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野花怪異談N②巻【完結】
27話「夢想家はとべるー下巻ー」
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ー10ー
『夢想家のみんなへ、僕の夢はみんながとべるをよむこと。え?無理だって?じゃあ証明してあげるよ。はい、僕がこの詩を配るからとべるよんでチャレンジしてね。僕の夢だから。配ったかな?いくよ。せーの。
「とべる」ぴょーん。
簡単でしょ。え?出来なかったの?いいや。少なくとも君はできたよ。だって君はもう「とべる」をよんでチャレンジしてるじゃないか。夢想家のみんなへ 作:和田岡成斗』
ーー野花公園p.m.15:45ーー
学校の帰り道、俺たちは公園を寄った。
「で、どうするの?夢見さん」
そこにまっすぐ堂々と生えて伸びる大木。
夢見はこれを高く飛び越えるらしいが。
「もうすぐ来るかしらね」
と、夢見がスマホ取り出し時間を確認する。
「なぁ、あぶないことするなら、俺は全力で止めるからな」
と、俺は夢見に対して口を酸っぱくして忠告する。
「おーい。おまえら持ってきたぞ!」
(て、また野球部員のやつら……ん?何か持ってるぞ?)
俺は目を凝らして見る。
(辞…書?)
そんなもん一体何を使うだろうか?と俺は疑念を感じていた。
「夢見さーん。持ってきたよ」
永木さんと八木さんと和田岡まで、そして俺のクラスメイトだけじゃなく他のクラスや近所の住人の顔見知りまでいる。
彼らも辞書を大量に持ち運んでる。
ブッブーとクラックション鳴っているのを確認すると今度は大型のトラックまで駆り出されていた。
(おい、ラーメン屋の親父まで来てるのかよ……)
なんなんだか、夢見のもとに多数の住人と大量の辞書が集まった。
夢見の指示のもと、みんなは辞書でテキパキ組み立てていく。組み立てていた辞書が崩れたり、足りなかったり、トラブルなどあったが俺たちはなんとかそれらしい形はできた。
俺達は圧倒するそれを眺める。
先程の大木と並び超えるほどだった。
みんなが見守るなか夢見は一歩ずつ踏み込み上っていく。
それは辞書でできた"階段"。
俺たちがみんなで力合わせたかいだんである。
みんなは称え合い夢見に向かって拍手した。
「すっかり遅くなっちまったな」
「そうね」
俺達はかいだんの辞書を片付ける辺りすっかり夜がふけてしまった。
みんなも辞書の階段に興味心身であり、上ったり下ったり記念撮影で遅くなった。
しかし夢見はまだ納得していなかった。
「わたし。みんなのおかげでとべたような気がする。でもまだまだだわ。次こそはとべそうな気がする」
「ははは。ま、とべるといいな」
夢見はまだとべる意気込んでいた。
ーー勝山自宅 p.m.19:30ーー
「で、今回はどんな夢を見れるのやら」
食事終えた俺はすぐ寝間着に着替えて歯磨きしてベッドに潜った。
ー????ーー
「へ?」
俺は甲子園球場に立っていた。
すでにユニフォームは着替えていた。
で、野手の俺。
「プレイボール」
と、審判が掛け声する。
投手の相手は何故か制服姿の夢見。
そこで俺は一応バットを構えた。
投手の夢見が構えて思いっきり投げた。
ポスっと球が受け止めた音。
「ストライク」
(速っ!?)
