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第3部 賞金首ホープ達の行方
メインストーリー0314「不死者アナの秘密」
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ー①ー
夜明けの雪原に、沈黙が降りていた。
廃村を覆う吹雪は止み、血の匂いだけが風の底に残っている。
倒れた死体は五。生き残ったのは、魔剣者シャンペトル、聖者ゼタ、黒狼ジェイド、そしてサムライ剣者ミズキリ――のはずだった。
だが、あの夜。
死んだはずの女、アナが立っていた。
「……おはよう、皆さん」
血の跡も、傷も、何もない。
白い吐息とともに微笑むその姿に、誰も言葉を返せなかった。
幼子の声が続く。
「ママ……?」
振り返れば、ラナまでもがそこにいた。
青ざめた頬、氷のような肌。
――彼女も、また“生者”ではなかった。
⸻
ー②ー
「説明してもらおうか、アナ」
ゼタが低く問う。聖者の杖先に光が灯る。
アナは穏やかに首を振った。
「これは……神を裏切る術。生を拒み、死を拒む者の呪いです」
ミズキリが無言で刀を抜く音が響く。
「つまり……貴様は自ら“不死者”となったというのか」
アナは小さく微笑んだ。
「違うわ。わたしはラナを取り戻したの。ただ、それだけ」
その声は凍てついた夜よりも静かで――
そこに“母”としての狂気と、聖なる哀しみが共に宿っていた。
⸻
ー③ー
シャンペトルは息を吐いた。
「……この村の死者たち。まさか、全部……」
「ええ」アナは頷いた。
「彼らは“神狼の血”を浴びたの。神狼とは、死を超えるものの象徴。だからこの村は滅んだ。神狼を封じるために、わたしはその血を受けた。死を、拒むために」
ゼタの手が震えた。
「禁忌の中の禁忌……! それを行えば魂は天へ昇れぬ。永遠に、この雪に縛られるのだぞ!」
「それでもいいの。ラナが、そばにいるなら」
吹雪が窓を叩く音が響いた。
シャンペトルはただ、沈黙のまま剣の柄を握りしめた。
⸻
ー④ー
やがてゼタが唇を噛んだ。
「では、ここでの殺戮は誰の手によるものだ? ガトも、カミも、ドラゴも……貴様がやったのか?」
アナは静かに首を振る。
「違う。あの夜、わたしを殺したのは――ドラゴよ」
場が凍った。
ミズキリの瞳がかすかに揺れる。
「ラナを守ろうとしたわたしを、ドラゴは“怪物”と呼び、斬った。
でも……神狼の血が、わたしを再び立たせた。
そして――ミズキリが、ドラゴを討った」
シャンペトルはその瞬間、理解した。
剣士ミズキリの沈黙は、罪ではなく“赦し”のためのものだったのだと。
⸻
ー⑤ー
アナは娘の頭を抱きながら微笑んだ。
「罪はわたしにあります。彼女を責めないでください。
……あなたたちは正しい。死すべき者は、死なねばならない。
でも、どうしても――別れられなかったの」
ゼタは目を伏せた。
その声には祈りとも呪詛ともつかぬ震えがあった。
「神の國は、あなたを受け入れない……それでも、まだ望むのか」
「ええ」アナは頷く。
「この子と生きられるなら、それが地獄でも」
⸻
ー⑥ー
沈黙を破ったのは、シャンペトルの低い声だった。
「ゼタ。裁くのは今ではない」
「だが、放てばこの呪いは広がる!」
「分かっている。だが、彼女は“悪”ではない。
むしろ、罪を背負って立っている。俺たちが剣を振るうのは――理不尽を断つためだ」
ミズキリが静かに刀を鞘に戻した。
その仕草に、アナは深く頭を下げた。
「ありがとう……本当に、ありがとう」
ラナが母の影に抱かれ、小さく「おにいちゃんたち、やさしいね」と呟いた。
その声は氷を溶かすように柔らかだった。
⸻
ー⑦ー
夜が再び訪れた。
村を覆う雪は止まず、遠くで狼の遠吠えがこだました。
ゼタが焚火を見つめながら呟く。
「結局、この地には神狼の血が残ったまま……」
シャンペトルは静かに答えた。
「ならば、俺たちが見届けよう。いつかこの血が、再び人の手に渡らぬように」
黒狼ジェイドが低く唸り、ミズキリが空を見上げた。
雪は、まるで亡者たちの祈りのように、音もなく降り続けていた。
⸻
ー⑧ー
夜明け前。
アナとラナは、村外れの教会跡に消えていった。
誰も彼女たちの行方を知らない。
だが、吹雪の彼方――微かに、あの母子の笑い声が聴こえた気がした。
それは悲しくも温かい、死者の残響。
ゼタが祈りの言葉を口にし、シャンペトルは剣を背に立ち去る。
「生きる者も、死せる者も。どちらもこの雪の中で迷っているのかもしれんな……」
そして、最後に雪明かりの中で、ジェイドが耳を立てた。
吹雪の奥から、別の“何か”の気配が忍び寄ってくる。
――その影こそ、次なる災厄の胎動だった。
next Battle 「木族と木獣達の群れ」
夜明けの雪原に、沈黙が降りていた。
廃村を覆う吹雪は止み、血の匂いだけが風の底に残っている。
倒れた死体は五。生き残ったのは、魔剣者シャンペトル、聖者ゼタ、黒狼ジェイド、そしてサムライ剣者ミズキリ――のはずだった。
