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蜂黒須怪異談∞X∞
0069話「暗冊⭐︎ミッション」
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1.
雨の匂いが湿った校舎にこびりつく放課後。
私はオカルト研究部の部室で、例の依頼メールを見つめていた。
「あなたの力が必要です――曰く付きの書物、悪魔の本、呪いの本……消去してください。」
送信者は不明。文面から漂うのは、焦燥と恐怖と、それに僅かに混じる狂気だった。
私は息を吐く。いつもの冷静な自分を装いながらも、心臓は少しだけ速く打っていた。
「……また、か」
オカルト研究部には日常的に奇怪な相談が寄せられるが、今回は“暗冊”と呼ばれる、危険度Sクラスの書物を扱う任務だった。私たちの部活はお祓いの心得もある。だが、それでも暗冊の呪力は学校の怪談とは比べ物にならない。
2.
最初の依頼は、廃書店の奥深くに眠るという、黒い革表紙の「影の書」。
扉を開けると、空気は濃く重く、埃とカビの匂いの奥に、得体の知れない冷たさが漂っていた。
私の持つ符を握りしめる。
「護符……、展開」
静かな声で呪文を唱え、白い光が符を包むと、暗冊の周囲に青白い霧が立ち込めた。
書物は、まるで意志を持つかのように震え、ページが一枚ずつ勝手にめくれる。そこに描かれるのは、見る者の心の奥底にある恐怖そのもの――血の涙を流す子供、蠢く影、耳をつんざく笑い声。
息を殺し、私は目を閉じる。
「……読み込まれるな、絶対に」
3.
暗冊はただの書物ではない。生きている。意志を持つ。
ページを開いた瞬間、私の頭の中に声が響いた。
「お前は消す側……か。面白い。だが、消す前に、味わわせてもらおう」
私の手が、知らぬ間に震え、符が燃え上がる。冷静さを失えば、その場で魂を奪われる。
だが、私は学んできた。オカルト研究部の先輩たちから、何百冊もの呪文書と悪魔書を学んできた。
呼吸を整え、心を一点に集中する。
「光よ、我が手に集え――暗冊、消滅せよ!」
青白い光が書物を包み込み、激しい抵抗の末、影の書は黒煙となって消え去った。
辺りに漂う冷気も、何もかもが嘘のように消えた。静寂。だが、胸の奥には疲労と緊張が残る。
4.
依頼は次々と届く。曰く付きの書物は、古書店、図書館、時には個人宅にまで潜む。
ある書物は開いた瞬間、呪いの言葉で部屋を閉ざす。
ある書物は、読んだ者の影を吸い取り、自分の中で増殖させる。
私は高校生でありながら、暗冊ミッションの“暗殺者”となった。
友人には秘密だ。部活の仲間と共に作戦を練り、符を作り、呪文を唱える――日常と非日常が交差する場所で。
5.
最も手ごわい任務は、市立図書館の閉架書庫に潜む「悪魔の書」だった。
誰も近づかぬ棚の奥。そこには、誰かの生き写しのような人形が置かれ、薄暗い光の中でじっと私を見ていた。
書物は私の存在を知っている。ページが勝手にめくれ、声が頭に響く――
「お前が来るのを、ずっと待っていた」
背筋を震わせながらも、符と呪文を組み合わせ、全身で護符の光を放つ。
書物は必死に抵抗するが、次第にその意志は弱まり、最後には灰となって消えた。
図書館の空気は再び普通に戻る。だが、微かにページの匂いが残り、書物がまだ何かを訴えたがっていることを私に気付かせた。
6.