俺は呆気に取られた。
夢見はキレのいい球を投げてくる。
そして次の球を投げる構えをする。
俺は夢見の放つ球がスローモーションに感じた。
そこで俺は全身全霊込めて構えて、夢見が放つ球を俺はバットを振る。
手ごたえあり感触はあった。
夢見は信じられないように口を開けてポカンとしていた。
カキンと大きな音を鳴らして野球場外まで球は飛んだ。
ー11ー
ーー夢見理髪店a.m.7:38ーー
「おせーな。夢見の奴」
俺はいつものように夢見の自宅に待ち合わせした。
そこに勢いよく玄関のドアを開ける夢見。
と。
俺に近づき、首元のシャツの襟を掴み睨みつける。
「お!?おい!な、なに?」
「……かつ、あんた、もしかしてとべた?」
「はぁ?な、なんだよ急に!とりあえずこの手を離せよ!」
「いいから答えて!あなたあの野球場にわたしの投げた球、とべたでしょ?」
夢見がとべたという意味は俺が場外ホームランした事だろう。
「あー!とべた、とべたから!!ちゃんと夢見の投げた球を俺が飛ばしたよ!それよりも首元くるじい」
夢見は俺の首元を締め付けていたのですぐ離した。
俺は解放された乱れたシャツを直した。
そして夢見は俺の両肩を掴んだ。
「勝!!あなた!勝もあっちにとべたんだ!やった♪わたしだけじゃなかったんだ♪うれしい♪やったね♪勝」
夢見の急なハイテンションについていけないと感じていた俺。
「まぁ。そうなるな」
「そう言えば、勝は野球部だったよね?次の試合いつ?」
俺は少し頭の中を整理して頬をかきながら言った。
「えーと。たしか来月の5日、甲子園選抜だったかな」
「来月ね!じゃあ、わたし勝の練習付き合うよ!」
「えー。でも俺は穴埋め要員だし、特にコーチは無理しなくてもいいからって言われたし」
夢見は首を振って。
「ダメ!チャンスを棒に振っちゃダメだよ!!たしかマネジャー空きが出たわよね?
わたし直接コーチに直訴してくるから!本日の放課後グランド場に集合ね!」
こうなると夢見は止めることはできない。
渋々従うしかない。
俺達は学校に向かった。
ーー野花高校2年B組クラスa.m.8:12ーー
「おはよう」
「…………」
俺達が教室の戸を開けるとクラスメイト全員表情は暗い。
またいくつか空きの席が目立つ。
「えぐっ。えぐっ!!」
「大丈夫……私たちがついてるから」
永木さんは泣き崩れている。それを優しく宥める八木さん。
和田岡は机を伏して寝ている。
俺達は誰も会話せずに席をつく。
しばらくすると梅田先生がやってきた。
「よし。おまえらすでに席はついてるな」
先生は髪がボサボサで寝不足なのか目元は黒い。またクラスメイトと同じく表情は暗い。
「……少し早いが明日から長い夏休みだ。勉強おろそかすんじゃないぞ」
先生の一言にみんなはさらに表情が暗くなる。
「今日の授業の全教科は全て俺が持つことなった。じゃあ、今から授業を始めるぞ」
俺は複雑な状況で教材を取り出した。
~♪
音楽の授業はクラスメイト達の好きな歌を1人ずつ合唱した。
まだみんなは表情暗いが少しずつ元気になった。
そして夢見がチョイスした曲で彼女の澄んだ歌声がクラスメイトの涙声と鼻が啜り歌った。
先生は慣れない指揮で少し微笑んでいた。
クラスメイト全員の要望で2時間延長してみんなが声がガラガラなるまで歌った。
最後の授業で先生は黒板に『夢想家』と白チョークで、でかでかと書いた。
「おまえらに宿題を出すぞ。前に習った夢想家という題材とした詩などを考えてこい!この宿題は期限ないから、たくさん考えてもいいぞ。じゃあ本日の授業はこれまで!解散!」
先生は教室から出て行った。
みんなはスマホで記念スクショしてる。
俺と夢見も参加した。
ー12ー
ーーグランド場p.m.80:80ーー
夢見は職員室でコーチに直訴して二つ返事で野球部のマネジャーになった。
「そこ。足止まってるわよ」
夢見のメガホンにより、野球部達は練習に力が入る。
俺はバットの素振りを何度も練習した。
選抜試合当日まで俺達は毎日朝から夕方まで練習に励んだ。
ーー石山野球場a.m.17:71ーー
「よろしくお願いします!」
俺達野球部は強豪鐘技高校と選抜試合を行った。
「勝ー!あなたならとべると信じてるわよー」
