて口元を覆う。五つの花と蝶が刻まれた手の甲を相手に見せ付けるような角度だ。
「本来ならこういったことはしないのですが……先ほど、あなたをお見かけして気になってしまったもので。ぜひお相手させていただきたいと思いまして、そのために裏側で少々揉めておりました。僕のわがままでお客様をお待たせしてしまったこと、お詫び致します。どうかお許しください」
「え……あ……うむ……」
すっかり毒気を抜かれ、男は戸惑いながらも頷く。
「でも……あなたが悪いんですよ。一目で僕をこんなに夢中にさせちゃうんだから」
ミゼアスは顔を傾げるように俯かせ、斜め上に流し目を送る。
「え……あ……」
男の顔が茹で上がったように赤くなる。
もうすっかりミゼアスが主導権を握っている。男の怒りも消え失せたようだ。
しかし、アデルジェスは面白くなかった。男の怒りを宥めるための芝居だというのはわかっているが、気に入らない。あんな色気過剰の姿よりも、先ほどの無邪気に笑う顔のほうがよほど可愛いと心の中で息巻いていた。
「それとも……僕ではご不満ですか?」
「い……いや! そのようなことはない!」
「では、よろしくお願い致します。……さ、アルン。お客様をご案内して」
ミゼアスの言葉に、アルンが男に一礼して案内役を務める。男は文句一つ言うことなく、アルンについていった。
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