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66.三人への手紙
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ヴァレンがネヴィルとジリーメルを連れて戻ってくると、ロシュとの話し合いが始まった。
ジリーメルは従者という扱いなので、黙ったままだったが、話の内容には興味を持っているようで、大きな緑色の瞳をじっと話し合いの場に向けていた。
最初はヴァレンとエアイールも同席していたのだが、話は良い方向にまとまりつつあるようで、さらに詳しく話し合おうということになったようだ。場所を移すこととなり、この場はいったん解散ということになる。
「じゃあ、俺もひとまず戻らないと。アルン君たちも放置しちゃったからなあ……」
「そちらの娼館主に話はしておきましたので、大丈夫だとは思いますよ」
ぼそりとヴァレンが呟くと、エアイールがさらりと答える。さすがに気が利くと、ヴァレンは感心してエアイールを見つめた。
「何から何まで、ありがとう。じゃあ、また後で」
ヴァレンは礼を言うと、帰路に就く。
ところが、帰ったヴァレンを待っていたのは、見習い三人衆の冷たい視線だった。
もともとヴァレン付きだったティムは学校に行っているようで、味方は誰もいない。
「え……えっと、きみたち、学校は……?」
少し怯みながら、ヴァレンは尋ねてみる。
「今日の午前中は基礎課程のみなので、僕たちは午後からです」
落ち着き払ったアルンが、淡々と答える。
「そ、そう……」
「ところで、昨日は三階の窓から飛び降りるという、とてもお行儀の悪いことを仕出かしたわけですが、上役としてその行動はいかがなものでしょうか?」
じっとりとした視線を送るアルンの声は、がっちりと固まった氷のように冷たい。
どことなく、ミゼアスを彷彿とさせるお説教ぶりだ。
ミゼアスの後継者とすらいわれるアルンだが、このようなところまで引き継がなくてもよいのにと、ヴァレンは頭を抱えたくなってしまう。このままでは、延々と言われそうだ。
だが、ヴァレンには秘密兵器がある。
「……そうだ、きみたちにミゼアス兄さんからの手紙が届いたんだ」
ヴァレンは服のかくしから、三通の手紙を取り出す。
途端に剣呑だった見習いたちの視線が、別の色を帯びて手紙に集中する。
「はい、これはアルン君。これがブラム君。そしてコリン君。さあ、読んでみるといいよ」
何も言えないままになっている見習いたちに、ヴァレンは素早く手紙を渡していく。
「あ……ありがとうございます」
呆然としながら三人衆は手紙を受け取った。しかし、手元の手紙をじっと眺めているうちに、だんだんと瞳が輝いてくる。
つい先ほどまで、大人びた顔で説教をしていたアルンですら、幼い表情になって嬉しそうに手紙を読み進めていた。
さすがにミゼアスの手紙という秘密兵器の効果は素晴らしいと、ヴァレンは一人でこっそり頷く。ヴァレンへの糾弾などすっかり忘れ、見習いたちは嬉しそうだ。
「ミゼアス兄さん……お礼のお返事を書かなくちゃ」
「うん……今までどうやって書いていいのかわからなかったけど、お礼として書けばいいよね」
「どんな風に書こうかな……」
ほんわかとした笑顔を浮かべながら、見習いたちは口々に呟く。
「ほらほら、せっかくだからすぐにお返事を書いたらどうだい? 出来上がったら、俺が出しておいてあげるからさ」
ここぞとばかりにヴァレンが追い打ちをかけると、何の疑いもなく見習いたちは頷いた。
「はい、ありがとうございます。早速、書いてきます」
三人の見習いたちはそわそわとしながら、自分たちの部屋に向かっていく。
「あ……ヴァレン兄さん、お行儀の悪い行動はつつしんでくださいね」
それでも去り際に、アルンが一言だけ残していった。
