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蜂黒須怪異談∞X∞
0019話「笑ゥ石」
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「1」
真夏の残暑がようやく遠ざかり、肌寒さを感じる秋の夕暮れ。
蝉の合唱は消え、かわりに鈴虫のかすかな音色が夜の静寂を埋める。
休日の昼下がり、橋の下の川辺でひとり、青いバケツを抱えながら石を拾う少女がいた。
彼女の名は 小石麻紀。
名前の通り、小石マニアで、奇妙な形や色の小石を探し集めるのが趣味だった。
川辺に落ちている石をひとつひとつ手に取り、観察し、納得のいくものだけをバケツに入れていく。
麻紀の目は真剣そのものだった。小さな石の凹凸や、光の反射、微妙な色の濃淡を見逃さない。
ある程度集め終えると、麻紀は満足そうに帰路につく。
⸻
ーー「小石家」ーー
「ただいま」
麻紀は戦利品を抱え、浴室へ向かう。
ひとつずつ丁寧にシャワーで洗い流し、泥や砂を落とす。
(ピンポン)
玄関先のチャイムが鳴り、約束していた客人が到着したことを告げる。
麻紀は慌てずシャワーを止め、タオルを羽織るようにして応対する。
「来たわよ!麻紀」
少女 莉亞の声が弾む。
「うん、さ、2階の私の部屋で待ってて」
続けて、少年 だいごと少女 手鞠も部屋に上がり込む。
麻紀はシャワーで洗った小石を専用のタオルで拭き、バケツに入れた石を部屋に並べて飾る。
「お待たせ」
莉亞が興奮気味に告げる。
「じゃあ、これより私たちの『野花コレクターマニアの会』を開催するわよ」
「「「おお!」」」
麻紀たちが開くのは、誰にも理解されない趣味の世界。
莉亞はペットボトルの蓋、だいごはゲームソフトの説明書、手鞠は名前入りの判子を披露する。
互いに理解されない孤独感を抱えていた彼らだが、同じ趣味を共有する仲間がいることで、内面の喜びが爆発する。
麻紀はふと、石にまつわる奇妙な話を思い出す。
その場で披露することにした――
⸻
「2」
ーー「黒須橋付近の川辺」ーー
「よいしょ、よいしょ……」
28歳の青年 石田石尾は、橋の下で石を拾い集めていた。
根っからの石コレクターで、休日の日曜日は必ずここに来る。
川辺の石をひとつずつ手に取り、形や色を確認する。
その時、光を反射して奇妙に輝く石が目に入った。
「ん?……お、笑ってる?」
手に取ると、それはおにぎりほどの丸い石で、微かに口角を上げ、まるで笑っているようだった。
「珍しい……持ち帰って飾ろう」
夕陽が川面を朱に染める中、石尾は帰宅することにした。
⸻
ーー「石田家」ーー
「ただいま」
居間に入ると、母親が出迎える。
「あら、おかえりなさい」
だが、母の顔には妙な笑みがあった。
「うぉ!?なんだよ……その顔」
気にせずバケツの石を洗い始める。
笑う石を洗うと、母の顔に似ていることに気づくが、当時は深く考えなかった。
石を拭き、ひとつずつ部屋に並べる。
その中でも、笑う石は目立つ場所に飾った。
昔は化石を集めていたが、川辺で偶然見つけた美しい丸石に心を奪われ、それ以来、石コレクターとしての道を歩むことになった。
将来は自分のコレクションで博物館を開くのが夢だ。
⸻
ーー「食卓」ーー
「いただきます」
父、母、石尾の3人で夕食を囲む。
だが、両親の顔には不気味な笑みが浮かんでいた。
「なんかいいことあったのか?その顔」
「はぁ?別に」
母は味噌汁をすすりながら笑みを絶やさない。
石尾は食欲を失うが、何とか食事を終える。
就寝後も、あの笑みは夢にまで現れた。
⸻
「3」
翌日、出勤しようと玄関を出ると、通行人も学生も、皆、笑みを浮かべている。
(アハハハ)
頭の中に、耳元に、笑い声が響く。
(アハハハ)
恐怖に駆られた石尾は会社を欠席し、部屋に引きこもる。
金縛りに遭った夜、瞼の奥で微かに動くものを感じた。
目を開けると――
天井に、背を向けながら笑みを浮かべる自分自身がいた。
「うわああああああ!」
原因を探ると、あの笑う石であることに気づく。
慌てて石を持ち、川辺まで投げ捨てるが……
⸻
「4」
何度投げ捨てても、石は部屋に戻る。
ゴミ捨て場に捨てても、遠くの公園に捨てても、石は嘲笑うかのように戻ってくる。
石尾は決意した。
――粉々にして破壊するしかない。
ホームセンターで金槌を購入し、机の上で笑う石を叩き割る。
「やった!」
だが、割れた石から瘴気が溢れ、石尾の口に流れ込む。
突然、彼の体は震え、笑いが止まらなくなる。
息はできず、体は苦しみに耐えながら、永遠に続くかのような爆笑の渦に飲み込まれる。
意識は次第に遠のき……
⸻
ーー「葬式会場」ーー
石尾の棺の中で、遺体は不気味に笑いながら横たわっていた。
参列者も皆、笑みを浮かべ、微かに笑い声が響く。
それはまるで、笑う石そのもののようだった。
⸻
「5」
麻紀の部屋に戻る。
怪異談の披露後、ちょっとしたおやつパーティで幕を閉じた。
しかし、石の整理をしていると、見慣れない石があった。
石から覗く小さな顔は、ニヤリと笑う。
頭の中に「ぐげげげ」と笑い声が響く。
麻紀は公園に捨てたが、後日、公園から不気味な笑い声が聞こえたという――
⸻
笑ゥ石 完
