貞操を守りぬけ!

四葉 翠花

文字の大きさ
74 / 90

74.貞操喪失1

しおりを挟む
 晴人は今現在起こっている出来事についていけなかった。
 セイが先代の神子だった。そして、魔素を封じるのは神子の身で、晴人が今回の生贄だという。

「セイ……まさか……今まで、ずっと騙していたの……?」

 セイから身を離し、よろけそうになる足を叱咤して立ち続けながら、晴人は問いかける。
 魔素を封じる決意をしたのも、セイのためと思ったからだ。それなのにセイは晴人を利用していただけだというのか。

「騙していたわけじゃない。僕は嘘を言った覚えはないよ。神子は、順番に帰っていっていると言っただろう」

「だからといって……」

 晴人は口ごもり、拳を握り締める。胸のうちには失望や悲しみなどがごちゃごちゃとわきあがり、考えがまとまらない。
 まさか、セイは自分が帰りたいがため、晴人をこの道に仕向けたというのだろうか。相手に対する思いは晴人の一方通行だったのだろうか。

「……これは、賭けだった。本来ならば水晶に触れた時点で、神子による魔素吸収は自動的に始まるんだ。僕のときもそうだった。でも、きみの場合は何も起こらない。きっと、きみが今まで交わりで魔素を受け入れたことがないせいだろうね」

 セイは立ち尽くす晴人の頬にそっと手を伸ばす。

「もし、魔素吸収が始まったとしたら、僕は自分が消滅するまできみの側にいようと決めていた。過去にそうした例は聞いたことがないから、僕はいったいいつまで生きられるのかわからなかったけれど、できるかぎり側にいようと思った。三百年の孤独はつらいからね」

 透明感のある笑みを浮かべたセイの手が、優しく晴人の頬を撫でる。
 晴人は呆然と立ち尽くしたまま、セイの話を聞いていた。
 セイは晴人を生贄にして帰ろうとしていたわけではないのか。側にいようとしてくれていたのか。
 しかしそれならば何故、魔素吸収の可能性がある水晶に触れさせたのだろう。

「でも、僕はきみがまだ貞操を守りぬいていることに賭けた。魔素吸収は始まらないんじゃないか、ってね。もしそうなら、僕は肉体を取り戻すことができた上で、まだ肉体を持ったままのきみに触れることができるんじゃないかと思った。……僕は賭けに勝ったんだよ!」

 高らかに宣言すると、セイは晴人の腰を引き寄せた。
 二人の体格はさほど変わらず、晴人の真正面にセイの顔がある。
 精霊の姿だった頃から整った顔だとは思っていたが、間近で見てもやはりセイの顔は整っていた。晴人はどぎまぎしてしまう。
 何か言わなくては口を開きかけたが、セイの唇が晴人の唇を塞いだ。

「……っ!?」

 飛び上がらんばかりに驚き、晴人は声にならない叫びをあげる。
 つい先ほどのインプ相手が、晴人のファーストキスだったのだ。ほとんど時間も経っていないのに、もうはやセカンドキスである。
 しかも相手がセイだと思えば、晴人の頭の中は白く溶け落ちるような衝撃に満たされる。

「ここの初めてはあの魔物に奪われちゃったけれど……こっちはまだだよね」

 ややあって唇を離すと、セイは手を晴人の腰から尻にかけて這わせる。

「ちょっ……ちょっとセイさん、ど、どういうことでしょうかっ!?」

 さらなる衝撃が晴人を襲い、動転しながら晴人は叫ぶ。

「これからどうするにせよ、まずはきみに魔素の取り込み方を教えないと。僕が肉体を取り戻した以上、もう遠慮はいらない。僕が貫通式をやってあげようじゃないか」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

超絶美形な悪役として生まれ変わりました

みるきぃ
BL
転生したのは人気アニメの序盤で消える超絶美形の悪役でした。

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

女神様の間違いで落とされた、乙女ゲームの世界で愛を手に入れる。

にのまえ
BL
 バイト帰り、事故現場の近くを通ったオレは見知らぬ場所と女神に出会った。その女神は間違いだと気付かずオレを異世界へと落とす。  オレが落ちた異世界は、改変された獣人の世界が主体の乙女ゲーム。  獣人?  ウサギ族?   性別がオメガ?  訳のわからない異世界。  いきなり森に落とされ、さまよった。  はじめは、こんな世界に落としやがって! と女神を恨んでいたが。  この異世界でオレは。  熊クマ食堂のシンギとマヤ。  調合屋のサロンナばあさん。  公爵令嬢で、この世界に転生したロッサお嬢。  運命の番、フォルテに出会えた。  お読みいただきありがとうございます。  タイトル変更いたしまして。  改稿した物語に変更いたしました。

【完】心配性は異世界で番認定された狼獣人に甘やかされる

おはぎ
BL
起きるとそこは見覚えのない場所。死んだ瞬間を思い出して呆然としている優人に、騎士らしき人たちが声を掛けてくる。何で頭に獣耳…?とポカンとしていると、その中の狼獣人のカイラが何故か優しくて、ぴったり身体をくっつけてくる。何でそんなに気遣ってくれるの?と分からない優人は大きな身体に怯えながら何とかこの別世界で生きていこうとする話。 知らない世界に来てあれこれ考えては心配してしまう優人と、優人が可愛くて仕方ないカイラが溺愛しながら支えて甘やかしていきます。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。

かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年

処理中です...