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くろ

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タカハヤとオイカワ

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オイカワ星のオイカワたちの宇宙旅行は失敗に終わろうとしていた。

宇宙船はガサツな手入れによる故障で、ほぼ制御不能に陥っている。

恐らく機体は近くの青い星に墜落する。
後は全てを運に賭けるしかない。

乗客の中には遺言を残そうとする者も居たが、恐らくその遺言が遺族に伝わることは無いだろう。

大気圏に突入する。操縦士はダメ元で機体の角度調整を試みる。運良くまだ機能が生きていた。機体の温度が上がらないように角度調整に全神経を集中する。このままいけば海に落下することができそうだ。あとは最大限に衝撃を和らげる措置を施すだけだ。

操縦士の懸命な措置により、宇宙船の損傷も最小限に済み、そのまま機体は船のようにプカプカ海に漂流することができた。
しかし、それでも落下の衝撃は強く、五十人中二十人が命を失った。一番危険な席の操縦士は勿論、真っ先に命を失った。

この星には空気があり、宇宙服を脱いでも大丈夫だったが、食料はもう底を尽きていた。このままプカプカと漂流して、飢え死にするか、運良くどこかに漂着してくれることを待つしかない。タイムリミットがそんなに長くは無いということを、オイカワたちは薄々感じていた。

遠くの方から木製の船が迫って来るのが見えた。得体の知れない星の、得体の知れない船だったが、何らかの生命体にでも助けを求めずにはいられなかった。オイカワたちは、まるで猿のように叫んだ。

相手は運良く友好的な生命体で、見た目はオイカワたちとほぼ同じだった。当然言葉は通じないが、何やら『タカハヤ』としきりに聞こえたので、オイカワたちは彼らのことをタカハヤと呼ぶことにした。

救出されたオイカワたちは、島に上陸すると、大きな城に案内された。奥の部屋には立派な玉座があり、偉そうなタカハヤが座っていた。恐らくこの星の王に当たる存在だろう。赤いマントに黄色いスーツ、それに黒くて長い帽子を被っていた。

王は何かを偉そうに喋っているが、やはりさっぱり分からなかった。
オイカワの中に考古学者がいた。彼はタカハヤの言葉がある民族の言葉に似ていることを察知し、それを足掛かりにして解読を試みた。それによると、王は事情を説明するようにオイカワたちに促しているらしかった。
みんなで手分けして、事の経緯を洗いざらい説明したが、さすがに信じてもらえないだろうと半ば諦めていた。
全ての説明を考古学者の通訳で聞き終えると、王は優しく微笑んで何か短い言葉を彼らに伝えた。
考古学者によると、王は「歓迎する」という意味の言葉を口にしたらしい。

その日の夜は歓迎の宴が開かれた。
王は亡くなった二十名の弔いをしてくれると約束してくれた。
そして、暫くこの地に滞在しても良いとのことで、オイカワたちは安心することができた。
空腹が満たされると、オイカワたちはあることに気がついた。この星の女性は全て驚くほど美人ばかりだったのだ。鼻の下を伸ばす男性陣を見て、女性陣は呆れ返っていた。

タカハヤたちはオイカワたちに三十人分の仮の宿を与えてくれ、この星での住み方を教えてくれた。しかし、それは教わるほどのことでも無かった。前の星よりも、二百年ばかり原始的な生き方をすれば良いだけだった。

この星での生活に慣れてきたオイカワたちは、だんだんとその性格が表に出だした。
ゴミのポイ捨てをしたり、他人の敷地内の農作物を勝手に収穫したり、美人のタカハヤ女性のスカートをめくろうとしたり…
オイカワたちの性格は、いわゆる性悪だった。平気で嘘はつくし、裏切ったりすることは日常茶飯で、「騙された方が悪い」といった考え方だった。そのため、仲間同士とは言え、その関係には一定の距離感が必要だった。
反対にタカハヤは温厚な優しい性格で、嘘が大嫌いだった。彼らは仲間同士で心から信頼し合い、協力し、助け合って生きていた。

あるとき、酒に酔ったオイカワの男たちがタカハヤの女性を襲おうとする事件が発生した。
その場にいた屈強なタカハヤ戦士によって女性は助けられたが、これは大きな問題になった。

タカハヤ王はオイカワたちに、表向きは土地を分け与えると言って、海の向こうへと彼らを追放した。
しかし王は親切にも、必要なものがあれば遠慮なく要請を出してくれても良いと言ってくれた。

ここに、オイカワたちによるオイカワ王国の設立が始まった。

元々、文明の進んだ星からやってきたオイカワたちは、王の助けもあり、急速にオイカワ王国を築き上げていき、タカハヤの文明をすぐに追い越した。

王の助けは必要無くなったが、それでもオイカワは王の元に訪れ、こんな要求を始めた。「着陸時に二十人亡くなったのはタカハヤに責任がある。だからタカハヤはオイカワに対して賠償金を支払うべきだ」と。
この要求には王も驚いたが、口の上手いオイカワは王を丸め込み、多額の賠償金をせしめることに成功した。
それ以降もオイカワによるタカハヤ搾取は続き、やがて、オイカワはタカハヤのテリトリーで好き放題振る舞うようになった。
自分たちの悪行の邪魔になりそうなタカハヤ戦士は、金の力で捻じ伏せ、盤石な状態で悪行の限りをつくした。
まさにクズのやり口だった。

無法地帯と化したタカハヤの星は、クズ行為のやり得で、クズの方が生きやすい世の中に変わっていった。やがて、クズ以外は淘汰されていき、相手に対する思いやりや信頼、助け合いといった概念は消え失せた。

そして、そのクズ度合いは日々成長していき、現存するタカハヤ星人のクズ度合いは過去最高を記録し続けた。
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