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56.逃走3
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「そうすれば、堂々と息子を糾弾できますからな。もう、アレに期待するのはやめました。新しい子供をもうけることにしますよ」
それだけ言うと、領主は城の中に戻っていった。晴人はその場に固まったまま、取り残される。
領主にも利用されたのだ。
ルイスには勝手な願望を押し付けられ、領主には自らの地位を磐石なものとするための生贄とされた。
男たちは晴人の意思などお構いなしに、欲望を押し付けようとしてくる。
晴人が神子だからといって、何故そのような思いをしなければならないのだろう。
こんな連中など、どうして晴人が救わなくてはならないのだろう。
理不尽への怒りが晴人にわきあがり、己の内側に昏い炎がゆらめく。今ならこの怒りをごそりと引きずり出し、解き放って都すら壊してやれそうな気がした。
「ハルト! 引きずられそうになっている!」
あわてたセイの叫びが耳に入り、晴人は我に返る。今にもあふれだしそうになっていた昏い炎が和らいだ。
「落ち着いて、とにかく都を出るんだ」
セイの助言に頷いて、晴人は己を静めようとする。都を覆っている淀みに飲み込まれそうになっていたのかもしれない。
深呼吸をして、晴人は別方向に向かおうとする。
「いたぞ!」
「神子様の名を語る不届き者だ!」
「俺たちを救おうとしないニセモノなど殺せ!」
ところが、追っ手が迫ってきた。口々に勝手なことを言いながら、晴人を追い詰めようとする。
静まりかけていた晴人の怒りが再燃した。恐怖はひとかけらもない。ただ、純粋に怒りだけが晴人の内側から煮え立つようにわきあがってくる。
「勝手なことばかり……俺に押し付けやがって……」
拳を握り締め、晴人は低い声を絞り出す。晴人の内側で燃える怒りが、実際の力となって外側で弾けようとしているのがわかった。
今はまだ押さえていられる。暴れ馬の手綱を握っているような状態だ。
「神子様! 悔い改めて、神子様の務めを果たすのです!」
しかしルイスの声が響き、晴人は手綱を握っていられなくなった。
あまりにも身勝手な言い分に、理性よりも怒りが勝ってしまった。
「悔い改めるのは……おまえだろう!」
絶叫とともに、晴人から力が解き放たれた。鋭い音とともに、光が弾ける。水面を走る波紋のように衝撃が走っていき、追いかけてきた男たちが次々と倒れていく。
「ハルト……!」
セイの叫びが聞こえてきたような気がするが、もうよくわからない。晴人の意識は急激に暗闇へと飲み込まれていき、崩れ落ちた。
それだけ言うと、領主は城の中に戻っていった。晴人はその場に固まったまま、取り残される。
領主にも利用されたのだ。
ルイスには勝手な願望を押し付けられ、領主には自らの地位を磐石なものとするための生贄とされた。
男たちは晴人の意思などお構いなしに、欲望を押し付けようとしてくる。
晴人が神子だからといって、何故そのような思いをしなければならないのだろう。
こんな連中など、どうして晴人が救わなくてはならないのだろう。
理不尽への怒りが晴人にわきあがり、己の内側に昏い炎がゆらめく。今ならこの怒りをごそりと引きずり出し、解き放って都すら壊してやれそうな気がした。
「ハルト! 引きずられそうになっている!」
あわてたセイの叫びが耳に入り、晴人は我に返る。今にもあふれだしそうになっていた昏い炎が和らいだ。
「落ち着いて、とにかく都を出るんだ」
セイの助言に頷いて、晴人は己を静めようとする。都を覆っている淀みに飲み込まれそうになっていたのかもしれない。
深呼吸をして、晴人は別方向に向かおうとする。
「いたぞ!」
「神子様の名を語る不届き者だ!」
「俺たちを救おうとしないニセモノなど殺せ!」
ところが、追っ手が迫ってきた。口々に勝手なことを言いながら、晴人を追い詰めようとする。
静まりかけていた晴人の怒りが再燃した。恐怖はひとかけらもない。ただ、純粋に怒りだけが晴人の内側から煮え立つようにわきあがってくる。
「勝手なことばかり……俺に押し付けやがって……」
拳を握り締め、晴人は低い声を絞り出す。晴人の内側で燃える怒りが、実際の力となって外側で弾けようとしているのがわかった。
今はまだ押さえていられる。暴れ馬の手綱を握っているような状態だ。
「神子様! 悔い改めて、神子様の務めを果たすのです!」
しかしルイスの声が響き、晴人は手綱を握っていられなくなった。
あまりにも身勝手な言い分に、理性よりも怒りが勝ってしまった。
「悔い改めるのは……おまえだろう!」
絶叫とともに、晴人から力が解き放たれた。鋭い音とともに、光が弾ける。水面を走る波紋のように衝撃が走っていき、追いかけてきた男たちが次々と倒れていく。
「ハルト……!」
セイの叫びが聞こえてきたような気がするが、もうよくわからない。晴人の意識は急激に暗闇へと飲み込まれていき、崩れ落ちた。
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