すべての暗冊を消去したわけではない。
しかし、私の手で救われた人々は少なくない。
日常に潜む怪異に気付くことなく、明日も学校に通う人々。
私はその裏で、静かに祈る。
「本よ、安らかに眠れ。だが、二度と人を惑わすな」
雨はまだ止まない。だが、胸の奥の緊張は少しだけ和らいだ。
高校生としての日常と、怪異任務という非日常。両方を抱えながら、私はまた次の依頼に目を向けるのだった。
ーー「とあるマンガ出版社」ーー
「という怪異談マンガですが、どうでしょうか?」
「うーん。悪くないけどね」
と、私、賢木理奈はとあるマンガ編集部に自作マンガを持ち込んでいる。
今回はデビューならなかったが、私はあきらめずにマンガを描き続ける。
ただ、編集者の一言はオリジナルキャラクターで勝負しなさいというアドバイスがあったがガン無視した。
ん?パクってないよ?借りてるだけだから。
暗冊⭐︎ミッション 完
雨の匂いが湿った校舎にこびりつく放課後。
私はオカルト研究部の部室で、例の依頼メールを見つめていた。
「あなたの力が必要です――曰く付きの書物、悪魔の本、呪いの本……消去してください。」
送信者は不明。文面から漂うのは、焦燥と恐怖と、それに僅かに混じる狂気だった。
私は息を吐く。いつもの冷静な自分を装いながらも、心臓は少しだけ速く打っていた。
「……また、か」
オカルト研究部には日常的に奇怪な相談が寄せられるが、今回は“暗冊”と呼ばれる、危険度Sクラスの書物を扱う任務だった。私たちの部活はお祓いの心得もある。だが、それでも暗冊の呪力は学校の怪談とは比べ物にならない。
2.
最初の依頼は、廃書店の奥深くに眠るという、黒い革表紙の「影の書」。
扉を開けると、空気は濃く重く、埃とカビの匂いの奥に、得体の知れない冷たさが漂っていた。
私の持つ符を握りしめる。
「護符……、展開」
静かな声で呪文を唱え、白い光が符を包むと、暗冊の周囲に青白い霧が立ち込めた。
書物は、まるで意志を持つかのように震え、ページが一枚ずつ勝手にめくれる。そこに描かれるのは、見る者の心の奥底にある恐怖そのもの――血の涙を流す子供、蠢く影、耳をつんざく笑い声。
息を殺し、私は目を閉じる。
「……読み込まれるな、絶対に」
3.
暗冊はただの書物ではない。生きている。意志を持つ。
ページを開いた瞬間、私の頭の中に声が響いた。
「お前は消す側……か。面白い。だが、消す前に、味わわせてもらおう」
私の手が、知らぬ間に震え、符が燃え上がる。冷静さを失えば、その場で魂を奪われる。
だが、私は学んできた。オカルト研究部の先輩たちから、何百冊もの呪文書と悪魔書を学んできた。
呼吸を整え、心を一点に集中する。
「光よ、我が手に集え――暗冊、消滅せよ!」
青白い光が書物を包み込み、激しい抵抗の末、影の書は黒煙となって消え去った。
辺りに漂う冷気も、何もかもが嘘のように消えた。静寂。だが、胸の奥には疲労と緊張が残る。
4.
依頼は次々と届く。曰く付きの書物は、古書店、図書館、時には個人宅にまで潜む。
ある書物は開いた瞬間、呪いの言葉で部屋を閉ざす。
ある書物は、読んだ者の影を吸い取り、自分の中で増殖させる。
私は高校生でありながら、暗冊ミッションの“暗殺者”となった。
友人には秘密だ。部活の仲間と共に作戦を練り、符を作り、呪文を唱える――日常と非日常が交差する場所で。
5.
最も手ごわい任務は、市立図書館の閉架書庫に潜む「悪魔の書」だった。
誰も近づかぬ棚の奥。そこには、誰かの生き写しのような人形が置かれ、薄暗い光の中でじっと私を見ていた。
書物は私の存在を知っている。ページが勝手にめくれ、声が頭に響く――
「お前が来るのを、ずっと待っていた」
背筋を震わせながらも、符と呪文を組み合わせ、全身で護符の光を放つ。
書物は必死に抵抗するが、次第にその意志は弱まり、最後には灰となって消えた。
図書館の空気は再び普通に戻る。だが、微かにページの匂いが残り、書物がまだ何かを訴えたがっていることを私に気付かせた。
6.
すべての暗冊を消去したわけではない。
しかし、私の手で救われた人々は少なくない。
日常に潜む怪異に気付くことなく、明日も学校に通う人々。
私はその裏で、静かに祈る。
「本よ、安らかに眠れ。だが、二度と人を惑わすな」
雨はまだ止まない。だが、胸の奥の緊張は少しだけ和らいだ。
高校生としての日常と、怪異任務という非日常。両方を抱えながら、私はまた次の依頼に目を向けるのだった。
ーー「とあるマンガ出版社」ーー
「という怪異談マンガですが、どうでしょうか?」
「うーん。悪くないけどね」
と、私、賢木理奈はとあるマンガ編集部に自作マンガを持ち込んでいる。
今回はデビューならなかったが、私はあきらめずにマンガを描き続ける。
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