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36.第一王女ルチア
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ルチアは後宮の奥まった一画に住んでいる。ステファニアとは別の意味で、特別扱いを受けていた。
中庭でお茶を、ということだったが、ステファニアがリナを伴って行ってみると、中庭にはフードをかぶった庭師らしき姿があるのみだった。ステファニアの来訪にも気づかないほど、屈んだままで熱心に手入れをしている。
見事に手入れされた色とりどりの薔薇がグラデーションを描き出し、中庭を彩っていた。あずまやにも蔓薔薇が絡みつき、清楚な白い花を咲かせている。
薔薇に目を奪われたステファニアが中庭に足を踏み入れると、薔薇たちはまるで歓迎して挨拶するかのように、風に揺らめいた。芳醇な香りがふわり、と漂ってくる。
「まあ……素敵」
思わずステファニアが感嘆の呟きを漏らすと、庭師がびくりと震えた。慌てて立ち上がろうとしたところで、膝から崩れ落ちてしまう。
「だ……大丈夫……?」
ステファニアは庭師に歩み寄ろうとするが、庭師は大丈夫だとでもいうように、恐縮した様子で手を振るだけだ。これまでの人生を感じさせるような深いしわが刻まれ、筋張った、老女の手だった。
しゃくりあげるような、短く荒い呼吸音が響く。
それほど驚かせてしまったのだろうかと、ステファニアは戸惑う。
「その者は口が不自由ですの。膝も悪いので、急に立ち上がれないのです」
凛とした声が響いた。
ステファニアが振り返ると、白金の髪に深い藍色の瞳を持つ少女が中庭に入ってきたところだった。少女はステファニアに向かい、穏やかに微笑む。
細面で繊細な顔立ちは、微笑むとさらに優しげで、一見すると儚いくらいだった。しかし、意志の強さを秘めた瞳の輝きが、かよわさを打ち消している。
ステファニアやドロテアのような、咲き誇る大輪の花のような美貌ではない。小さな白い花のようにたおやかで、控えめな愛らしさが漂う。
ただ、ステファニアやドロテアと少女が並べば、人々の視線が最も長く留まるのは、おそらくこの少女だろう。強い存在感がにじみ出ていて、人を惹きつける華がある。
彼女が第一王女、ルチアだった。
「ようこそ、ステファニア様。おいでいただき、嬉しいですわ。その者の粗相はお許しくださいね。私がお詫びいたしますわ」
「粗相なんて……謝るようなことは、何もございませんわ。ルチア王女殿下、お招きくださいましてありがとうございます」
互いに微笑みながら挨拶を交わすと、ステファニアは庭師の様子を伺う。やっと落ち着いてきたようで、庭師はゆっくりと立ち上がってぎこちなく礼をすると、庭の隅に向かってゆっくりと歩いていった。
中庭でお茶を、ということだったが、ステファニアがリナを伴って行ってみると、中庭にはフードをかぶった庭師らしき姿があるのみだった。ステファニアの来訪にも気づかないほど、屈んだままで熱心に手入れをしている。
見事に手入れされた色とりどりの薔薇がグラデーションを描き出し、中庭を彩っていた。あずまやにも蔓薔薇が絡みつき、清楚な白い花を咲かせている。
薔薇に目を奪われたステファニアが中庭に足を踏み入れると、薔薇たちはまるで歓迎して挨拶するかのように、風に揺らめいた。芳醇な香りがふわり、と漂ってくる。
「まあ……素敵」
思わずステファニアが感嘆の呟きを漏らすと、庭師がびくりと震えた。慌てて立ち上がろうとしたところで、膝から崩れ落ちてしまう。
「だ……大丈夫……?」
ステファニアは庭師に歩み寄ろうとするが、庭師は大丈夫だとでもいうように、恐縮した様子で手を振るだけだ。これまでの人生を感じさせるような深いしわが刻まれ、筋張った、老女の手だった。
しゃくりあげるような、短く荒い呼吸音が響く。
それほど驚かせてしまったのだろうかと、ステファニアは戸惑う。
「その者は口が不自由ですの。膝も悪いので、急に立ち上がれないのです」
凛とした声が響いた。
ステファニアが振り返ると、白金の髪に深い藍色の瞳を持つ少女が中庭に入ってきたところだった。少女はステファニアに向かい、穏やかに微笑む。
細面で繊細な顔立ちは、微笑むとさらに優しげで、一見すると儚いくらいだった。しかし、意志の強さを秘めた瞳の輝きが、かよわさを打ち消している。
ステファニアやドロテアのような、咲き誇る大輪の花のような美貌ではない。小さな白い花のようにたおやかで、控えめな愛らしさが漂う。
ただ、ステファニアやドロテアと少女が並べば、人々の視線が最も長く留まるのは、おそらくこの少女だろう。強い存在感がにじみ出ていて、人を惹きつける華がある。
彼女が第一王女、ルチアだった。
「ようこそ、ステファニア様。おいでいただき、嬉しいですわ。その者の粗相はお許しくださいね。私がお詫びいたしますわ」
「粗相なんて……謝るようなことは、何もございませんわ。ルチア王女殿下、お招きくださいましてありがとうございます」
互いに微笑みながら挨拶を交わすと、ステファニアは庭師の様子を伺う。やっと落ち着いてきたようで、庭師はゆっくりと立ち上がってぎこちなく礼をすると、庭の隅に向かってゆっくりと歩いていった。
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