33 / 90
33.懺悔1
しおりを挟む
「……何をなさっておいででしょうか?」
凍てつくような声が響く。晴人はかすれた頭で、シオンの声のようだとかろうじて気づいた。
「神子様は拒否なさっているようですね。承諾の気配がありません。……神殿長、あなたは今まで私たちにも無理を強いるようなことはありませんでした。それなのに、いったいどうしたというのですか?」
続いてシオンが質問を投げかけると、神殿長が晴人から身を離した。
指も引き抜かれ、ようやく苦しいまでの疼きからも解放される。まだ何かが入っているような異物感は残っていたが、快楽責めからは逃れることができたようだ。
「……わたくしは、穢れきった罪深い者なのです」
ぼそり、と神殿長の声が弱々しくもれた。
そして寝台から離れる。
だんだんと晴人の身体も元に戻ってきたようだった。
シオンから布を受け取って身体を拭き、服を着る。のろのろとした動きを見かねたシオンが手伝おうとしたが、さすがにこれ以上あらぬところを晒したくない晴人は丁重に断った。
ゆっくりと晴人が身だしなみを整えている間、神殿長は寝台横の椅子に座ったままじっとうなだれており、一言も発することはなかった。
「あの……神殿長さん、どうしてこんなことをしたんですか……?」
声も戻った晴人は、おそるおそる尋ねてみる。
強姦されそうになったというのに、神殿長に対する気持ちは怒りよりも憐れみのほうが強い。
「……神子様ならば、わたくしの穢れきった身と心を清めてくださると思ったからです」
俯いたまま、神殿長は答える。先ほども幾度となく繰り返した言葉だ。
「それって、魔素の浄化っていうことですか? 神殿長さんは、それほど魔素に冒されているわけではないみたいですけれど……」
セイから聞いた神殿長の状態を思い出しながら、晴人は神殿長の様子をうかがう。
魔素をどれくらい取り込んでいるのかという区別はつかなかったが、セイの言葉を信用することにする。
「……それならば、もうわたくしの罪は救いようがないほど重いということでしょうか」
「え? その……そもそも、どうしてだまし討ちのようなことをしたんでしょうか? 魔素がどうのっていうことだったら、言ってくれれば……」
魔素をためこんでいると感じていたのなら、素直に言ってくれればセイに尋ねるなりしてどうにか対策を考えることができたはずだ。襲いかかる必要はなかったように思える。
「神子様のような尊いお方が、わたくしなどをまともに受け入れてくれるはずもないと思いましたので」
しかし神殿長の答えは晴人には理解できないものだった。晴人は頭を抱えたくなってしまう。
「聖娼が魔素を浄化するとき、基本の手続きとして承諾がある。つまり、互いに合意の上での性交だと効果が高いっていうこと。聖娼の合意なく、無理やり突っ込んでもいちおう浄化はされるけれど、効果が薄くなってしまうんだ」
晴人の耳元で、セイがそっと解説する。いつの間にかセイは晴人の近くにいたらしい。
「ちなみに、きみの場合は合意なく突っ込まれても完全浄化できるから、別に承諾など必要ないんだけれどね。神殿長は聖娼の感覚をそのままあてはめたんだろう。無理やり突っ込まなかったのは、承諾を得ようとしていたんだろうね」
「いや、それって……もしかして、普通に頼んだら合意なんてもらえないだろうから、無理やり襲って快楽責めにして、どさくさにまぎれて合意させてしまえってことだったの……?」
「……おっしゃるとおりでございます」
セイに向けた言葉だったが、神殿長が観念したように頷いた。
「……普通に言えば、どうにか方法を考えたのに……」
あっけにとられながら晴人は呟く。神殿長の考え方がいまいち理解できない。
「どうしてあなたは斜めの考えをするのでしょうね。弟のことも、そういったわけのわからない考えで動いたのですか?」
呆れたようなシオンの声に、神殿長がはっとして顔を上げる。晴人も思わずシオンを見つめたが、シオンの整った顔から感情は読み取れなかった。
「あの子にも……わたくしの穢れを押し付けてしまいました」
ぽつり、ぽつりと神殿長は語りだす。
凍てつくような声が響く。晴人はかすれた頭で、シオンの声のようだとかろうじて気づいた。
「神子様は拒否なさっているようですね。承諾の気配がありません。……神殿長、あなたは今まで私たちにも無理を強いるようなことはありませんでした。それなのに、いったいどうしたというのですか?」
続いてシオンが質問を投げかけると、神殿長が晴人から身を離した。
指も引き抜かれ、ようやく苦しいまでの疼きからも解放される。まだ何かが入っているような異物感は残っていたが、快楽責めからは逃れることができたようだ。
「……わたくしは、穢れきった罪深い者なのです」
ぼそり、と神殿長の声が弱々しくもれた。
そして寝台から離れる。
だんだんと晴人の身体も元に戻ってきたようだった。
シオンから布を受け取って身体を拭き、服を着る。のろのろとした動きを見かねたシオンが手伝おうとしたが、さすがにこれ以上あらぬところを晒したくない晴人は丁重に断った。
ゆっくりと晴人が身だしなみを整えている間、神殿長は寝台横の椅子に座ったままじっとうなだれており、一言も発することはなかった。
「あの……神殿長さん、どうしてこんなことをしたんですか……?」
声も戻った晴人は、おそるおそる尋ねてみる。
強姦されそうになったというのに、神殿長に対する気持ちは怒りよりも憐れみのほうが強い。
「……神子様ならば、わたくしの穢れきった身と心を清めてくださると思ったからです」
俯いたまま、神殿長は答える。先ほども幾度となく繰り返した言葉だ。
「それって、魔素の浄化っていうことですか? 神殿長さんは、それほど魔素に冒されているわけではないみたいですけれど……」
セイから聞いた神殿長の状態を思い出しながら、晴人は神殿長の様子をうかがう。
魔素をどれくらい取り込んでいるのかという区別はつかなかったが、セイの言葉を信用することにする。
「……それならば、もうわたくしの罪は救いようがないほど重いということでしょうか」
「え? その……そもそも、どうしてだまし討ちのようなことをしたんでしょうか? 魔素がどうのっていうことだったら、言ってくれれば……」
魔素をためこんでいると感じていたのなら、素直に言ってくれればセイに尋ねるなりしてどうにか対策を考えることができたはずだ。襲いかかる必要はなかったように思える。
「神子様のような尊いお方が、わたくしなどをまともに受け入れてくれるはずもないと思いましたので」
しかし神殿長の答えは晴人には理解できないものだった。晴人は頭を抱えたくなってしまう。