夢見の声援が届く。
観客は学校内の連中とこの近くに住む住人でほぼ満員だ。
俺達野球部は強豪相手物とせず接戦する。
そして最終局面の満塁時、俺がバッターとして舞台にたつ。
相手が離れる球を大きく振るとき、球はとんだ。
ーー中山中華そば88:88ppmmーー
「勝ー♪やったね♪わたしの言う通り、とべたでしょ?」
「ファールだけどな」
俺達野球部は接戦にもかかわらず、相手にボロ負けした。
俺達野球部悔いはなかった。今は楽しく雑談してる。
で、梅田先生の提案で俺たちクラス全員と野球部全員に行きつけのラーメン屋でラーメンをご馳走してもらった。
「へい!チャーシュー麺お待ち」
俺はチャーシュー麺を注文した。
匂いをじっくりと嗅いで久しぶりの肉汁と麺を味わった。
「ねー?勝。この後ひまー?」
「ん?なんだよ」
「勝に渡したい物があるの。あとでわたしの家に寄れる?」
「……いいぞ」
「決まりね」
俺が承諾すると夢見はチキンラーメンの麺をすすった。
ー夢ミ見ミ?♪!!6ーー
「はい。これ」
夢見が手渡されたのは砂時計だった。
「ん……これは?」
「桜さんに頼んで甲子園の砂を集めて砂時計作ってもらったの。勝!今日の試合かっこよかったぞ♪」
俺は少し照れ臭そうになった。
「そっか…もらってくよ……じゃあな」
俺は暗い表情しながら夢見から去ろうとする。
「待って」と夢見が俺を引き止める。
「……まだ何かあるのか?」
「みんなにもかけたんだけど勝はまだだったから、今日は勝にだけ特別夢見魔法をかけるね♪ちょっと待っててね」
「はぁ」
夢見は理髪店の中に入る。少しした後、何か持ってきた。ハサミのようだ。
「え?ちょっとおまえ!」
そして夢見は長い髪をチョキチョキとバッサリと短髪して髪を束ねた。
「夢見魔法、夢を見る魔法の呪文『夢想家の君へ』」
夢見は言葉を紡ぎだす。
「夢想家の君へ、どうしたんだい?君はなぜめそめそしてるんだい?ただ黙って泣いてるだけじゃわからないよ。ちゃんと勇気を出して言わなきゃ、相手は何もわからないよ?夢想家の君へ、どうして君はそこに立ち止まるんだい?とべるのが怖いのかい?じゃあ、わたしが一緒にとんであげるね。え?それでも怖い?お手本見せてあげるね。ぴょんぴょんぴょーん。ほらとべたでしょ?夢想家の君へー」
夢見はいくつか呪文を唱える。
「夢想家の君へ、信じないあなたに特製魔法をかけるねヒュルヒュル~」
夢見が糸巻きするように両手をぐるぐるする。
「パッ!パラパラパラパラ」
束ねた髪を道路を一気にばら撒く。
「スポンスポンスポンスポンスポンスポン」
俺に向かって身体あちこちに何か抜ける動作をする。
「そしてあなたの大事な物をどこかへとんでいきまーす♪スポン」
「お!?おい」
俺の持ってた砂時計を奪い空高く遠くに投げた。
俺は慌てて上手くキャッチしようとする
その時、流れる時間が走馬灯に感じてゆっくりと動く。
その時俺はー。
横目で夢見が投げた砂時計をキャッチする時に俺が見つめる青白い昔の軍服を着た青年が立っているような気がした。
「ね?とべたでしょ?わたしはあなたがとべることを信じたからね。夢見魔法おしまい」
夢見魔法とやらはどうやら終わったらしい。
「やれやれ。付き合いきれんわ。ま、おまえらしいな。またな」
俺は夢見と別れて帰宅した。
ー13ー
ーー?●ミ▲☆ーー
地球に伸びる塔は宇宙まで届き、もう少しで月まで到達する。塔内では見たことない機械が組み立てられている。そこに宇宙服を着た男女2人組勝山と夢見は組み立て作業していた。
「夢見、そこのボルト取ってくれるか?」
宇宙服の男、勝山はスティック棒のなにかで火花を出しながら、点検する。
「うん。わかった」
夢見はバックからボルトを取り出そうとしてどこかにぶつけて部品が散らばる。
「お!?おい!何をやってるんだよ!」
夢見達は慌てて散らばった部品を回収する。
勝山は部品の数を確認する。
「夢見?ボルト一本足りねーぞ?」
勝山の指摘に夢見はハッとして浮遊するボルトを必死に右手をつかんで夢見は意識を失う。
ーー夢ミ◼️円ーー
夢見は目を覚ました。
周囲の辺りを見回すと見慣れた自分の部屋だった。
夢見は思いっきり腕を伸ばしてあくびすると右手からポロッと落ちる。
