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野花怪異談N③巻【完結】

35話「最恐自動販売機」

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ー1ー
    
    人通りが静まった夜道に蛍光灯の光を出すドラッグストア店の前に設置された自動販売機。
『ありがとうございました』
 機械のアナウンスが流れてガタンと自動販売機から無糖の缶コーヒーを取り出す緑の着物着た青年梅田虫男。
「梅田先生」
 自分の名前を呼ばれた方向に振り向く。
「おう。こんな遅くに奇遇だな楓」
 黒髪おさげ白粉少女八木楓は軽くお辞儀する。
「先生も飲み物を買いに来たんですか?」
「そうだなー。この自動販売機は最近滅多に見かけない珍しい新商品が売られてるからな」
 虫男は缶のタブを開けて一気に中身がなくなるまで飲み干すと、そこから若い青年がやってきて自動販売機にお金を入れて見ると、
「チッ。売り切れかよ!」
 目当ての商品がなく、青年はイラついたのか、何度も自動販売機を叩き蹴った。
 そのあと、飲み物を買って何処かへ去っていった。
「やれやれ。何も自動販売機に当たらなくてもいいものを」
 虫男は自動販売機を眺めて呟いた。
「そうですね。そのうち復讐されると思いますよ。自動販売機に」
「はぁ。まさか流石に自動販売機も移動出来て意思があるとか言うじゃないだろうな?」
「ええ。そのまさかですよ。私が聞いた最恐自動販売機はね」
 楓はクスクスと微笑んでいた。
「ほう、聞かせてもらおうか」
 と、虫男に問いに楓は静かに語りだした。

ー2ー

 ーー田屋タバコ酒店前ーー

「喉が渇いたな。何かこの辺りに飲み物売ってないかな?」
 僕の名前は酒山純。
 地元の大学生2年。
 歳は今年で20になったばかり。
 僕が住む場所は山奥で滅多にコンビニやスーパーがあまりない超田舎。
 僕はバスで出向き、本屋で購入ついでに飲み物ないか探してる。
 と、ちょうどその辺りのタバコ屋さんに置かれてる自動販売機で飲み物を購入することにした。
 自動販売機に近づき小銭を入れてコーラを購入する。
『にいちゃん♪ありがとうな。またご利用してな♪』
「へ?」
 僕は周囲の状況を確認する。
 誰もいない……気のせいか。
『にいちゃーん。大丈夫か?ぬるくならないうちに飲みなよ』
 今、自動販売機が僕の事を向かってしゃべったぞ?しかも僕の事を分かってるような感じだった。
「も、もしかして僕のことがわかるのですか?」
 恐る恐る尋ねると、
『おうよ。さっきにいちゃんコーラ買っただろ?そして茶髪で服装は地味の緑だな』
 やっぱり、僕の事がわかるらしい。
『さ。それよりも早く飲みなよ』
 僕は少し驚いてコーラ缶のタブを開けて飲む。
「美味しい!今まで飲んだコーラと違う……」
 僕はこのコーラをすごく気に入ってしまった。そして予定しなかった2本目を購入する。
『ありがとうさん♪にいちゃん。あまり飲み過ぎるなよ』
 このフレンドリーな自動販売機はなんだろうか?僕は興味本位で話しかけてた。

「へー。最恐さんて、新型最恐さいきょう人工AIを搭載した自動販売機なんですか」
『そうやで。もっと褒めてもいいで♪』
 僕はこの自動販売機の最恐さんと意気投合した。何よりも誰とも親しくフレンドリーで接してくれる。
 そして何より最恐さんはこの町の住人を頼れる兄貴分らしい。
 僕も頼ってもらうかな?て、思ったくらいだ。
『お、いらっしゃいませ。いつもすまんな。骨の髄まで飲んどけよ♪」
 うぉっ!?なんか骸骨頭の人も来た。
 一部の石山県民も噂で来てこの自動販売機目当てでよく飲み物を購入してくれる。売り上げの一部分は最恐さんのマネーとして入るらしい。自動販売機だよね?
「また、来て話しかけても大丈夫ですか?」
『おう!にいちゃん相手なら、いつでも歓迎やで♪こっちは突っ立ってるだけだから暇や』
 新しく親友ができたことに満足した僕は明日も来ることを決めた。