しっかり者という点では安心なのだが、それは同時にヴァレンの心の安寧を脅かす。一人だけになった部屋で、ヴァレンは軽く宙を仰いで吐息を漏らした。
ジリーメルは従者という扱いなので、黙ったままだったが、話の内容には興味を持っているようで、大きな緑色の瞳をじっと話し合いの場に向けていた。
最初はヴァレンとエアイールも同席していたのだが、話は良い方向にまとまりつつあるようで、さらに詳しく話し合おうということになったようだ。場所を移すこととなり、この場はいったん解散ということになる。
「じゃあ、俺もひとまず戻らないと。アルン君たちも放置しちゃったからなあ……」
「そちらの娼館主に話はしておきましたので、大丈夫だとは思いますよ」
ぼそりとヴァレンが呟くと、エアイールがさらりと答える。さすがに気が利くと、ヴァレンは感心してエアイールを見つめた。
「何から何まで、ありがとう。じゃあ、また後で」
ヴァレンは礼を言うと、帰路に就く。
ところが、帰ったヴァレンを待っていたのは、見習い三人衆の冷たい視線だった。
もともとヴァレン付きだったティムは学校に行っているようで、味方は誰もいない。
「え……えっと、きみたち、学校は……?」
少し怯みながら、ヴァレンは尋ねてみる。
「今日の午前中は基礎課程のみなので、僕たちは午後からです」
落ち着き払ったアルンが、淡々と答える。
「そ、そう……」
「ところで、昨日は三階の窓から飛び降りるという、とてもお行儀の悪いことを仕出かしたわけですが、上役としてその行動はいかがなものでしょうか?」
じっとりとした視線を送るアルンの声は、がっちりと固まった氷のように冷たい。
どことなく、ミゼアスを彷彿とさせるお説教ぶりだ。
ミゼアスの後継者とすらいわれるアルンだが、このようなところまで引き継がなくてもよいのにと、ヴァレンは頭を抱えたくなってしまう。このままでは、延々と言われそうだ。
だが、ヴァレンには秘密兵器がある。
「……そうだ、きみたちにミゼアス兄さんからの手紙が届いたんだ」
ヴァレンは服のかくしから、三通の手紙を取り出す。
途端に剣呑だった見習いたちの視線が、別の色を帯びて手紙に集中する。
「はい、これはアルン君。これがブラム君。そしてコリン君。さあ、読んでみるといいよ」
何も言えないままになっている見習いたちに、ヴァレンは素早く手紙を渡していく。
「あ……ありがとうございます」
呆然としながら三人衆は手紙を受け取った。しかし、手元の手紙をじっと眺めているうちに、だんだんと瞳が輝いてくる。
つい先ほどまで、大人びた顔で説教をしていたアルンですら、幼い表情になって嬉しそうに手紙を読み進めていた。
さすがにミゼアスの手紙という秘密兵器の効果は素晴らしいと、ヴァレンは一人でこっそり頷く。ヴァレンへの糾弾などすっかり忘れ、見習いたちは嬉しそうだ。
「ミゼアス兄さん……お礼のお返事を書かなくちゃ」
「うん……今までどうやって書いていいのかわからなかったけど、お礼として書けばいいよね」
「どんな風に書こうかな……」
ほんわかとした笑顔を浮かべながら、見習いたちは口々に呟く。
「ほらほら、せっかくだからすぐにお返事を書いたらどうだい? 出来上がったら、俺が出しておいてあげるからさ」
ここぞとばかりにヴァレンが追い打ちをかけると、何の疑いもなく見習いたちは頷いた。
「はい、ありがとうございます。早速、書いてきます」
三人の見習いたちはそわそわとしながら、自分たちの部屋に向かっていく。
「あ……ヴァレン兄さん、お行儀の悪い行動はつつしんでくださいね」
それでも去り際に、アルンが一言だけ残していった。
しっかり者という点では安心なのだが、それは同時にヴァレンの心の安寧を脅かす。一人だけになった部屋で、ヴァレンは軽く宙を仰いで吐息を漏らした。
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