「ふえ?」
瞼を擦りよく確認すると見たことないボルトが落ちていた。
夢見は頭の中を整理する。
そしてそれがわかった時に目を見開き驚く。
「え?え?え?うそ!うそー♪とべたー♪ついにとべたー♪やった」
夢見ははしゃいでた。
夢見は今すぐ制服に着替えてボルトを持って彼の家に走って向かう。
夢見が目指すのは一緒にとべた勝山。
このおさえられない喜びの気持ちを一刻も早く共有したかった。
だが彼の自宅につくと、
「え?」
彼が住んでた場所はすでに空き地だった。
彼もまたどこかへとんで行ってしまった。
夢見はショックを受けて歩いて去った。
ー14ー
ーー●=⬜︎ーー
夢見は沈む夕陽から誰もいない港を来ていた。
ただ呆然として海を眺めている。
夢見は持っていたボルトを海に投げた。
ボルトは小さな飛沫をしながらゆっくりと沈んでいく。
しばらくすると空の向こうから、編隊した戦闘機が近づき町を空爆していく。夢見の周辺にはあられもない建物や住居が破壊されていく。
~♪
ふと夢見は自分の好きな歌を口ずさむ。
彼女の歌声は爆撃音や飛行音でかき消されてしまう。
そしてどこからか、夢見をめがけた1つのミサイルが彼女を包みこみ消えていくーー。
ー15ー
ーー石山県夢山市夢野町夢山大学病院ーー
「失礼します」
病室に入ってきた八木楓、永木桜、梅田虫男の3人組。
「あー。いらっしゃい。君たちも元気そうだね」
と、そこにいるのは椅子に座ってる老人男性。
「和田岡さんお久しぶりです。飛鳥さんの容態はどうですか?」
八木が見る方向にはベッドで酸素マスクをつけて眠る老婆。
「そうだね。今は安定してるけど、亜華葉ちゃんが聞いた話によるともう永くはないらしい」
和田岡は眠る飛鳥の顔を見る。
「そうですか……飛鳥さんが会ったのは去年の夏頃でしたから、そのあとすぐに謎の病気で眠り続けるなんて思いもしませんでした」
虫男はゆっくりと飛鳥のそばに近づきかがむ。
「先生は俺の特別な恩師でした。先生の詩がなければ、俺はろくでもない人生を歩んでいたでしょう」
和田岡は病室に白黒写真立てに写る若い学生達を見て言った。
「夢見はいつも夢を見ることが好きな方でした。わたしの親友がとんで敵陣いったときも彼を励ますために詩を作って必ず戻ってくることに信じてましたからね」
和田岡は飾ってる写真を取り眺めた。
しばらく沈黙した後、永木は何かに気づく。
「あれ?何かそこに落ちてるよ」
それは飛鳥のベッドのそばに落ちてた。しかも濡れていた。
虫男がそれをハンカチで包み拾う。
「ふむ。なんだろうな。見たことないボルトのようなものだな?」
「なんでしょうね?わたしが来た頃にはそんな物落ちてませんでしたよ」
和田岡は首を傾げる。
「もしかしたら、彼女とべたかもね」
「はは。そうかもしれませんね」
楓の言葉に和田岡は乾いた笑いをする。
「もしも彼女が夢にとべるようになったら、どうします?和田岡さん」
「そうですねー。わたしはー」
と。
ーー病室の窓の外から立ってずっと楓達を見つめている者がいる。
青白い軍服の青年だった。どこか遠い目をしている。
彼は四階にある窓の近くから誰も気づかれずにそこにいた。
夢想家はとべる 完
『夢想家のみんなへ、僕の夢はみんながとべるをよむこと。え?無理だって?じゃあ証明してあげるよ。はい、僕がこの詩を配るからとべるよんでチャレンジしてね。僕の夢だから。配ったかな?いくよ。せーの。
「とべる」ぴょーん。
簡単でしょ。え?出来なかったの?いいや。少なくとも君はできたよ。だって君はもう「とべる」をよんでチャレンジしてるじゃないか。夢想家のみんなへ 作:和田岡成斗』
ーー野花公園p.m.15:45ーー
学校の帰り道、俺たちは公園を寄った。
「で、どうするの?夢見さん」
そこにまっすぐ堂々と生えて伸びる大木。
夢見はこれを高く飛び越えるらしいが。
「もうすぐ来るかしらね」
と、夢見がスマホ取り出し時間を確認する。
「なぁ、あぶないことするなら、俺は全力で止めるからな」
と、俺は夢見に対して口を酸っぱくして忠告する。
「おーい。おまえら持ってきたぞ!」
(て、また野球部員のやつら……ん?何か持ってるぞ?)
