70 / 90
70.最期に口づけを1
しおりを挟む
晴人は魔素を練り上げようとするインプから、素早く飛びのいた。あわてて晴人も周囲の魔素をかき集めて壁を作る。
次の瞬間、光が弾け、晴人の身体にも衝撃が走った。まるで全身を壁に叩きつけられたようで、晴人の呼吸が一瞬止まり、続いて咳き込む。
全身に鈍い痛みが伝わるが、さほど強いダメージはないようだった。晴人がとっさに作った壁は、いちおう防壁の役割を果たしたようだ。
手も足も普通に動くことを確かめると、晴人はインプから距離をとって、自分の周りに更なる壁を張り巡らせる。
「へえ……さすが神子様。魔法の発動が早い。最初で気絶させるつもりだったんだけどな」
口元に歪んだ笑みを浮かべながら、インプは再び魔素を集めだす。
また衝撃がくる。そう思い、晴人は壁を強化して身構えるが、予想していた衝撃はこなかった。
ただ、何かが晴人の作った壁に喰らいついている。まるで黒い蛇のようなものが、晴人の壁を食い散らかしていく。晴人はどんどん消えていく壁を元に戻そうとするが、食われるほうが早い。
黒い蛇を引き剥がしたほうが早いかと、晴人は黒い蛇に向けて集めた魔素を叩きつける。あっさりと黒い蛇は吹き飛ばされたが、すでに崩れかかっていた壁は侵入者の存在を許してしまった。
「捕まえた」
晴人の懐に入り込んだインプがにやり、と笑う。インプは晴人に軽く触れただけだったが、電流のような衝撃が晴人の全身を貫き、晴人はその場に崩れ落ちてしまう。手足は痺れ、身体が言うことをきかない。
「ふふ……戦いなれていないね、神子様。安心して、殺さないから。オレを満足させるための玩具になってもらうだけだよ」
インプは動けない晴人を仰向けに寝かせると、足を開かせてその間に手を這わせた。晴人の身体には違う種類の痺れが走る。
「こんなときでも、ここは元気になるんだね。オレの中、きっとあんたも気に入ると思うよ。もう二度と出たくないっていうくらいに、ね……」
甘い囁きが晴人の耳から忍び込み、頭に染み渡っていく。
晴人はぼんやりと自らの中心をもてあそぶインプを眺めていた。
愛らしい美少女にしか見えない姿が、淫蕩な笑みを浮かべて晴人を見下ろしている。現実とは思えない。夢を見ているようだ。
ゆるやかな手の動きが、晴人の身体の奥から快楽を引き出していき、頭は白く濁っていく。
今、自分はいったい何をしているのだろう。何をしようとしていたのだろう。考えても答えは出ない。
「一緒に気持ちよくなろうね。ずっと、ずっと……」
心地のよい声が全身を満たし、晴人は何も考えられなくなる。これから気持ちのよいことをするのだ。きっと、それは晴人を幸福で満たし、このまま夢のような心地に包まれることだろう。晴人は笑みを浮かべた。
「ハルト! 正気に戻って!」
ところが悲痛な叫びが響き、まとまりのなくなっていた晴人の思考が動き出す。まだ夢から覚め切らないまま、晴人は自分を見下ろす者を見た。
晴人の上に乗っているのは、魔物だ。魔物は浄化するべきだ。思考はそこで止まり、晴人は腰に手を伸ばした。そこにあるものを確かめ、目的を果たすべく手を動かす。
「……え?」
晴人に乗っていたインプが呆然とした声をもらす。浄化の短剣がインプのわき腹に突き刺さっていた。
「やっ……やだっ、やだぁっ! 浄化なんてされたくない! 人間になんて戻りたくないっ!」
インプは悲鳴をあげて晴人を突き飛ばし、短剣を引き抜こうとする。しかし、短剣はインプに突き刺さったまま、抜けない。
ようやく晴人の正気も戻ってきたが、泣き叫ぶインプを前にして固まってしまい、動けなかった。
インプを浄化しようというつもりはなかった。それに、短剣を使っての浄化は晴人が手を離してはいけなかったはずだ。それなのに、すでに晴人の手を離れているにも関わらず、インプは悲鳴をあげ続けている。
「浄化されるくらいなら、人間に戻るくらいなら……!」
悲痛な覚悟を秘め、インプは短剣を両手で握り締めた。インプの体内の魔素が暴走しようとしているのが晴人の目に映った。
「やめっ……!」
晴人はあわてて立ち上がり、止めようとするが、すでに遅かった。周囲が光に包まれ、晴人は眩しさに目を閉じる。
晴人が再び目を開いたときに見えたのは、インプの体内の魔素が弾け、インプの身体もろとも崩壊していこうとする姿だった。
次の瞬間、光が弾け、晴人の身体にも衝撃が走った。まるで全身を壁に叩きつけられたようで、晴人の呼吸が一瞬止まり、続いて咳き込む。
全身に鈍い痛みが伝わるが、さほど強いダメージはないようだった。晴人がとっさに作った壁は、いちおう防壁の役割を果たしたようだ。
手も足も普通に動くことを確かめると、晴人はインプから距離をとって、自分の周りに更なる壁を張り巡らせる。
「へえ……さすが神子様。魔法の発動が早い。最初で気絶させるつもりだったんだけどな」
口元に歪んだ笑みを浮かべながら、インプは再び魔素を集めだす。
また衝撃がくる。そう思い、晴人は壁を強化して身構えるが、予想していた衝撃はこなかった。
ただ、何かが晴人の作った壁に喰らいついている。まるで黒い蛇のようなものが、晴人の壁を食い散らかしていく。晴人はどんどん消えていく壁を元に戻そうとするが、食われるほうが早い。
黒い蛇を引き剥がしたほうが早いかと、晴人は黒い蛇に向けて集めた魔素を叩きつける。あっさりと黒い蛇は吹き飛ばされたが、すでに崩れかかっていた壁は侵入者の存在を許してしまった。
「捕まえた」
晴人の懐に入り込んだインプがにやり、と笑う。インプは晴人に軽く触れただけだったが、電流のような衝撃が晴人の全身を貫き、晴人はその場に崩れ落ちてしまう。手足は痺れ、身体が言うことをきかない。
「ふふ……戦いなれていないね、神子様。安心して、殺さないから。オレを満足させるための玩具になってもらうだけだよ」
インプは動けない晴人を仰向けに寝かせると、足を開かせてその間に手を這わせた。晴人の身体には違う種類の痺れが走る。
「こんなときでも、ここは元気になるんだね。オレの中、きっとあんたも気に入ると思うよ。もう二度と出たくないっていうくらいに、ね……」
甘い囁きが晴人の耳から忍び込み、頭に染み渡っていく。
晴人はぼんやりと自らの中心をもてあそぶインプを眺めていた。
愛らしい美少女にしか見えない姿が、淫蕩な笑みを浮かべて晴人を見下ろしている。現実とは思えない。夢を見ているようだ。
ゆるやかな手の動きが、晴人の身体の奥から快楽を引き出していき、頭は白く濁っていく。
今、自分はいったい何をしているのだろう。何をしようとしていたのだろう。考えても答えは出ない。
「一緒に気持ちよくなろうね。ずっと、ずっと……」
心地のよい声が全身を満たし、晴人は何も考えられなくなる。これから気持ちのよいことをするのだ。きっと、それは晴人を幸福で満たし、このまま夢のような心地に包まれることだろう。晴人は笑みを浮かべた。
