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蜂黒須怪異談∞X∞
0088話「カイダンスッパイショー」
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ーー「イシヤマ県某所・暗室」ーー
私の名はジョーズ。
怪談を収集し、闇市場に流すスパイだ。
怪談はただの噂ではない──命や魂と同等の価値を持つ“商品”。
国内外を問わず、莫大な値がつく。
だが今、私は語っている。
怪異の只中で。
そして、その語りを聞いているのは──ボスだ。
⸻
「どうだ、ボス。これが私の潜入報告、そして最後の怪異談だ」
私は机に手を置いた。
上司は沈黙し、背を向けたまま椅子をゆっくり回転させる。
その口元に浮かんだのは──失望の笑み。
「……だめだな、ジョーズ」
低い声が響く。
「お前はもう、怪談に呑まれている。商品としても失格だ」
その言葉と同時に、ボスの指が机の下のスイッチを押した。
床が裂けた。
私の足元に広がったのは、底知れぬ闇。
「まさか……」
叫ぶ暇もなく、私は吸い込まれた。
⸻
ーー「かいだん」ーー
落下した先にあったのは、一筋の階段。
無限に続く石の段差。
私は駆け上がる。
だが登っても登っても、終わりは来ない。
気がつけば、それは「階段」ではなく「怪談」になっていた。
壁の影から囁きが聞こえる。
「語れ……語れ……語り続けろ……」
一段ごとに、過去に収集した怪談が再生される。
屋上の足音。
湖に映らぬ顔。
冬のみかんから覗く黒い瞳。
私は気づいた。
この階段は──怪談そのもの。
語り尽くすまで終わらない。
⸻
やがて、頂上に辿り着いた。
そこにあったのは、ぶら下がる縄。
首を待つ輪。
「……処刑台か」
私は足を止めた。
その瞬間、階段はエスカレーターのように動き出す。
急加速で、私の身体は縄へと引き寄せられていった。
「やめろ……まだ、終わっていない……!」
だが輪は容赦なく首を締め上げる。
息が詰まり、視界が闇に閉ざされる。
⸻
次の瞬間──私は再び、最初の階段の下に立っていた。
「……繰り返し、か」
気づけば、これは死ではなかった。
“永遠に怪談を語り続ける罠”だったのだ。
空腹。
渇き。
声が枯れ果てるまで怪異を語り続け、倒れ、また最初に戻る。
「ここが……俺のエイエン(永遠)か」
私は最後の力で、声を絞り出す。
だがその悲痛な叫びは──誰の耳にも届かない。
⸻
今も私は、階段を登り続けている。
怪談を語るために。
誰かがこの物語を読んだ瞬間、階段はまた一段増える。
お前が次の「語り部」になる。
私の名はジョーズ。
かつて怪談を収集したスパイ。
今は──怪異談そのものだ。
カイダンスッパイショー 完
⸻
『霊和怪異譚 野花と野薔薇Ⅱ ~エイエン語り~』 著 野花マリオ
完
私の名はジョーズ。
怪談を収集し、闇市場に流すスパイだ。
怪談はただの噂ではない──命や魂と同等の価値を持つ“商品”。
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だが今、私は語っている。
怪異の只中で。
そして、その語りを聞いているのは──ボスだ。
⸻
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その言葉と同時に、ボスの指が机の下のスイッチを押した。
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「まさか……」
叫ぶ暇もなく、私は吸い込まれた。
⸻
ーー「かいだん」ーー
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無限に続く石の段差。
私は駆け上がる。
だが登っても登っても、終わりは来ない。
気がつけば、それは「階段」ではなく「怪談」になっていた。
壁の影から囁きが聞こえる。
「語れ……語れ……語り続けろ……」
一段ごとに、過去に収集した怪談が再生される。
屋上の足音。
湖に映らぬ顔。
冬のみかんから覗く黒い瞳。
私は気づいた。
この階段は──怪談そのもの。
語り尽くすまで終わらない。
⸻
やがて、頂上に辿り着いた。
そこにあったのは、ぶら下がる縄。
首を待つ輪。
「……処刑台か」
私は足を止めた。
その瞬間、階段はエスカレーターのように動き出す。
急加速で、私の身体は縄へと引き寄せられていった。
「やめろ……まだ、終わっていない……!」
だが輪は容赦なく首を締め上げる。
息が詰まり、視界が闇に閉ざされる。
⸻
次の瞬間──私は再び、最初の階段の下に立っていた。
「……繰り返し、か」
気づけば、これは死ではなかった。
“永遠に怪談を語り続ける罠”だったのだ。
空腹。
渇き。
声が枯れ果てるまで怪異を語り続け、倒れ、また最初に戻る。
「ここが……俺のエイエン(永遠)か」
私は最後の力で、声を絞り出す。
だがその悲痛な叫びは──誰の耳にも届かない。
⸻
今も私は、階段を登り続けている。
怪談を語るために。
誰かがこの物語を読んだ瞬間、階段はまた一段増える。
お前が次の「語り部」になる。
私の名はジョーズ。
かつて怪談を収集したスパイ。
今は──怪異談そのものだ。
カイダンスッパイショー 完
⸻
『霊和怪異譚 野花と野薔薇Ⅱ ~エイエン語り~』 著 野花マリオ
完
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