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蜂黒須怪異談∞X∞
0059話「正狩正夢」
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「1」
北山正夢(きたやままさゆめ)は、旅先で「骨董品屋の奥から見つけた」という得体の知れない刀を手に入れて帰ってきた。
黒檀の柄に青い紋が彫られた、どこか禍々しい雰囲気の短剣。
だが正夢は得意げにそれを高校の教え子たちに披露していた。
「どうだ。これ、江戸時代の“処刑刀”らしいぞ。見るからに切れそうだろ?」
高校の教室ではなく、正夢の自宅。一軒家の一室には、三人の女子高生がいた。
鬼村星華(おにむらせいか)、鐘技友紀(かねわざゆき)、多喜谷アリサ。
友紀とアリサは、正夢が配ったまんじゅうを頬張っていたが、星華だけは妙な違和感を覚えていた。
魔剣の表面が、青白く脈動して光ったように見えたのだ。
だが正夢も彼女たちも、そのまま笑い合い、夜は更けていった。
――それが、「現実の終わりの始まり」だったとも知らずに。
⸻
「2」
その晩から、鬼村星華は異様な悪夢にうなされる。
夢の中で、真っ暗な空間に誰かが立っている。
顔は見えない。ただ、手にはあの短剣を持っていた。
そして、星華の目の前でクラスメイトたちが、無音のまま首を落とされていく。
斬られた瞬間、彼らの輪郭は歪み、砂のように崩れて消える。
翌日――。
夢で見たクラスメイトが、本当に姿を消していた。
転校でも退学でもない。「誰も、その人物を覚えていない」。
だが星華は確かに記憶している。名前も、顔も、声も。
消されたのだ。夢の中で、正夢に斬られて。
一方の正夢本人は、学校を休みがちになり、頬がこけ、目の下に濃い隈を浮かべていた。
「眠れないんだ。最近……ずっと同じ夢を見る。誰かが俺の中に入ってきて……俺の手を勝手に動かしてくる」
そう言い残し、彼は姿を消す。
⸻
「3」
ある夜、星華は夢の中で正夢に遭遇する。
血のような空、浮遊する教室の椅子、逆さになった黒板。
そこで、正夢は魔剣を振りかざしていた。
「お前も、見てしまったんだな。……“正狩”の夢を」
その言葉の意味を理解する前に、剣が振り下ろされた。
斬撃は星華の肩を貫いたが、痛みはなかった。
――目覚めたのは、病院のベッドだった。
そこには、夢で“消えた”はずのクラスメイトたちがいた。
全員、眠ったままの状態で同じ病室に収容されていた。
医師は言う。「原因不明の昏睡症状」だと。
⸻
「4」
星華は気づく。
夢で魔剣に斬られた者は、そのまま現実から消える。だが、肉体は病室に封じられている。
つまり、“夢の世界”が彼らの今の現実になっているのだ。
そして正夢自身も、魔剣に取り憑かれて夢の世界に囚われ、狂気と戦いながら、毎晩そこをさまよっていた。
彼の行為――それはただの殺戮ではない。
「夢の異界に囚われた者を斬り、現実に送り返す」ための儀式だった。
ただし、魔剣は、代償を求めた。
使うたびに、斬るたびに、正夢の心を削り取り、人格を蝕んでいった。
そして――最後の夜。
夢の世界で、星華は再び正夢と対峙する。
彼の目はもう、人間のそれではなかった。
「俺はもう、戻れない。だから……お前がやれ」
そう言って正夢は、自らの腹を斬った。
魔剣は、宙を舞い、星華の手の中へと吸い込まれていく。
⸻
「5」
夢から醒めた星華は、気づく。
彼女の右手に、あの魔剣が存在していた。
そして、星華の視界に映ったのは、
未だ眠ったままのクラスメイト数名――救われていない者たち。
その夜から、星華もまた「夢の狩人」となる。
“正狩正夢”の意志を継ぎ、魔剣に魅入られながらも、夢の世界を巡り続ける。
夢に落ちた者を斬るために。
夢の深淵を歩むために。
夢が現(うつつ)を侵すその先で――彼女は何を斬り、何を守るのか。
正狩正夢 完
北山正夢(きたやままさゆめ)は、旅先で「骨董品屋の奥から見つけた」という得体の知れない刀を手に入れて帰ってきた。