ー3ー

 ーー次の日ーー

「最恐さん。こんにちわ」
「最恐さん。こんにちわ♪」
 僕は昨日の夜、付き合ってる彼女香美と電話で話したら、ぜひ会って見たいと言われたので彼女と一緒にこのタバコ屋に来た。
『おー。にいちゃんのガールフレンドか♪にくいね。この、この♪』
 僕たちは照れ臭そうだった。
「へー。最恐の人工AIを搭載してるんだー。普通の自動販売機にしか見えないだけど」
『あ♡…あ♡…あっ♡』
 香美は最恐さんをペタペタと触りまくる時、最恐さんが変な声を出してるのは、少し裏山けしからんと思った。
『あー。良いにおいする。お、ねーちゃん。すまん、客だわ。いらっしゃいませ』
 香美は気がついたのか、最恐さんから離れる。
 客はガラが悪そうなサングラスをかけたヤンキー青年だった。
 ヤンキー青年は小銭を乱暴に入れると拳でジュースを買った。そしてタブを開けてジュースを飲むと、道路の道端で吐いた。
「なんだ?これ?ぬるくてクソまじい」
 青年は缶ジュースを道路に叩きつけた。
『……あ、ヤベー。冷やすの忘れてた』
 どうやら最恐さんは自動販売機なのに冷やすのは手動らしい。
『すみません。わいのミスです。すみません』
 ヤンキー青年は最恐さんに睨んで近づき、拳で殴った。
「すまんで済むと思うのか?ああん?」
 ヤンキー青年は何度も叩く。
 見かけた香美はヤンキー青年に文句を言った。
「ちょっと!!あなた。そこまで当たらなくてもいいじゃない?」
『ね、ねーちゃん』
 ヤンキー青年は香美は睨みつけて、
「部外者はすっこんでろ!」
「きゃっ!」
 香美を突き飛ばした。
「香美!」
 僕は突き飛ばされた彼女の身体を起こした。
『……………』
 僕はぷっつんとキレた。
「おまえ!!」
「チッ。なんだよ?」
「たかがミスしただけでそこまで叩いて責めなくてもいいじゃないか?」
 ヤンキー青年は面倒くさそうに言った。
「何言ってやがる。こいつは自動販売機だぞ?人でもねーし。俺が叩こうが責めようが俺の自由だろ?」
 僕は軽く首を左右振って。
「たしかに最恐さん……この自動販売機は人でもない。でも人の心よりも誰にも分かる自動販売機だよ。だってミスしたこと謝罪したじゃないか?それでもわからないのか?」
『……にいちゃん』
「ケッ。こいつに人の心がわかるかよ!試しに仕返しこいよ。このポンコツ!!」
 ヤンキー青年は何度も最恐さんに蹴っていく。
「や、やめろ!?」
 僕はヤンキー青年の足をしがみつく。
「は、離せよ!?こいつとお前は何があるんだよ!」
「関係あるさ!僕と最恐さんは共にここで分かり合えた親友だもの」
 僕はヤンキー青年ともみ合いになったところで、
『待ちな!』
 最恐さんが呼び止めた。最恐さんの中から缶の飲み物が出てくる。
『……にいさんほんとうにすまんな。これはわいのリップサービスや。払ったお金返しますんでほんとうにポンコツですみません』
 最恐さんの小銭口から、ヤンキー青年が払った小銭が出てくる音がする。
 ヤンキー青年は小銭と缶の飲み物を受け取る。
「ケッ。最初から素直にそうしてればいいんだよ」
『ありがとうございました』
 ヤンキー青年は最後に最恐さんを蹴った後、何処かへ去っていった。
「最恐さん……」
 香美は心配そうに言った。
『大丈夫やこれくらい慣れてるもんや。みんなには悪いけど、今日はこの辺でおかえり……にいちゃんとねーちゃんもありがとうな』
 僕たちは気まずいながらも帰った。

