うぅあおん…

くろ

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誤作動

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「もう、加奈って本当バカ」

昼休憩、いつものグループでバカ話をして盛り上がっている最中に出た、私に対する舞の軽はずみなツッコミ。

私は「バカ」と言われることが一番嫌いだ。昔から母親がイライラすると、私に「バカ」と言ってきたのが原因だと思う。
「バカ」と言われると、動悸がしてきて、言い知れぬ恐怖に苛まれる。
感情を露わにした、攻撃的な母親の姿が背景にうかんでくるからだろう。
そして舞は、私より辛うじて成績は悪いハズだった。その、私よりバカの舞に「本当バカ」と言われたのだ。

何かを言い返してやろうとしたけど、話は次の展開に進んでいて、私はその機を逃した。

結局そのまま消化不良となった怒りを家に持ち帰ることになってしまった。

不機嫌を腹に抱えたままでは、ご飯も半分しか胃に入らない。
好きなテレビを観ても、その日は面白さが半減した。

寝る段になると、いよいよイライラは募ってきて、布団の中を私の怒りの体温で熱くした。

どうやって復讐をしてやろうか…

私は妄想の中で、思いつく限りの言葉で舞を罵り、痛めつけ、不幸の渦中へと蹴り落としてやった。

気がつくと、外が薄明るくなってきていた。
そこから寝てしまうと遅刻の恐れがあるので、無理にでも起きていなければならない。
これも舞のせいだ…

眠たい目をこすりながら校門をくぐった所で
「おはよう!」
舞が元気に挨拶をしてきた。
人の気も知らないで…
私は目も合わさずに、無視して校舎に向かった。
戸惑い気味で、不安を隠しきれない様子の舞を背中に感じながら
「ざまあみろ」
と思った。

いつものグループに朝の挨拶をすると、昨夜眠れなかった愚痴を溢し、その原因が舞にあることを言った。その場の全員が私に同情し、舞は、非常識でグループの輪を乱す排除すべき存在であると思わせるような脚色を加えて。

思惑はうまくいった。
舞がグループに向かって
「おはよう!」
と元気に挨拶をしても、みんなはいつものようなテンションで挨拶を返さなかった。
目も合わさずに、機嫌悪そうにボソッと「おはよ」と返したり「あぁ」とか、申し訳程度の返事を返した。
そこには、いつもの“仲間”の雰囲気からは除外され、ポツンと取り残された、当惑気味の舞が佇んでいた。
いい気味だった。
ギリギリ握りつぶせる程度の硬さの柑橘系を、思いっきり握りつぶした後のような爽快感があった。

そこから空気を察して、舞はグループに近づいて来なかった。いや、近づくことができなかったのだろう。

昼休憩、そんな舞を余所にまたグループのバカ話で盛り上がる。
部屋の広さの話になった。お嬢様育ちの皐月の部屋が一番広いことが判明した。十八畳というその広さにみんなで驚愕する中、私は、皐月の身体のある一部に目が行った。部屋の“広さ”と繋がる“その部分”のことが、どうしても言いたくてしょうがなくなってしまい、衝動的に口を開いた。

「皐月は部屋もオデコも広いんじゃん」

一気に笑いが起こった。
実は皐月のオデコのことは、みんな薄々感じてはいたけど、なんとなく誰も言わないことだった。
グループの雰囲気から、いつ誰がそのことを言ってもおかしくない状況だった。そして、今回のこの“広さ”にまつわる話題で、ついにそのベールが剥がされたという面白さがあった。
でも私は、何か引っかかるものを感じ、腹から笑えなかった。もしかしたら私は、舞が私にしたのと同じことを皐月にしてしまったかもしれない。
案の定、その時、皐月の目は笑っていなかった。

私は、その後すぐに皐月に謝り、事なきを得た。
人間誰しも失敗はある。特に、盛り上がった最中に出る言葉は気をつけなければならない。盛り上がった雰囲気になると、気持ち良くなってしまって、判断力が鈍り、思わぬ言葉が口から出てしまうことがあるからだ。

人間は完璧じゃない。こうした誤作動と、常に隣り合わせで生きている。誰も傷付けないで生きていくことなんて、とんでもなく難しいこと。いや、もしかしたらそれは不可能なのかもしれない。

そう考えたとき、なぜか胸がスッと軽くなる思いがした。なんだか生きるのが少し楽になった気がした。

次の瞬間、悲しみと焦りが混合したような気持ちに襲われた。
舞のことを思い出したからだ。
舞が私に言った「本当バカ」も、盛り上がった最中に出た言葉だった。その、舞のいわゆる「誤作動」に対して、私は悪意を持って復讐を果たしてしまった…

皐月に謝って事なきを得たのは、舞とのことがあったからだ。
舞に気づかせて貰ったと言っても過言ではない。

自分の愚かさを嘆くのは後にして、早く舞を助けなきゃ。そして、謝らなきゃ。
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