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54.武勇伝

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 しばらくミゼアスの演奏を聴いていた。
 するとミゼアス付きの見習い三人衆が学校から帰ってきたらしく、部屋にやってきたのだ。

「ミゼアス兄さんの演奏が聴こえてきたので、つい……」

 そう言ってはにかむ三人に、ミゼアスは構わないよと笑った。
 それから何曲か演奏し、ミゼアスは一息ついた。

「さすがに疲れたから、今日はこれまで。『雪月花』に触ってみたかったら、いいよ」

 ミゼアスがそう言うと、アルンがおそるおそる『雪月花』に近づく。
 アルンが問いかけるような眼差しをミゼアスに向けると、ミゼアスは微笑んで頷いた。その姿にアルンは安堵したようで、『雪月花』を奏で始める。
 意外なほど上手だった。とても子供とは思えない。
 ミゼアスと比べればやはりぎこちない部分はあったが、十分滑らかで繊細なように思える。

「また上達したね、アルン。そこのところを左手で押さえるとき……うん、そう……もう少しこっちのほうがいいかな。ああ、そうだね。もうほんの気持ち強く……」

 ミゼアスが指導していく。アルンは言われたとおり、必死に音を紡ぎ出す。
 微笑ましい光景だった。思わずアデルジェスの頬がゆるむ。

「アデルジェスさん」

 演奏する二人に気を取られていると、声をかけられた。
 ブラムとコリンだ。

「アデルジェスさんのお話を聞かせてください」

 ブラムはやたらと目を輝かせて見つめてくる。コリンとは昨日、ほんの少しだけ言葉を交わしたが、ブラムは紹介してもらっただけだ。それなのに、何故かその瞳には尊敬の輝きがあった。
 コリンのほうはと見てみれば、目が合った途端に顔をそらされた。もしかして嫌われているのだろうかと思ったが、コリンは視線を床に向けてもじもじとするだけだった。視線をはずせば、またアデルジェスを目で追っているようだ。照れ屋なのだろうか。

「えっと……何を話せばいいのかな?」

 何がどうなっているのかわからないが、話をせがまれているのはわかる。どんな話を望んでいるのか、尋ねてみた。

「アデルジェスさんの武勇伝を!」

 声を弾ませてブラムがせがんでくる。
 武勇伝……ミゼアスから、アデルジェスが兵士だとでも聞いたのだろうか。確かに男の子はそういった話が好きだ。

「いや……そんな大したものはないよ……残念だけれど」

 悲しいことに、大した武勇伝はない。
 この島に来ることとなったきっかけ、領主のご子息を助けたことはあるにはあったが、偶然の産物としかいいようのないものだ。

「またご謙遜を。歴戦の猛者だと推察いたします。百人斬り……いえ、いっそ千人斬りなんかを達成されているのではありませんか?」

 ブラムの言葉に、アデルジェスは唖然とする。話が大きくなりすぎている。どこからこんな大げさな話が出てきたのだろうか。
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