ー4ー

「ケッ!今日は気分が悪いぜ」
 ヤンキー青年はわざわざ1キロ離れたこの自動販売機を噂にして試しに買ってみようと、この町に訪れた。
 ヤンキー青年は手に持ってた缶ジュースのタブを開けると、ブシャと勢いよく噴出した。
「ぶふへぇ。ゲホッ、ゲホッ」
 ヤンキー青年は思わず鼻の穴に炭酸ジュースが入ったみたいでむせていた。
 ヤンキー青年は缶を投げ捨てるとその目の前に自動販売機がたっていた。
 思わずうしろに振り返ると自動販売機がたっていた。
 キョロキョロしても自動販売機が周りにたっていた。
「な、なんだよ!?」
 ヤンキー青年は逃げ場なく自動販売機に囲まれていた。
 と、自動販売機の中から熱いブラック缶コーヒーがどんどん溢れてくる。
「~!?」
 ヤンキー青年はこの熱さと大量のブラック缶コーヒーに濁流の川のように流れていく。
 千本、一万本、百、千万本を軽く超えて徐々に身体ごと缶に埋もれていき、彼の声が聞こえなくなるまで続いた。

ー5ー

 ーー数年後ーー


『ありがとうさーん♪』
 最恐はいつものように自動販売機をしてた。
 そこに懐かしきカップルが訪ねてくる
『お?にいちゃんら久しぶりやな』
 酒山達は最恐とは数年ぶりである。
「最恐さんもお元気そうで」
 酒山達と最恐は楽しく雑談してる時に酒山の彼女である香美に何やら薬指から何か光ってるのを気づく。
『お、おま。おまえら、もしかして!』
 酒山達は照れ臭そうに笑った。そして酒山は言った。
「はい、僕たち結婚するんです」
 かーーーー!!と最恐は何かを叫んでいた。
『そ、そうか……幸せに達者で暮らせよ』
 最恐は何か落ち込んだ様子なアナウンスだった。
「そう言えば、風の噂で最恐さん引っ越すて本当ですか?」
『そうや。ここのタバコ屋の店主が店を閉めるから、わい転勤することになったんや』
 酒山は寂しそうに俯く。
『気にするな。ま、仕方ないことや。にいちゃん……これはワイからの餞別や』
 最恐の中から、一本の缶が出てくる。酒山は取り出そうとすると、思わず掴んだ缶を落とす。
「熱!?」
 おしるこの缶ジュースだった。
『で、奥さんにもどうぞ』
 香美も同じくおしるこの缶ジュースだった。
「ありがとう」
 酒山は止めようとしたが彼女は平気だった。
『お二人さんあつあつでお幸せにな』
 酒山達はクスと笑った。

ー6ー

「最恐の自動販売機か…。そんなもんあるだろうか?」
「そうですね。あら?」
 楓は自動販売機で飲み物を買おうとすると先程、そこにあった自動販売機が忽然と姿を消した。
「あれ?そこにあった自動販売機何処へいった?」
 虫男はドラッグストア店の周辺を確認しに行った。
「もしかしたら彼も意思はあるかもしれませんね」
 そこにあった自動販売機跡を眺めて楓は言った。

 ーー????ーー

 どこか遠吠えする犬。
 暗くふけたある道路の脇に大量に山のように積もれてる缶。そこから一本の腕が生えてかき分けようとするがしばらく尽きてしまう。埋もれてある缶から漏れ出した大量の何か混ざった異色の飲み物液体が流れていき血溜まりのようになる。
 そして陰から見守る自動販売機の消えていた電灯がパチッとついた。

 最恐自動販売機   缶(完)
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