俺は目を凝らして見る。
(辞…書?)
そんなもん一体何を使うだろうか?と俺は疑念を感じていた。
「夢見さーん。持ってきたよ」
永木さんと八木さんと和田岡まで、そして俺のクラスメイトだけじゃなく他のクラスや近所の住人の顔見知りまでいる。
彼らも辞書を大量に持ち運んでる。
ブッブーとクラックション鳴っているのを確認すると今度は大型のトラックまで駆り出されていた。
(おい、ラーメン屋の親父まで来てるのかよ……)
なんなんだか、夢見のもとに多数の住人と大量の辞書が集まった。
夢見の指示のもと、みんなは辞書でテキパキ組み立てていく。組み立てていた辞書が崩れたり、足りなかったり、トラブルなどあったが俺たちはなんとかそれらしい形はできた。
俺達は圧倒するそれを眺める。
先程の大木と並び超えるほどだった。
みんなが見守るなか夢見は一歩ずつ踏み込み上っていく。
それは辞書でできた"階段"。
俺たちがみんなで力合わせたかいだんである。
みんなは称え合い夢見に向かって拍手した。
「すっかり遅くなっちまったな」
「そうね」
俺達はかいだんの辞書を片付ける辺りすっかり夜がふけてしまった。
みんなも辞書の階段に興味心身であり、上ったり下ったり記念撮影で遅くなった。
しかし夢見はまだ納得していなかった。
「わたし。みんなのおかげでとべたような気がする。でもまだまだだわ。次こそはとべそうな気がする」
「ははは。ま、とべるといいな」
夢見はまだとべる意気込んでいた。
ーー勝山自宅 p.m.19:30ーー
「で、今回はどんな夢を見れるのやら」
食事終えた俺はすぐ寝間着に着替えて歯磨きしてベッドに潜った。
ー????ーー
「へ?」
俺は甲子園球場に立っていた。
すでにユニフォームは着替えていた。
で、野手の俺。
「プレイボール」
と、審判が掛け声する。
投手の相手は何故か制服姿の夢見。
そこで俺は一応バットを構えた。
投手の夢見が構えて思いっきり投げた。
ポスっと球が受け止めた音。
「ストライク」
(速っ!?)