「ハルト! 正気に戻って!」
ところが悲痛な叫びが響き、まとまりのなくなっていた晴人の思考が動き出す。まだ夢から覚め切らないまま、晴人は自分を見下ろす者を見た。
晴人の上に乗っているのは、魔物だ。魔物は浄化するべきだ。思考はそこで止まり、晴人は腰に手を伸ばした。そこにあるものを確かめ、目的を果たすべく手を動かす。
「……え?」
晴人に乗っていたインプが呆然とした声をもらす。浄化の短剣がインプのわき腹に突き刺さっていた。
「やっ……やだっ、やだぁっ! 浄化なんてされたくない! 人間になんて戻りたくないっ!」
インプは悲鳴をあげて晴人を突き飛ばし、短剣を引き抜こうとする。しかし、短剣はインプに突き刺さったまま、抜けない。
ようやく晴人の正気も戻ってきたが、泣き叫ぶインプを前にして固まってしまい、動けなかった。
インプを浄化しようというつもりはなかった。それに、短剣を使っての浄化は晴人が手を離してはいけなかったはずだ。それなのに、すでに晴人の手を離れているにも関わらず、インプは悲鳴をあげ続けている。
「浄化されるくらいなら、人間に戻るくらいなら……!」
悲痛な覚悟を秘め、インプは短剣を両手で握り締めた。インプの体内の魔素が暴走しようとしているのが晴人の目に映った。
「やめっ……!」
晴人はあわてて立ち上がり、止めようとするが、すでに遅かった。周囲が光に包まれ、晴人は眩しさに目を閉じる。
晴人が再び目を開いたときに見えたのは、インプの体内の魔素が弾け、インプの身体もろとも崩壊していこうとする姿だった。
0
あなたにおすすめの小説
強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない
砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。
自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。
ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。
とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。
恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。
ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。
落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!?
最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。
12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生
異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる
七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。
だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。
そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。
唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。
優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。
穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。
――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。
虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する
あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。
領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。
***
王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。
・ハピエン
・CP左右固定(リバありません)
・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません)
です。
べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。
***
2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。
女神様の間違いで落とされた、乙女ゲームの世界で愛を手に入れる。
にのまえ
BL
バイト帰り、事故現場の近くを通ったオレは見知らぬ場所と女神に出会った。その女神は間違いだと気付かずオレを異世界へと落とす。
オレが落ちた異世界は、改変された獣人の世界が主体の乙女ゲーム。
獣人?
ウサギ族?
性別がオメガ?
訳のわからない異世界。
いきなり森に落とされ、さまよった。
はじめは、こんな世界に落としやがって! と女神を恨んでいたが。
この異世界でオレは。
熊クマ食堂のシンギとマヤ。
調合屋のサロンナばあさん。
公爵令嬢で、この世界に転生したロッサお嬢。
運命の番、フォルテに出会えた。
お読みいただきありがとうございます。
タイトル変更いたしまして。
改稿した物語に変更いたしました。
【完】心配性は異世界で番認定された狼獣人に甘やかされる
おはぎ
BL
起きるとそこは見覚えのない場所。死んだ瞬間を思い出して呆然としている優人に、騎士らしき人たちが声を掛けてくる。何で頭に獣耳…?とポカンとしていると、その中の狼獣人のカイラが何故か優しくて、ぴったり身体をくっつけてくる。何でそんなに気遣ってくれるの?と分からない優人は大きな身体に怯えながら何とかこの別世界で生きていこうとする話。
知らない世界に来てあれこれ考えては心配してしまう優人と、優人が可愛くて仕方ないカイラが溺愛しながら支えて甘やかしていきます。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。
かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる