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93.決意

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「すぐに受け入れることはできないと思う……。ミゼアスが他の男に抱かれるのは嫌だ。でも、それでミゼアスを離すことのほうがもっと嫌だよ……」

 絞り出すような声でアデルジェスは思いを吐き出す。
 するとネリーが大きく息を吐いた。

「ほら、あなたミゼアスのことを離したくないんでしょう? だったらうじうじ悩んでいないで堂々としていなさいよ。捨てられるんじゃないかって思うんだったら、そうならないように努力する方向に目を向けなさいよ。ミゼアスのこと、好きなんでしょう?」

「う、うん……」

「想う人がいるのに、違う相手に抱かれるのって辛いものよ。むしろ、ミゼアスのほうがあなたに捨てられるんじゃないかって不安なんじゃないかしら」

「まさか……ミゼアスのほうが捨てられるかもなんて思っているはずが……」

 思わず呟くが、フェリスやエアイールの話からしても、そうなのかもしれない。
 そういえば病気の後遺症のことを話すときも、アデルジェスのところに行ってもいいかと尋ねてきたときも、ミゼアスは不安げで頼りなさそうに見えた。

「……ごめん、俺がしっかりしないといけないんだな。情けない話聞かせちゃって悪かったよ」

 気恥ずかしくなりながらアデルジェスは謝る。
 おそらく、ミゼアスのほうがアデルジェスよりも不安なのだろう。それならば、その不安を包み込んであげられるようにならなくてはいけないのだ。
 今すぐに全てを受け入れることはできないかもしれない。しかし、受け入れられるように努力しよう。アデルジェスはそう決意する。

「ううん、気にしないで。でも、ミゼアスがうらやましいわ。……二人の恋を取り持つなんて、ちょっと癪な気もするわね」

 ネリーはくすっと笑う。

「え?」

 それはどういうことだろうと問いかける前に、ネリーはくるっと踵を返した。

「……そこの露店の焼き菓子、美味しいのよ。値段も手ごろだしね。あなたの話でお腹いっぱいになったから、仕上げに甘いものが欲しいわ」

 振り向き、ネリーはにっこり笑って露店を指差す。

「……わかったよ。食べきれないくらい買ってあげる。お礼の証に」

 アデルジェスも笑い、答える。

「ふふ、ありがとう。……それにしても、数日前は男の子なんてって言っていたあなたが、ミゼアスとなんてね。しかも凄腕の色事師と噂されるくらいになっているなんて、本当に面白いわね」

 くすくすと笑うネリーの声に、アデルジェスは忘れかけていた恐怖を思い出し、頭を抱えた。
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