真夏の残暑がようやく遠ざかり、肌寒さを感じる秋の夕暮れ。
蝉の合唱は消え、かわりに鈴虫のかすかな音色が夜の静寂を埋める。
休日の昼下がり、橋の下の川辺でひとり、青いバケツを抱えながら石を拾う少女がいた。
彼女の名は 小石麻紀。
名前の通り、小石マニアで、奇妙な形や色の小石を探し集めるのが趣味だった。
川辺に落ちている石をひとつひとつ手に取り、観察し、納得のいくものだけをバケツに入れていく。
麻紀の目は真剣そのものだった。小さな石の凹凸や、光の反射、微妙な色の濃淡を見逃さない。
ある程度集め終えると、麻紀は満足そうに帰路につく。
⸻
ーー「小石家」ーー
「ただいま」
麻紀は戦利品を抱え、浴室へ向かう。
ひとつずつ丁寧にシャワーで洗い流し、泥や砂を落とす。
(ピンポン)
玄関先のチャイムが鳴り、約束していた客人が到着したことを告げる。
麻紀は慌てずシャワーを止め、タオルを羽織るようにして応対する。
「来たわよ!麻紀」
少女 莉亞の声が弾む。
「うん、さ、2階の私の部屋で待ってて」
続けて、少年 だいごと少女 手鞠も部屋に上がり込む。
麻紀はシャワーで洗った小石を専用のタオルで拭き、バケツに入れた石を部屋に並べて飾る。
「お待たせ」
莉亞が興奮気味に告げる。
「じゃあ、これより私たちの『野花コレクターマニアの会』を開催するわよ」
「「「おお!」」」
麻紀たちが開くのは、誰にも理解されない趣味の世界。
莉亞はペットボトルの蓋、だいごはゲームソフトの説明書、手鞠は名前入りの判子を披露する。
互いに理解されない孤独感を抱えていた彼らだが、同じ趣味を共有する仲間がいることで、内面の喜びが爆発する。
麻紀はふと、石にまつわる奇妙な話を思い出す。
その場で披露することにした――
⸻
「2」
ーー「黒須橋付近の川辺」ーー
「よいしょ、よいしょ……」
28歳の青年 石田石尾は、橋の下で石を拾い集めていた。
根っからの石コレクターで、休日の日曜日は必ずここに来る。
川辺の石をひとつずつ手に取り、形や色を確認する。
その時、光を反射して奇妙に輝く石が目に入った。
「ん?……お、笑ってる?」
手に取ると、それはおにぎりほどの丸い石で、微かに口角を上げ、まるで笑っているようだった。
「珍しい……持ち帰って飾ろう」
夕陽が川面を朱に染める中、石尾は帰宅することにした。
⸻
ーー「石田家」ーー
「ただいま」
居間に入ると、母親が出迎える。
「あら、おかえりなさい」
だが、母の顔には妙な笑みがあった。
「うぉ!?なんだよ……その顔」
気にせずバケツの石を洗い始める。
笑う石を洗うと、母の顔に似ていることに気づくが、当時は深く考えなかった。
石を拭き、ひとつずつ部屋に並べる。
その中でも、笑う石は目立つ場所に飾った。
昔は化石を集めていたが、川辺で偶然見つけた美しい丸石に心を奪われ、それ以来、石コレクターとしての道を歩むことになった。
将来は自分のコレクションで博物館を開くのが夢だ。
⸻
ーー「食卓」ーー
「いただきます」
父、母、石尾の3人で夕食を囲む。
だが、両親の顔には不気味な笑みが浮かんでいた。
「なんかいいことあったのか?その顔」
「はぁ?別に」
母は味噌汁をすすりながら笑みを絶やさない。
石尾は食欲を失うが、何とか食事を終える。
就寝後も、あの笑みは夢にまで現れた。
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「3」
翌日、出勤しようと玄関を出ると、通行人も学生も、皆、笑みを浮かべている。
(アハハハ)
頭の中に、耳元に、笑い声が響く。
(アハハハ)
恐怖に駆られた石尾は会社を欠席し、部屋に引きこもる。
金縛りに遭った夜、瞼の奥で微かに動くものを感じた。
目を開けると――
天井に、背を向けながら笑みを浮かべる自分自身がいた。
「うわああああああ!」
原因を探ると、あの笑う石であることに気づく。
慌てて石を持ち、川辺まで投げ捨てるが……
⸻
「4」
何度投げ捨てても、石は部屋に戻る。
ゴミ捨て場に捨てても、遠くの公園に捨てても、石は嘲笑うかのように戻ってくる。
石尾は決意した。
――粉々にして破壊するしかない。
ホームセンターで金槌を購入し、机の上で笑う石を叩き割る。
「やった!」
だが、割れた石から瘴気が溢れ、石尾の口に流れ込む。
突然、彼の体は震え、笑いが止まらなくなる。
息はできず、体は苦しみに耐えながら、永遠に続くかのような爆笑の渦に飲み込まれる。
意識は次第に遠のき……
⸻
ーー「葬式会場」ーー
石尾の棺の中で、遺体は不気味に笑いながら横たわっていた。
参列者も皆、笑みを浮かべ、微かに笑い声が響く。
それはまるで、笑う石そのもののようだった。
⸻
「5」
麻紀の部屋に戻る。
怪異談の披露後、ちょっとしたおやつパーティで幕を閉じた。
しかし、石の整理をしていると、見慣れない石があった。
石から覗く小さな顔は、ニヤリと笑う。
頭の中に「ぐげげげ」と笑い声が響く。
麻紀は公園に捨てたが、後日、公園から不気味な笑い声が聞こえたという――
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笑ゥ石 完
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