黒檀の柄に青い紋が彫られた、どこか禍々しい雰囲気の短剣。
だが正夢は得意げにそれを高校の教え子たちに披露していた。
「どうだ。これ、江戸時代の“処刑刀”らしいぞ。見るからに切れそうだろ?」
高校の教室ではなく、正夢の自宅。一軒家の一室には、三人の女子高生がいた。
鬼村星華(おにむらせいか)、鐘技友紀(かねわざゆき)、多喜谷アリサ。
友紀とアリサは、正夢が配ったまんじゅうを頬張っていたが、星華だけは妙な違和感を覚えていた。
魔剣の表面が、青白く脈動して光ったように見えたのだ。
だが正夢も彼女たちも、そのまま笑い合い、夜は更けていった。
――それが、「現実の終わりの始まり」だったとも知らずに。
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「2」
その晩から、鬼村星華は異様な悪夢にうなされる。
夢の中で、真っ暗な空間に誰かが立っている。
顔は見えない。ただ、手にはあの短剣を持っていた。
そして、星華の目の前でクラスメイトたちが、無音のまま首を落とされていく。
斬られた瞬間、彼らの輪郭は歪み、砂のように崩れて消える。
翌日――。
夢で見たクラスメイトが、本当に姿を消していた。
転校でも退学でもない。「誰も、その人物を覚えていない」。
だが星華は確かに記憶している。名前も、顔も、声も。
消されたのだ。夢の中で、正夢に斬られて。
一方の正夢本人は、学校を休みがちになり、頬がこけ、目の下に濃い隈を浮かべていた。
「眠れないんだ。最近……ずっと同じ夢を見る。誰かが俺の中に入ってきて……俺の手を勝手に動かしてくる」
そう言い残し、彼は姿を消す。
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「3」
ある夜、星華は夢の中で正夢に遭遇する。
血のような空、浮遊する教室の椅子、逆さになった黒板。
そこで、正夢は魔剣を振りかざしていた。
「お前も、見てしまったんだな。……“正狩”の夢を」
その言葉の意味を理解する前に、剣が振り下ろされた。
斬撃は星華の肩を貫いたが、痛みはなかった。
――目覚めたのは、病院のベッドだった。
そこには、夢で“消えた”はずのクラスメイトたちがいた。
全員、眠ったままの状態で同じ病室に収容されていた。
医師は言う。「原因不明の昏睡症状」だと。
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「4」
星華は気づく。
夢で魔剣に斬られた者は、そのまま現実から消える。だが、肉体は病室に封じられている。
つまり、“夢の世界”が彼らの今の現実になっているのだ。
そして正夢自身も、魔剣に取り憑かれて夢の世界に囚われ、狂気と戦いながら、毎晩そこをさまよっていた。
彼の行為――それはただの殺戮ではない。
「夢の異界に囚われた者を斬り、現実に送り返す」ための儀式だった。
ただし、魔剣は、代償を求めた。
使うたびに、斬るたびに、正夢の心を削り取り、人格を蝕んでいった。
そして――最後の夜。
夢の世界で、星華は再び正夢と対峙する。
彼の目はもう、人間のそれではなかった。
「俺はもう、戻れない。だから……お前がやれ」
そう言って正夢は、自らの腹を斬った。
魔剣は、宙を舞い、星華の手の中へと吸い込まれていく。
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「5」
夢から醒めた星華は、気づく。
彼女の右手に、あの魔剣が存在していた。
そして、星華の視界に映ったのは、
未だ眠ったままのクラスメイト数名――救われていない者たち。
その夜から、星華もまた「夢の狩人」となる。
“正狩正夢”の意志を継ぎ、魔剣に魅入られながらも、夢の世界を巡り続ける。
夢に落ちた者を斬るために。
夢の深淵を歩むために。
夢が現(うつつ)を侵すその先で――彼女は何を斬り、何を守るのか。
正狩正夢 完
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