だが、あの夜。
死んだはずの女、アナが立っていた。
「……おはよう、皆さん」
血の跡も、傷も、何もない。
白い吐息とともに微笑むその姿に、誰も言葉を返せなかった。
幼子の声が続く。
「ママ……?」
振り返れば、ラナまでもがそこにいた。
青ざめた頬、氷のような肌。
――彼女も、また“生者”ではなかった。
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ー②ー
「説明してもらおうか、アナ」
ゼタが低く問う。聖者の杖先に光が灯る。
アナは穏やかに首を振った。
「これは……神を裏切る術。生を拒み、死を拒む者の呪いです」
ミズキリが無言で刀を抜く音が響く。
「つまり……貴様は自ら“不死者”となったというのか」
アナは小さく微笑んだ。
「違うわ。わたしはラナを取り戻したの。ただ、それだけ」
その声は凍てついた夜よりも静かで――
そこに“母”としての狂気と、聖なる哀しみが共に宿っていた。
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ー③ー
シャンペトルは息を吐いた。
「……この村の死者たち。まさか、全部……」
「ええ」アナは頷いた。
「彼らは“神狼の血”を浴びたの。神狼とは、死を超えるものの象徴。だからこの村は滅んだ。神狼を封じるために、わたしはその血を受けた。死を、拒むために」
ゼタの手が震えた。
「禁忌の中の禁忌……! それを行えば魂は天へ昇れぬ。永遠に、この雪に縛られるのだぞ!」
「それでもいいの。ラナが、そばにいるなら」
吹雪が窓を叩く音が響いた。
シャンペトルはただ、沈黙のまま剣の柄を握りしめた。
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ー④ー
やがてゼタが唇を噛んだ。
「では、ここでの殺戮は誰の手によるものだ? ガトも、カミも、ドラゴも……貴様がやったのか?」
アナは静かに首を振る。
「違う。あの夜、わたしを殺したのは――ドラゴよ」
場が凍った。
ミズキリの瞳がかすかに揺れる。
「ラナを守ろうとしたわたしを、ドラゴは“怪物”と呼び、斬った。
でも……神狼の血が、わたしを再び立たせた。
そして――ミズキリが、ドラゴを討った」
シャンペトルはその瞬間、理解した。
剣士ミズキリの沈黙は、罪ではなく“赦し”のためのものだったのだと。
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アナは娘の頭を抱きながら微笑んだ。
「罪はわたしにあります。彼女を責めないでください。
……あなたたちは正しい。死すべき者は、死なねばならない。
でも、どうしても――別れられなかったの」
ゼタは目を伏せた。
その声には祈りとも呪詛ともつかぬ震えがあった。
「神の國は、あなたを受け入れない……それでも、まだ望むのか」
「ええ」アナは頷く。
「この子と生きられるなら、それが地獄でも」
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ー⑥ー
沈黙を破ったのは、シャンペトルの低い声だった。
「ゼタ。裁くのは今ではない」
「だが、放てばこの呪いは広がる!」
「分かっている。だが、彼女は“悪”ではない。
むしろ、罪を背負って立っている。俺たちが剣を振るうのは――理不尽を断つためだ」
ミズキリが静かに刀を鞘に戻した。
その仕草に、アナは深く頭を下げた。
「ありがとう……本当に、ありがとう」
ラナが母の影に抱かれ、小さく「おにいちゃんたち、やさしいね」と呟いた。
その声は氷を溶かすように柔らかだった。
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ー⑦ー
夜が再び訪れた。
村を覆う雪は止まず、遠くで狼の遠吠えがこだました。
ゼタが焚火を見つめながら呟く。
「結局、この地には神狼の血が残ったまま……」
シャンペトルは静かに答えた。
「ならば、俺たちが見届けよう。いつかこの血が、再び人の手に渡らぬように」
黒狼ジェイドが低く唸り、ミズキリが空を見上げた。
雪は、まるで亡者たちの祈りのように、音もなく降り続けていた。
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ー⑧ー
夜明け前。
アナとラナは、村外れの教会跡に消えていった。
誰も彼女たちの行方を知らない。
だが、吹雪の彼方――微かに、あの母子の笑い声が聴こえた気がした。
それは悲しくも温かい、死者の残響。
ゼタが祈りの言葉を口にし、シャンペトルは剣を背に立ち去る。
「生きる者も、死せる者も。どちらもこの雪の中で迷っているのかもしれんな……」
そして、最後に雪明かりの中で、ジェイドが耳を立てた。
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