DARK MEN

闇の男

誕生前

《この世の中は腐っている》
そう思う者は少なくないはずだ。
金、権力、酒、薬物、女。
それらの欲望がヒトを腐らせ、世を腐らせる。
もうこんな世界で住むのなんかうんざりだ。





だから、終わらせる。
これは俺がそう決意する前の話だ。






『クリス様！起きてください！』
甲高く、元気のいい女性の声で、一人の男が目を覚ます。彼の名はクリス。大手製薬会社【CURE】の社長であり、どんな病気にも効くという薬【CLEAN】を開発した男である。
『待てよセリーナ…まだ後5分寝る予定だ…』
『いいえ！予定では10分前に起きていらっしゃいます！』
彼女の名はセリーナ。クリスの付き人である。セリーナの家は代々ブラウン家、つまりクリスの家の付き人であり、クリスとセリーナは幼少期からの仲である。
『セリーナ…それは君が決めた予定だろ？僕の予定とは違うのさ。後5分だ。』
『クリス。起きないのなら、昔みたいに引っ叩くわよ。今はもう怒る人もいないわ。思いっきりするわよ！』
『ハハハッ、セリーナ。君はいつの話をしてるんだい？今じゃ僕のほうが強いし、君なんかに叩かれたって…』
パチン!!!
大きな音が鳴った。街中に響いてもおかしくないほど大きく、気持ちのいい音が。それと同時にクリスは頭を抑えて、ベットの上で小さく、丸くなった。
『痛いじゃないか！ほら！少し盛り上がってる！腫れてるよ！』
『私は先に警告しました。クリス様が無視しただけです。さっ、起きてください！』
『全く。急に付き人らしくしやがって。いいよ。もう寝る気も失せた。』
クリスは起き上がり、顔を洗い、セレーナが作った庶民的な朝食を食べた。

《2016年2月16日。俺が変わる一日前。会社にとって大事な日。しかし、俺にとってはただの一日だった。》