「聖娼が魔素を浄化するとき、基本の手続きとして承諾がある。つまり、互いに合意の上での性交だと効果が高いっていうこと。聖娼の合意なく、無理やり突っ込んでもいちおう浄化はされるけれど、効果が薄くなってしまうんだ」
晴人の耳元で、セイがそっと解説する。いつの間にかセイは晴人の近くにいたらしい。
「ちなみに、きみの場合は合意なく突っ込まれても完全浄化できるから、別に承諾など必要ないんだけれどね。神殿長は聖娼の感覚をそのままあてはめたんだろう。無理やり突っ込まなかったのは、承諾を得ようとしていたんだろうね」
「いや、それって……もしかして、普通に頼んだら合意なんてもらえないだろうから、無理やり襲って快楽責めにして、どさくさにまぎれて合意させてしまえってことだったの……?」
「……おっしゃるとおりでございます」
セイに向けた言葉だったが、神殿長が観念したように頷いた。
「……普通に言えば、どうにか方法を考えたのに……」
あっけにとられながら晴人は呟く。神殿長の考え方がいまいち理解できない。
「どうしてあなたは斜めの考えをするのでしょうね。弟のことも、そういったわけのわからない考えで動いたのですか?」
呆れたようなシオンの声に、神殿長がはっとして顔を上げる。晴人も思わずシオンを見つめたが、シオンの整った顔から感情は読み取れなかった。
「あの子にも……わたくしの穢れを押し付けてしまいました」
ぽつり、ぽつりと神殿長は語りだす。
0
あなたにおすすめの小説
強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない
砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。
自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。
ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。
とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。
恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。
ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。
落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!?
最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。
12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生
異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる
七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。
だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。
そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。
唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。
優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。
穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。
――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。
虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する
あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。
領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。
***
王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。
・ハピエン
・CP左右固定(リバありません)
・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません)
です。
べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。
***
2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。
女神様の間違いで落とされた、乙女ゲームの世界で愛を手に入れる。
にのまえ
BL
バイト帰り、事故現場の近くを通ったオレは見知らぬ場所と女神に出会った。その女神は間違いだと気付かずオレを異世界へと落とす。
オレが落ちた異世界は、改変された獣人の世界が主体の乙女ゲーム。
獣人?
ウサギ族?
性別がオメガ?
訳のわからない異世界。
いきなり森に落とされ、さまよった。
はじめは、こんな世界に落としやがって! と女神を恨んでいたが。
この異世界でオレは。
熊クマ食堂のシンギとマヤ。
調合屋のサロンナばあさん。
公爵令嬢で、この世界に転生したロッサお嬢。
運命の番、フォルテに出会えた。
お読みいただきありがとうございます。
タイトル変更いたしまして。
改稿した物語に変更いたしました。
【完】心配性は異世界で番認定された狼獣人に甘やかされる
おはぎ
BL
起きるとそこは見覚えのない場所。死んだ瞬間を思い出して呆然としている優人に、騎士らしき人たちが声を掛けてくる。何で頭に獣耳…?とポカンとしていると、その中の狼獣人のカイラが何故か優しくて、ぴったり身体をくっつけてくる。何でそんなに気遣ってくれるの?と分からない優人は大きな身体に怯えながら何とかこの別世界で生きていこうとする話。
知らない世界に来てあれこれ考えては心配してしまう優人と、優人が可愛くて仕方ないカイラが溺愛しながら支えて甘やかしていきます。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。
かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる