【R18】魔剣者シャンペトル・ブーケ

野花マリオ

文字の大きさ
20 / 48
第2部 魔剣者ブリーゼの手紙

ノーマルステージ0204「相談の村」

しおりを挟む
 ー①ー 

 林地帯を抜けると、緑豊かで穏やかな村が現れた。
 小川のせせらぎが柔らかく耳に届き、木漏れ日が石畳や草花の隙間を照らす。鳥たちのさえずりは、まるで村人たちの日常を祝福するかのように響く。
 この地には争い事やささいな不満はなく、人々は互いを尊重し、悩みや不安があれば必ず集まって相談する習慣を守っていた。

 旅人や行商人からは“相談の村”と呼ばれ、その名は遠くの土地にまで届いていた。
 村人の一人、老人が石垣に腰をかけ、小さく呟く。
「相談しないことは、村を滅ぼすことになるかもしれん……」

 彼らにとって相談は、単なる話し合いではない。平穏を保つための掟であり、心の安寧の源だった。
 小さな子供たちも、日々の生活で何か迷いがあれば、母親や教師に相談し、意見を交わして学んでいた。
 花を植える場所ひとつ、家畜の世話の順番ひとつでさえ、相談によって決まる。

 村の中央広場には、相談を行う円形の石壇があり、村人たちはそこに集まって話す。
 そこには村長の席もあり、杖を突きながら村の舵を取る人物が座る。
 相談は、問題を解決するだけでなく、村人同士の信頼と絆を育む儀式のようなものだった。

 ⸻

 ー②ー

 ある日の朝、若者が村長のもとへ駆け込む。
「村長、食糧が来月ありません」
 声は心配げに震え、汗が頬を伝って流れる。

 村長は杖を握り、深く頷いた。
「よし、相談じゃ」

 広場に村人が集まり、長い話し合いが始まる。
 議論は丁寧で、互いの意見を尊重しながら進む。誰も焦らず、言葉を聞き、確認を繰り返す。
「この貯蔵の穀物を少しずつ分け合えば、来月までは耐えられるのではないか」
 ある老婦人が慎重に提案する。

 議論の中で、年少の少年が手を挙げた。
「僕たちも畑仕事を増やして、少しでも収穫量を増やせます」
 皆が頷き、笑顔が広がる。
「よし、それで行こう。協力すれば、必ず乗り越えられるのぅ」
 村長の言葉に、村人たちは安堵の笑みを浮かべた。

 相談とは、問題を共有することだけでなく、共同で解決策を生み出す行為だった。

 ⸻

 ー③ー

 数日後、中年の男が村長に申し出る。
「村長、働き手が足りません。畑も家畜の世話も追いつかぬのです」

 村長は静かに頷いた。
「よし、相談じゃ」

 村人たちは再び集まり、議論を交わす。
「若者の一部を他村に出向させ、技術や経験を持ち帰ってもらえば、双方の助けになるのではないか」
 ある女性が提案する。

 議論の最中、働き手候補となる若者たちの心境も描かれる。
「村を離れるのは不安だ……でも、皆のためになるなら」
 彼らは迷いながらも、自らの役割を理解し、決断を下す。

 最終的に、数名が他村に出向し、労働力を補うことが決まった。
「話し合えば、解決策は必ず見つかる」
 村人の顔には、再び希望が戻った。

 ⸻

 ー④ー

 ある日、広場に慌ただしい声が響く。
「村長!大変です!」
「なんじゃ、騒がしいのぅ」
「賊です!村に侵入しました!」

 村長は杖を握り、落ち着いた声で答える。
「なんじゃと!?いかん、相談しないと」

 緊急事態であっても、村のやり方は変わらない。
 しかし、話し合いに時間をかけるうち、賊は村の周囲を制圧し、家屋を焼き、村は壊滅してしまった。

「……相談だけでは、全てを守れぬこともあるのか」
 村人たちの声は静かに、しかし胸に刺さる。恐怖と後悔が、村全体に暗い影を落とした。

 相談は理想であり、文化であり、信念でもある。しかし現実は、それだけでは守れない。
 焼け跡に立つ村長の目には、無力感と痛切な学びが映っていた。

 ⸻

 ー⑤ー

「ここが相談の村か」

 シャンペトルブーケとジェイドは、煙が漂う村の跡地に立っていた。
 焼け残った家屋、散乱した家財、静まり返った広場――村の平穏は、一瞬にして失われていた。

「村は……壊滅しておるな」
 ジェイドが低く唸り、周囲を警戒する。

 シャンペトルブーケは剣を肩にかけ、目を細める。
「相談だけでは守れぬ、現実の厳しさを、俺がここで示すことになる」

 彼は村を調査し、被害の範囲を確認する。木々に刻まれた傷、焦げた家屋、避難していた者たちの足跡――全てが戦いの痕だった。
 ジェイドはその臭いや気配を嗅ぎ、残党の位置を知らせる。

 ⸻

 ー⑥ー

 森の奥から、まだ賊の影が忍び寄る。
「残党か……油断はできぬな」

 賊たちが飛び出し、斧や剣で襲いかかる。
 刃と刃がぶつかる音、矢が木々を裂く音、遠くで燃える家屋の炎の音――森に緊張が走る。

 シャンペトルブーケは魔剣を振るい、影を斬り裂く。
「俺は村を救えなかったが、これ以上犠牲は出さん!」

 ジェイドは飛びかかり、賊の動きを封じる。
 戦闘は冷徹で、計算された動きだった。剣の刃先が影の隙間を縫い、ジェイドの動きが補完する。
 賊は恐怖に目を見開き、統率を失い、次々と倒れていく。

 戦いの中で、シャンペトルブーケは考える。
「力だけでは守れない……だが、力と判断力を合わせれば未来は変えられる」

 ⸻

 ー⑦ー

 賊を退けた後、村人の生存者たちと再建について話し合う。
「相談だけでは守れぬこともある。だが、共に考えれば、次は守れる」

 残った者たちは集まり、焼け跡の中で議論を交わす。
 家屋の再建方法、食糧の配分、警備体制の強化……小さな問題も、一つひとつ話し合う。

 シャンペトルブーケは、剣を傍らに置きながらも、心理的な支えとして村人たちに助言する。
「相談とは、問題に直面した時、どう向き合うかを考えることだ。恐怖を恐れず、共に決断する勇気が必要なのだ」

 村人の顔には、徐々に希望が戻る。
「力だけではなく、知恵と心で未来を切り拓く……」
 若者が小さく呟いた言葉に、全員が頷く。

 ⸻

 ー⑧ー

 黄昏、村の再建作業を見守るシャンペトルブーケ。
 ジェイドが肩に頭を寄せ、静かに村人を見つめる。

「相談とは、ただ話すことではない。恐怖や不安に耳を傾け、共に答えを見つけること……」
 シャンペトルブーケは村人たちに最後の言葉を残し、旅立つ準備をする。

 村人たちは再び集まり、話し合いを続ける。
 小さな声、祈るような声、笑い声、議論の声――それらが新たな日常を作っていく。

 そして魔剣者と狼は、次なる地へ向かって歩き出す。
 相談と決断の意味を胸に抱きながら、影と光の間を進む二人の影は、夕焼けに長く伸びた――

相談の村0204    Stage clear!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

処理中です...