俺は呆気に取られた。
夢見はキレのいい球を投げてくる。
そして次の球を投げる構えをする。
俺は夢見の放つ球がスローモーションに感じた。
そこで俺は全身全霊込めて構えて、夢見が放つ球を俺はバットを振る。
手ごたえあり感触はあった。
夢見は信じられないように口を開けてポカンとしていた。
カキンと大きな音を鳴らして野球場外まで球は飛んだ。
ー11ー
ーー夢見理髪店a.m.7:38ーー
「おせーな。夢見の奴」
俺はいつものように夢見の自宅に待ち合わせした。
そこに勢いよく玄関のドアを開ける夢見。
と。
俺に近づき、首元のシャツの襟を掴み睨みつける。
「お!?おい!な、なに?」
「……かつ、あんた、もしかしてとべた?」
「はぁ?な、なんだよ急に!とりあえずこの手を離せよ!」
「いいから答えて!あなたあの野球場にわたしの投げた球、とべたでしょ?」
夢見がとべたという意味は俺が場外ホームランした事だろう。
「あー!とべた、とべたから!!ちゃんと夢見の投げた球を俺が飛ばしたよ!それよりも首元くるじい」
夢見は俺の首元を締め付けていたのですぐ離した。
俺は解放された乱れたシャツを直した。
そして夢見は俺の両肩を掴んだ。
「勝!!あなた!勝もあっちにとべたんだ!やった♪わたしだけじゃなかったんだ♪うれしい♪やったね♪勝」
夢見の急なハイテンションについていけないと感じていた俺。
「まぁ。そうなるな」
「そう言えば、勝は野球部だったよね?次の試合いつ?」
俺は少し頭の中を整理して頬をかきながら言った。
「えーと。たしか来月の5日、甲子園選抜だったかな」
「来月ね!じゃあ、わたし勝の練習付き合うよ!」
「えー。でも俺は穴埋め要員だし、特にコーチは無理しなくてもいいからって言われたし」
夢見は首を振って。
「ダメ!チャンスを棒に振っちゃダメだよ!!たしかマネジャー空きが出たわよね?
わたし直接コーチに直訴してくるから!本日の放課後グランド場に集合ね!」
こうなると夢見は止めることはできない。
渋々従うしかない。
俺達は学校に向かった。
ーー野花高校2年B組クラスa.m.8:12ーー
「おはよう」
「…………」
俺達が教室の戸を開けるとクラスメイト全員表情は暗い。
またいくつか空きの席が目立つ。
「えぐっ。えぐっ!!」
「大丈夫……私たちがついてるから」
永木さんは泣き崩れている。それを優しく宥める八木さん。
和田岡は机を伏して寝ている。
俺達は誰も会話せずに席をつく。
しばらくすると梅田先生がやってきた。
「よし。おまえらすでに席はついてるな」
先生は髪がボサボサで寝不足なのか目元は黒い。またクラスメイトと同じく表情は暗い。
「……少し早いが明日から長い夏休みだ。勉強おろそかすんじゃないぞ」
先生の一言にみんなはさらに表情が暗くなる。
「今日の授業の全教科は全て俺が持つことなった。じゃあ、今から授業を始めるぞ」
俺は複雑な状況で教材を取り出した。
~♪
音楽の授業はクラスメイト達の好きな歌を1人ずつ合唱した。
まだみんなは表情暗いが少しずつ元気になった。
そして夢見がチョイスした曲で彼女の澄んだ歌声がクラスメイトの涙声と鼻が啜り歌った。
先生は慣れない指揮で少し微笑んでいた。
クラスメイト全員の要望で2時間延長してみんなが声がガラガラなるまで歌った。
最後の授業で先生は黒板に『夢想家』と白チョークで、でかでかと書いた。
「おまえらに宿題を出すぞ。前に習った夢想家という題材とした詩などを考えてこい!この宿題は期限ないから、たくさん考えてもいいぞ。じゃあ本日の授業はこれまで!解散!」
先生は教室から出て行った。
みんなはスマホで記念スクショしてる。
俺と夢見も参加した。
ー12ー
ーーグランド場p.m.80:80ーー
夢見は職員室でコーチに直訴して二つ返事で野球部のマネジャーになった。
「そこ。足止まってるわよ」
夢見のメガホンにより、野球部達は練習に力が入る。
俺はバットの素振りを何度も練習した。
選抜試合当日まで俺達は毎日朝から夕方まで練習に励んだ。
ーー石山野球場a.m.17:71ーー
「よろしくお願いします!」
俺達野球部は強豪鐘技高校と選抜試合を行った。
「勝ー!あなたならとべると信じてるわよー」
夢見の声援が届く。
観客は学校内の連中とこの近くに住む住人でほぼ満員だ。
俺達野球部は強豪相手物とせず接戦する。
そして最終局面の満塁時、俺がバッターとして舞台にたつ。
相手が離れる球を大きく振るとき、球はとんだ。
ーー中山中華そば88:88ppmmーー
「勝ー♪やったね♪わたしの言う通り、とべたでしょ?」
「ファールだけどな」
俺達野球部は接戦にもかかわらず、相手にボロ負けした。
俺達野球部悔いはなかった。今は楽しく雑談してる。
で、梅田先生の提案で俺たちクラス全員と野球部全員に行きつけのラーメン屋でラーメンをご馳走してもらった。
「へい!チャーシュー麺お待ち」
俺はチャーシュー麺を注文した。
匂いをじっくりと嗅いで久しぶりの肉汁と麺を味わった。
「ねー?勝。この後ひまー?」
「ん?なんだよ」
「勝に渡したい物があるの。あとでわたしの家に寄れる?」
「……いいぞ」
「決まりね」
俺が承諾すると夢見はチキンラーメンの麺をすすった。
ー夢ミ見ミ?♪!!6ーー
「はい。これ」
夢見が手渡されたのは砂時計だった。
「ん……これは?」
「桜さんに頼んで甲子園の砂を集めて砂時計作ってもらったの。勝!今日の試合かっこよかったぞ♪」
俺は少し照れ臭そうになった。
「そっか…もらってくよ……じゃあな」
俺は暗い表情しながら夢見から去ろうとする。
「待って」と夢見が俺を引き止める。
「……まだ何かあるのか?」
「みんなにもかけたんだけど勝はまだだったから、今日は勝にだけ特別夢見魔法をかけるね♪ちょっと待っててね」
「はぁ」
夢見は理髪店の中に入る。少しした後、何か持ってきた。ハサミのようだ。
「え?ちょっとおまえ!」
そして夢見は長い髪をチョキチョキとバッサリと短髪して髪を束ねた。
「夢見魔法、夢を見る魔法の呪文『夢想家の君へ』」
夢見は言葉を紡ぎだす。
「夢想家の君へ、どうしたんだい?君はなぜめそめそしてるんだい?ただ黙って泣いてるだけじゃわからないよ。ちゃんと勇気を出して言わなきゃ、相手は何もわからないよ?夢想家の君へ、どうして君はそこに立ち止まるんだい?とべるのが怖いのかい?じゃあ、わたしが一緒にとんであげるね。え?それでも怖い?お手本見せてあげるね。ぴょんぴょんぴょーん。ほらとべたでしょ?夢想家の君へー」
夢見はいくつか呪文を唱える。
「夢想家の君へ、信じないあなたに特製魔法をかけるねヒュルヒュル~」
夢見が糸巻きするように両手をぐるぐるする。
「パッ!パラパラパラパラ」
束ねた髪を道路を一気にばら撒く。
「スポンスポンスポンスポンスポンスポン」
俺に向かって身体あちこちに何か抜ける動作をする。
「そしてあなたの大事な物をどこかへとんでいきまーす♪スポン」
「お!?おい」
俺の持ってた砂時計を奪い空高く遠くに投げた。
俺は慌てて上手くキャッチしようとする
その時、流れる時間が走馬灯に感じてゆっくりと動く。
その時俺はー。
横目で夢見が投げた砂時計をキャッチする時に俺が見つめる青白い昔の軍服を着た青年が立っているような気がした。
「ね?とべたでしょ?わたしはあなたがとべることを信じたからね。夢見魔法おしまい」
夢見魔法とやらはどうやら終わったらしい。
「やれやれ。付き合いきれんわ。ま、おまえらしいな。またな」
俺は夢見と別れて帰宅した。
ー13ー
ーー?●ミ▲☆ーー
地球に伸びる塔は宇宙まで届き、もう少しで月まで到達する。塔内では見たことない機械が組み立てられている。そこに宇宙服を着た男女2人組勝山と夢見は組み立て作業していた。
「夢見、そこのボルト取ってくれるか?」
宇宙服の男、勝山はスティック棒のなにかで火花を出しながら、点検する。
「うん。わかった」
夢見はバックからボルトを取り出そうとしてどこかにぶつけて部品が散らばる。
「お!?おい!何をやってるんだよ!」
夢見達は慌てて散らばった部品を回収する。
勝山は部品の数を確認する。
「夢見?ボルト一本足りねーぞ?」
勝山の指摘に夢見はハッとして浮遊するボルトを必死に右手をつかんで夢見は意識を失う。
ーー夢ミ◼️円ーー
夢見は目を覚ました。
周囲の辺りを見回すと見慣れた自分の部屋だった。
夢見は思いっきり腕を伸ばしてあくびすると右手からポロッと落ちる。
「ふえ?」
瞼を擦りよく確認すると見たことないボルトが落ちていた。
夢見は頭の中を整理する。
そしてそれがわかった時に目を見開き驚く。
「え?え?え?うそ!うそー♪とべたー♪ついにとべたー♪やった」
夢見ははしゃいでた。
夢見は今すぐ制服に着替えてボルトを持って彼の家に走って向かう。
夢見が目指すのは一緒にとべた勝山。
このおさえられない喜びの気持ちを一刻も早く共有したかった。
だが彼の自宅につくと、
「え?」
彼が住んでた場所はすでに空き地だった。
彼もまたどこかへとんで行ってしまった。
夢見はショックを受けて歩いて去った。
ー14ー
ーー●=⬜︎ーー
夢見は沈む夕陽から誰もいない港を来ていた。
ただ呆然として海を眺めている。
夢見は持っていたボルトを海に投げた。
ボルトは小さな飛沫をしながらゆっくりと沈んでいく。
しばらくすると空の向こうから、編隊した戦闘機が近づき町を空爆していく。夢見の周辺にはあられもない建物や住居が破壊されていく。
~♪
ふと夢見は自分の好きな歌を口ずさむ。
彼女の歌声は爆撃音や飛行音でかき消されてしまう。
そしてどこからか、夢見をめがけた1つのミサイルが彼女を包みこみ消えていくーー。
ー15ー
ーー石山県夢山市夢野町夢山大学病院ーー
「失礼します」
病室に入ってきた八木楓、永木桜、梅田虫男の3人組。
「あー。いらっしゃい。君たちも元気そうだね」
と、そこにいるのは椅子に座ってる老人男性。
「和田岡さんお久しぶりです。飛鳥さんの容態はどうですか?」
八木が見る方向にはベッドで酸素マスクをつけて眠る老婆。
「そうだね。今は安定してるけど、亜華葉ちゃんが聞いた話によるともう永くはないらしい」
和田岡は眠る飛鳥の顔を見る。
「そうですか……飛鳥さんが会ったのは去年の夏頃でしたから、そのあとすぐに謎の病気で眠り続けるなんて思いもしませんでした」
虫男はゆっくりと飛鳥のそばに近づきかがむ。
「先生は俺の特別な恩師でした。先生の詩がなければ、俺はろくでもない人生を歩んでいたでしょう」
和田岡は病室に白黒写真立てに写る若い学生達を見て言った。
「夢見はいつも夢を見ることが好きな方でした。わたしの親友がとんで敵陣いったときも彼を励ますために詩を作って必ず戻ってくることに信じてましたからね」
和田岡は飾ってる写真を取り眺めた。
しばらく沈黙した後、永木は何かに気づく。
「あれ?何かそこに落ちてるよ」
それは飛鳥のベッドのそばに落ちてた。しかも濡れていた。
虫男がそれをハンカチで包み拾う。
「ふむ。なんだろうな。見たことないボルトのようなものだな?」
「なんでしょうね?わたしが来た頃にはそんな物落ちてませんでしたよ」
和田岡は首を傾げる。
「もしかしたら、彼女とべたかもね」
「はは。そうかもしれませんね」
楓の言葉に和田岡は乾いた笑いをする。
「もしも彼女が夢にとべるようになったら、どうします?和田岡さん」
「そうですねー。わたしはー」
と。
ーー病室の窓の外から立ってずっと楓達を見つめている者がいる。
青白い軍服の青年だった。どこか遠い目をしている。
彼は四階にある窓の近くから誰も気づかれずにそこにいた。
夢想家はとべる 完
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